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SAO Future Lab

第4回

わずか4秒で全身スキャン!SAOの世界観に斬り込む「瞬X」

ASCIIとベンチャーによる『ソードアート・オンライン』コラボプロジェクトである「SAO Future Lab」の製品企画検討企業が選定された。今後、各社と協力しながら企画が展開していくことになるが、今回は選定企業の中から、「株式会社VRC」を取り上げる。インタビューを通じ、提供サービスやSAOとのコラボ企画の可能性について探っていく。

撮影時間約4秒、3分以内で3Dモデリングが可能なスキャンシステム

 株式会社VRCは、八王子にオフィスを構えるベンチャー企業。創業者が培った高度な画像処理技術をベースとした、人体高速3Dスキャナーシステムを提供している。「瞬X」と呼ばれるそのシステムでは、人体の全身3Dスキャンを、撮影時間わずか4秒、3Dモデリングも3分以内で終了するという、圧倒的なスピードが大きな特徴となっている。

 撮影装置は約6平方メートルの面積に設置できるほどのサイズで、中央付近に人物が立つと、装置の外周付近でカメラが高速に回転移動し撮影が行われる。撮影には、複数のデジタル一眼レフカメラや赤外線センサーなどを利用し、約2mの高さのものまでスキャンが可能だ。撮影時間はわずか4秒間のため、被写体に求められる静止時間は非常に短く、被写体となる人の負担も非常に少ない。

 そして、3Dモデリングデータは人体のデータで約100万ポリゴン単位ほどという非常に緻密なデータとして作成される。簡易的な3Dスキャンとは次元の異なる高品質な3Dモデリングデータが生成されるため、高品質なフィギュアの作成はもちろん、ヘルスケアや医療、ファッション分野など、幅広い用途への活用が期待されている。

VRCの戸田達昭取締役兼CMO

 今回、体験とともに話をうかがったのは、VRCの取締役兼CMOの戸田達昭氏。山梨大学大学院在学中に起業した、山梨県初の学生起業家で、卒業後にバイオベンチャー企業「シナプテック株式会社」を設立。その傍ら、起業・創業分野にも力を入れており、VRCにも取締役兼CMOとして関わっている。

 戸田氏は、もともと『ソードアート・オンライン』の世界観に惹かれていたそうで、アニメや映画もすべて見ている、根っからのSAOファンだ。そして、SAOのような世界は将来絶対来ると考えていて、実際にゲームと連動させてリアルとバーチャルを連動させるような何かができないか、ということも考えていたという。VRCに関わるきっかけも、創業者が八王子で全身3Dスキャナーを展示しているのを見て、面白いなと思ったところからだという。

 ここからは、戸田氏へのインタビューを中心にVRCが持つ可能性を紹介していこう。

あまりにもリアル過ぎて気持ち悪いスキャンデータ

――本企画「SAO Future Lab」では、実際の商品につながるものがコラボの基本ではあるのですが、非常に面白い技術を紹介するだけでも意味があると思っています。SAOに関連させると、作中に出てくるナーヴギアのように自らをスキャンしてアバターができ上がるといった部分などは、実際に体験ができると面白そうですね。

戸田氏(以下、敬称略):そうなんです、それをやりたいんですよ! 実際にイベントなどでブースを作って、スキャンしたデータにコスチュームを重ね合わせて、といったことはやりたいと考えています。あとは、コスプレイベントなどでコスプレイヤーのスキャンサービスなどもやってみたいです。海外のコスプレイヤーは、日本のコスプレイヤーがどういったディテールのコスプレをやっているのか、細かくチェックしたいんだそうです。ですので、そういった人に向けて、コスプレイヤーが自身をスキャンしてデータ化し提供するというのは、かなりニーズがあると考えています。少なくとも、SAOとは世界観も含めて相性が非常に高いと考えています。

――VRCのソリューションとして、一番の売りになるのは何でしょう。やはり3Dスキャンの高速性でしょうか。

戸田:創業から1年未満ですが、VRCは装置メーカーではなく、画像処理や、そのデータをどう扱うか、ということを重視しています。もちろん特定のマーケットをターゲットにするかによって変わってくると思いますが、3Dレプリカをやるとなると、高速に3Dスキャンが行えるという部分は重要だと思っています。とはいえ、実のところこういった分野は、生産性をイメージしづらいんですよね。たとえば、自身の姿を3Dで取り込んでゲームで楽しんでもらうだけ、というのでは限界があると思っています。もっと新しい世界観を作り出すという意味では、既存のデータから何かのサービスを提供するというのではなくて、そのデータを作り出せるという部分に大きな可能性があると思っています。

――ということは、さまざまな3Dデータを作成して、そのデータをプラットフォームとして持ち、さまざまな用途に活用していければ、ということでしょうか。

戸田:そうですね。現状ではまだ難しいかもしれませんが、ヘルスケア業界などは可能性があると考えています。ただ、作成したデータは万能ではないと思っていて、それをいかに適正な場所に持っていけるか、というところが重要です。私は当社に投資をする形で参画しているのですが、投資家の観点からみるとVR分野は定まったゴールが見えにくい分野ではあります。ただ、やっていかないといけないと思っていますし、チャレンジングな領域という意味では興味深いと思っています。

撮影自体は一瞬で終了

作成された3Dデータは編み目の違いからしわまでしっかり再現されていた

――先ほど、全身3Dスキャナーを体験させてもらいましたが、スキャンのスピードが速くて、しかもでき上がるデータが非常にリアルでびっくりしました。この全身3Dスキャナーは2016年のCEATECで展示されましたが、そちらでも評判は良かったのでしょうか?

