2017年12月01日07時00分

AIで過疎地を救う 過疎地連携経済圏構想に取り組むエルブズの挑戦

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 人口約2800人の京都府相楽郡南山城村。村の近くにはコンビニもなく、高齢化が進むこの村で2016年、ある社会実験が試みられた。

――「田中さん。お買い物のご用事はありますか?」

 タブレットから発せられる機械の音声は、株式会社エルブズが開発した高齢者向けの「御用聞きAI」アプリケーションだ。買い物からバスの運行状況、日々のちょっとした会話まで、人工知能が過疎地に住む高齢者の生活をサポートする。

 エルブズは、システムインテグレーターや受託開発を請け負うTIS株式会社がシードマネーを出資し、2016年2月に大企業ベンチャーとして産声をあげた。コアテクノロジーである社会性を持つAI<社会性エージェント>を軸に、さらには電子マネーや決済に関するFintechで社会課題の解決に取り組んでいる。

 課題先進国といわれる日本で、過疎化、高齢化という2つの地域課題を解決すべく、過疎地をつないで経済圏をつくる「過疎地連携経済圏構想」に挑む株式会社エルブズの田中秀樹代表取締役社長にお話を伺った。

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11月30日に行われた出資に関する記者発表会では、エルブズをバックアップする関係者が集まった。左から、京都府南山城村村長 手仲圓容氏、TIS株式会社取締役常務執行役員 柳井城作氏、株式会社エルブズ代表取締役社長 田中秀樹氏、大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授 石黒浩氏、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社 神保敏明氏。

「コイン」で過疎地をつないで経済圏をつくる過疎地連携経済圏構想

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株式会社エルブズの田中秀樹代表取締役社長

 京都府で唯一の村、南山城村の人口は約2800人。村には銀行もなければATMもない。最寄りのコンビニにおでんを買いに行こうと思えば、車で片道45分の道のりを行かねばならない。南山城村の周辺には笠置町、和束町といった同じような過疎地域がいくつも存在するが、日本全国を見渡せば実に300万人もの人々が過疎地域に暮らしているという。これらの地域は将来的に、経済やインフラの面で他地域との連携が重要になる。

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南山城村のような過疎地域は全国に広がっている

 そこで、株式会社エルブズの田中秀樹社長はこう考えた。「過疎地域をコインでつなげてしまえば大きな経済圏ができあがるのではないか」

 田中氏が「過疎地連携経済圏構想」と呼ぶこの一連のシステムは、冒頭に紹介した「高齢者向けAIアプリケーション」を軸としつつ、さまざまな機能を持つ。たとえばアプリを銀行口座に直結させれば、地域内での買い物の支払いを仮想通貨の「コイン」でできる。その経済圏は、特定の地域だけで終わる想定ではない。

 全国の都市部に約280万人いると言われている富裕層が、節税対策としてふるさと応援寄付金を自治体に納め、それを原資として地域に住まう高齢者にコインを分配する想定だ。アプリを介してコインでの支払いを受けた事業者は銀行で円に換金するのだが、エルブズのビジネスはここで発生する換金手数料によって組み立てられる。

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過疎地連携経済圏構想イメージ(画像提供:エルブズ)

 「どんなに高齢者に役立つ仕組みをつくっても、これが何百万円もしたら誰も使えない。できるだけリーズナブルに使っていただくためにはどうしたらいいか。どこでビジネスを組み立てればいいかをずっと考えてきた」と田中氏。

 シードマネーを出資するTISのコアコンピタンスである金融領域をビジネスにつなげつつ、3年後には売上10億円規模にスケールすること、そして社会課題を解決するという3つの命題がエルブズには課されている。そこから導き出されたのが、過疎地連携経済圏構想だ。

驚きの実績を残したAIアプリとペアリングなしの簡易ブルートゥース決済

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初期実験のイメージ(画像提供:エルブズ)

 過疎地連携経済圏構想のコアとなるのが、冒頭で触れた高齢者向けAIアプリケーションだ。アプリの開発にあたっては、はじめに南山城村の高齢者からヒアリングを行ない、2つの実験を行なった。1つ目は、AIによる生活支援。2つ目は、アプリ搭載端末による決済の実験だ。

 AIによる生活支援の実験としては、京都府の交通政策課とバスロケーションの実験を共同で行なった。廃路線となっていたバス路線に、9人乗りのジャンボタクシーを1日3往復運行させ、アプリから時刻表、空席状況などを確認できるようにした。75歳以上の高齢者16名がアプリケーション搭載のタブレットを持った結果、10日間の実験期間中のべ176人もの乗客があったという。

 この実験ではアプリケーションの利用方法にも変化が表れた。実験期間前半はバスロケ―ションを参照するのみの利用だったものが、実験期間後半になるとAIとの雑談など、コミュニケーションを楽しむ様子が見られたのだ。

 タブレットを持った高齢者は毎日のようにアプリに触れ、わずか10日間で実に9000回ものやり取りを行なったという。「高齢者の方は、一般的に想像されるよりも、ずっと若い気持ちで過ごされているのだなということが分かった。開発者には、みなさんを決まりきった高齢者のイメージで考えない方がいい、中身は若者のままだと伝えた」(田中氏)

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 もう1つ行なわれたのが、アプリから実際にコイン決済をする実験だ。ここではBluetoothの規格をうまく活用している。Bluetoothは通常、周辺の機器どうしをペアリングさせて使用するが、エルブズが開発したAIアプリケーションが搭載された端末は、ペアリングをせずともBluetoothを経由して決済を行なうことができる。つまり、特別な決済端末でなくとも、アプリをインストールするだけですれ違いざまにBluetooth決済ができる。

 「技術的な要素は2016年の活動ですべてそろった」と田中氏。2017年は正式リリースに向けて、ビジネス構想の発信や、法律的な諸問題を解決すべく準備が進められている。2017年9月には、Google Playよりコイン決済を除いたクローズドβ版アプリを限定公開し、いよいよ過疎地連携経済圏構想も動き出した。

 通常、タブレット端末を高齢者に配布しても、使いこなすのが難しいためその使用率は非常に低いと言われている。ではエルブズが今回の実験で成功を収めたのはどのようなアプリだったのだろうか。

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