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安倍首相のエストニア訪問で高まる機運、日本が電子国家に向けて本格始動

2018年02月15日 09時00分更新

画像|euronews.より

 インターネット、クラウド、人工知能などデジタルテクノロジーの発展と普及は世界の変化スピードを加速させている。デジタルテクノロジーをうまく取り込んだ国は、これまでとは異なる発展経路を辿り、猛烈な勢いで変化・成長を遂げている。

 そのような状況下で、かつて世界2位の経済大国であった日本の地位や影響力は相対的に弱まっている。少子高齢化や人口減少にも歯止めがかからず、この先さらに国力が衰退していくことも考えられる。

 変化スピードが加速する世界で日本が生き残っていくためには、デジタルテクノロジーをフル活用することが必要不可欠といえるだろう。

「世界最先端の電子国家」と呼ばれるエストニア。この国からデジタルテクノロジーの活用に関してどこまで学べるのか。日本の将来を大きく左右するファクターとなり得る。

 2018年1月の安倍晋三首相が東欧6カ国歴訪のなかでエストニアを訪れ、日本とエストニアの二国間関係強化に言及したことは日本の電子国家化に向けた大きな一歩となるだろう。日本とエストニアの関係がどのように発展していくのか展望してみたい。

政府レベルで合意、日・エストニアの協力関係促進へ

画像|euronews.より

 今回、安倍首相のエストニア訪問で、二国間関係について大きく4つの協力分野が話し合われた。

 1つは両国間における経済・投資の促進についてだ。2017年8月に両国が署名した日・エストニア租税条約の早期発行に向けた手続き、そして企業ミッション派遣などに関して議論されたようだ。租税条約は、脱税・租税回避行為の防止だけでなく、二重課税を排除することを目的としており、両国間の投資・経済交流を促進するものと期待されている。

 2つ目は、ワーキングホリデー制度の導入など二国間の人材交流について議論された。現在、日本からエストニアを訪れる観光客は年間10万人に上るとされているが、さらに深いレベルでの交流を促進する考えだ。ちなみにエストニアの在留法人は2016年10月時点で130人いるとされている。一方在日エストニア人は560人。元力士で、現在タレント兼格闘家として活躍する把瑠都凱斗(バルト・カイト)氏はエストニア出身である。

 3つ目は、エストニアが強みを持つサイバー防衛分野で意見交換がなされた。日本とエストニアは、2014年、15年、17年に政府間のサイバー協議を実施しているが、この分野の協力関係をさらに強めていくことで合意した。日本は、エストニアに拠点を置くNATOサイバー防衛協力センターへの参加が承認されており、今後日本のサイバー防衛能力の進展が期待されている。

 4つ目は、日本とバルト三国における協力関係に関して議論され、「日バルト協力対話」が創設されることが決まった。日本は外交において北欧・バルト地域を重視しており、エストニアの周辺国ともイノベーション促進などで協力を深める方針だ。フィンランドはエストニアとデータ貿易を開始、ラトビアではスタートアップシーンが盛り上がっており、各国それぞれが「点」としてだけでなく北欧・バルト三国という「面」での活況を見せる地域だ。

スタートアップなど民間が先行する、日・エストニア間の連携

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 政府レベルで二国間関係が深まろうとしているなかで、民間レベルではデジタルテクノロジー活用に関してさまざまな取り組みが先行して実施されている。

 エストニアでは行政サービスの99%がデジタル化されている。これを可能にしている屋台骨がデータ連携プラットフォーム「X-Road」だ。エストニアでは、5万2000以上の機関がこのプラットフォームに接続されており、ありとあらゆるデータをセキュアにやり取りし、ペーパーレスの行政サービスを提供している。これにより、エストニアでは毎年800年分に相当する労働時間を節約している。

 この「X-Road」を民間企業向けに独自開発し、日本で提供しているのがプラネットウェイだ。米国、日本、エストニアに拠点を置くグローバルスタートアップである同社だが、現在福岡エリアでプラットフォームを活用した医療と保険データ連携の実証実験を昨年に終了し、現在多様な領域への水平展開を模索中である。

画像|euronews.より

 安倍首相のエストニア訪問に同行したプラネットウェイ代表の平尾憲映氏は、地元メディアの取材に「弊社は、エストニアと日本のハイブリッド企業。エストニアで開発されたテクノロジーをカスタマイズして日本で使っている」と述べ、テクノロジーを軸にしたエストニアと日本の連携の可能性を強調。また「世界はいま、すべてのものがデジタル化され、つながるべきだと気付き始めている。この状態を実現しているのがエストニア。だからこそエストニアとのコラボレーションが最善の選択肢」と付け加えた。

 プラネットウェイだけでなく、エストニアの優位性を武器にビジネス展開する日本企業は増えているようだ。

 エストニアには電子居住制度「e-residency」がある。この制度を活用した起業が増えているのだ。

 2014年に開始された「e-residency」は、オンライン上でエストニアの電子住民となれる制度。海外に住みながらエストニアで会社を設立し、銀行口座を開設することが可能。この制度を活用し世界中の起業家がエストニアで起業しているのだ。安倍首相もエストニアの電子住民に登録されている。

 日本からの「e-residency」への申請数は現時点で800件。また電子住民となりエストニアで新たに起業した日本人は46人だ。電子住民となればエストニアのスタートアップコミュニティーにアクセスすることも可能となり、投資家やエンジニアとのネットワークを広げることができる。

 またエストニアでは、さらに多くの起業家を呼び込むために「スタートアップビザ」の発行を開始。欧州域外の起業家を対象にしたもので、電子住民ではなく、実際にエストニアに住むことが可能となる。

 こうした制度を活用し欧州での事業展開を狙う日本のスタートアップは今後増えていくと考えられる。政府レベルでの連携強化も見込まれるため、電子政府、セイバーセキュリティー、ブロックチェーン、人工知能など分野を横断した多様な取り組みも増えていくはずだ。

 日本がこの機会を活用し、社会のデジタル化をどこまで進められるのか、今後の進展に注目していきたい。

細谷元( Livit

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