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シュールな世界観で考察や大喜利ネタなども派生:

肉体系バーチャルYouTuber「げんげん」なぜ人気

2018年01月26日 17時00分更新

バーチャルYouTuber「げんげん」。チャンネル登録数は2万2000を突破している

 近ごろ話題のバーチャルYouTuber。見た目のあでやかな美少女キャラが人気ですが、坊主頭に筋骨隆々の青年を模した外見ながら注目を集める、異色の存在がいます。その名は「げんげん」。

 げんげんのハンドルネームで活動する肉体系バーチャルYouTuber、源元気。1月25日には最新作「脳トレをするげんげん」がアップされています。

 初投稿は、1月7日の「げんげん初めての動画投稿ヽ( ´▽)ノ」。しばらくは埋もれた存在だったものの、チャンネル登録数は1月20日に1万人、24日に2万人を突破する、強烈な伸びを記録しています。



 アップロードした動画は5本(1月26日現在)。どれも再生時間は2分にも満たず、自己紹介と、近況を語るだけ。なぜ、じわじわと人気を集めているのでしょうか。彼が投稿した動画を振り返ってみましょう。

 第1作目は、はじめて撮影・投稿した動画(という設定)らしく、野球部に所属する青年だと語る、字幕もなしの撮って出しの内容。「買い食い禁止、炭酸禁止、チャリ通禁止、髪伸ばすの禁止」のきびしい部則がありながら、帰りにコンビニで肉まんを食べていることをポロッと言ってしまうなど、「初々しいYouTuberを模しているのだろうか」と思わせるものになっていました。

 しかし第2作目「げんげんの今年の抱負!」では、あきらかに共産圏を想起させる部屋と服装で、いきなり「今年は2018年 第三次世界大戦 終結30周年 なんやってな」と挨拶をぶちかまし、視聴者を驚かせました。彼の発言によるとネット規制がかかっているそうで、裏技で国外ネットを使わないとYouTubeにアクセスできないらしく、やり方を教えてくれた“同志”は密告され捕まってしまったとか。どういう世界観なの? というか野球部じゃなかったの? 前作からあまりにも激変した設定は、見た人の頭に大量のクエスチョンマークを残しました。



 続く第3作目は「山奥のペンションに閉ざされたげんげん」なる内容。彼がペンションにスキー旅行に来たところ、利用客の1人が何者かに殺されてしまったというのですが、「殺人鬼がいるかもしれないのにみんなと一緒にいられない」とのたまい、オーナー(女性)と殺された男が口ゲンカをしているところを見た、現場で女物のピアスを拾った……などと、いわゆる死亡フラグを連立。最後は「オーナーが食事を部屋に持ってくる」ところで動画が切られる、衝撃の内容だったのです。



 ここにきて視聴者は、げんげんが投稿する動画は、それぞれ設定や世界観が異なるスタイルになっていることに気づきました。さらに、3作目の「どう考えてもこのあと悲劇的なことが起こる」ことが示唆される内容から、「実は過去の動画においても、撮影後、げんげんが不幸な目に遭ってしまうのでは?」と考察する人々が現れ始めたのです。

 言われてみれば、1作目ではとてもきびしい体育会系の部活動で規則を破っていますし(買い食い)、2作目では規制を突破してYouTubeを見ている始末です。そのことを考慮すると、動画を撮影したあとの彼に、おそろしいことが待っているようにしか思えない。

 動画自体の独創性はもちろんのこと、TwitterやPixivでは、作品の物語上不幸な目に遭うキャラクターや不穏な鬱展開などをパロディー化し、「げんげんです」から始まる語り口で大喜利化したネタが多数投稿されました。そのような流れも手伝って、げんげんの知名度は次第に上がっていったのです。

 徐々に存在が知れ渡っていく中、当の本人は世間で大喜利化されているネタのはるか斜め上をいく、第4作目「魔王げんげんから愚かな人類へ」を1月20日に投稿。「こんにちは!げんげんこと魔王ゲーニッツ=ゲンガッシュバルト29世や。闇の玉座から失礼するで!」という悶絶必至の投稿文と、人類へ降伏を勧める苛烈な内容で、視聴者の度肝を抜きました。もっとも「勇者やのうて外交官なら歓迎やからな」と、勇者に倒されるフラグはしっかり立っています。



 最新作ではついに「人類として新たなステージに進むために肉体の殻を捨てた」と言うげんげん。もっとも、人間としての尊厳を失ってはいけないと言いながら、完全にAIに乗っ取られてしまうように見えなくもないのですが……。



 ちなみに作者は、ネットの生配信やマンガ制作などを手がけるコウノスケ氏。げんげんのメイキング動画も投稿しており、「Live2D Cubism」を利用して2D画像を元にしたアニメーションを作成したことや、使用した合成音声ソフトなどが紹介されています。



 「キズナアイ」や「輝夜月」などの美少女系バーチャルYouTuberが人気を集める中、筋肉質な身体と(第5作目で肉体を捨ててしまいましたが)、並行世界を転生し続けるようなシュールな世界観で、見ているものをトリコにするげんげん。

 もっとワケのわからない、意味不明な作風のYouTuberも、探せばいるでしょう。しかし、アバンギャルドな内容でありながらコンパクトにまとまっている点や、派生ネタを作りやすいスタイルなどは、YouTube、およびSNSでウケるトレンドをきっちりとおさえています。不条理でありながらしたたかでもある、YouTuberの魅惑的な極北といえるかもしれません。


モーダル小嶋

1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。ショートコラム「MCコジマのカルチャー編集後記」ASCII倶楽部で好評連載中!

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