戸田:そうですね、評判はとても良かったです。実際にでき上がるデータが、あまりにもリアルで、初めて自分の360度を見る人にとっては非常に新鮮で、いろんな意味でかなり興味を持ってもらいました。

――そもそも人体を3Dスキャンすることのメリットって、どういった部分にあるのでしょうか。

戸田:たとえば、ゲームの世界で考えると、自分の姿が3Dで撮れるのは面白いかもしれませんが「自分自身の姿で戦うとなるとどうなるんだろう?」と考えています。データの目や鼻などを修正するとなると、画像処理の世界になりますので、よりゲームとの親和性は高くなるかなと思っています。一方で、現時点の技術でヘルスケア分野へ持っていくとなると、裸に近い状態でスキャンする必要がありますが、CTなどのデータと合わせることで、外観しかわからなかったものが身体内部まで直感的に見えるようになります。そういった分野と協業して、社会的に貢献していきたいと思っています。

「瞬X」で撮影した3Dデータは、連携アプリから、モデルの閲覧や手足に自動で入ったボーンによるポーズの調整ができる

――そうなると、着せ替えのようなものは簡単に実現できるんでしょうか。たとえば、スーツを着ている姿でスキャンしたとして、違う服装に替えたりとか。

戸田:もちろん可能です。近い将来、着せ替えは我々狙おうとしているアプリケーション中の一つで、アパレル以外に先ほど言及のゲームなどの分野にも幅広く展開していけばと思いますね。

「何に使うのか」が見えれば、一気に世界が変わる

――VRCの創業は2016年5月ということで、まだ創業から1年経過していません。その間にハードやソフトをそろえ、CEATECに出展するなど、展開スピードが早く感じます。

戸田:はい。会社の成り立ちは、創業者(代表取締役社長の謝英弟 シェー・インディー氏)が元々画像処理の事業をやっていまして、当社(VRC)はその元々持っていた技術の中からVR分野だけを抜き出して、技術的なバックグラウンドがしっかりある状態で立ち上げたわけです。展開については、独自の技術を磨きつつ世界観を作り出していく一方で、お客様と共に世界観を作っていくことが大切だと考えています。

 技術系のベンチャーにありがちな“技術はあるけれど、それをどう活かすかわからない”、では困りますので、お客様に「すごい」と言っていただける先に、「何に使うのか」、ということをもっと多くの方々とディスカッションさせていただきながら方向性を見出していきたいと考えています。

 現時点では、フィギュアを作ったり、ゲームへの投入、ヘルスケアやフィッティングに活用するというところが見えていますが、これから世界観をどう作っていけるか、という部分にもっと力を入れていきたいと思っています。可能性はいくらでもあると思っていますので、異分野の方達の意見も取り入れていきたいと思っています。

――VRCとして、将来はVRやこういった3Dスキャナーが街中に普通に存在する、といった世界のようなものを考えているんでしょうか。

戸田:はい、そうです。ただ、そこが最終目標としたら、まだ距離がありますよね。じゃあ入り口はなにかというと、VRを身近に体験してもらうということですね。そして、そのもっと前として、”VRの見える化”ということで、全身を3Dスキャンしてデータをダウンロードできるというサービスを行っています。個人で気軽に3Dスキャンを楽しもう!という世界観は現時点ではまだハードルは高いと思っています。

 CEATECのように興味のある方々が集まる場所ではかなりの数のスキャニングを行えたのですが、八王子市内で一般の方向けに全身スキャンのサービスをやってみたところ、単に装置を置いておくだけでは自発的に撮ろうとする方は少なく、スタッフによる丁寧な説明やモデルさんが撮影をするところ見ることで興味を示す人が出てきた感じでした。今後は多彩な世界観を作りつつ、設置場所やPRの工夫含めてどのように一般化させていくか、というところに取り組んでいけたらと思っています。

3DスキャナーSHUN’X

――事業的には国内だけでないグローバル展開の可能性もありますね。

戸田:もちろん考えています。創業者が中国出身ですし、日本国内のみならず、同時に海外展開も両輪で計画を進めています。ただ、技術はコモディティー化していきます。現在は我々が先行していますが、絶対追いつかれるものです。ですので、早めに世界観を作り上げて、少しでも知ってもらって先行したいと思っています。

――本日は、どうもありがとうございました。

VRCの謝英弟代表取締役社長(中央)と、戸田達昭取締役兼CMO(右)

 3Dスキャンサービスは数多あり、3Dプリンターを利用したフィギュア作成サービスなどは多い。だがたった4秒で全身を高解像な形で行うベンチャーであるVRCの技術はほかにはない突出したものとなっている。また、3D系のサービスはAR/VR機器との相性もいい。GoogleのAR技術「Tango」、Intelの3Dカメラ技術「リアルセンス」、さらにはマイクロソフトの「HoloLens」など、既存のハードをからめて、SAOに関連する何らかの体験が実現しても面白いだろう。今後、VRCとしては開発環境を提供した形での利用を拡大する考えもある。「何に使うのか」が見えたときこそ、同社の真価が問われてくる。

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