週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ニューヨークのイベントではAWSやグーグルも期待を表明

クラウド、AI、5Gの土台を目指す「Xeon Scalable」がローンチ

2017年07月13日 07時00分更新

7月11日、インテルは米ニューヨークで最新データセンター向けプロセッサーファミリ「Xeon Scalable」を発表した。クラウド、AI、5Gなど新しいトレンド向けの機能も加え、収益性が高く競争の激しいデータセンター市場に投入する。

「Intel Xeon Scalable」を手にするインテルのナビン・シェノイ氏

Xeonの出荷の半分はクラウドに

 会場となったのは、ニューヨーク・ブルックリンにあるスタートアップセンター「New Lab」で、インテルもメンバーとして参加している。顧客やパートナー、報道関係者を前に、正式ローンチされたのが5月初めに発表した「Xeon Scalable」。最上位の「Platinum」のほか、「Gold」「Silver」「Bronze」の4種類を展開する。

 Xeon ScalableはXeonプロセッサーファミリの中でミッドレンジに相当する「Xeon E5」、ハイエンドの「Xeon E7」をマージさせたものとなる。インテル エグゼクティブバイスプレジデント兼データセンター担当ゼネラルマネージャーを務めるナビン・シェノイ(Navin Shonoy)氏は、Xeon Scalableを「この10年で最大のデータセンタープラットフォームの進化」と位置付けた。

 まず狙うのは、クラウド市場だ。シェノイ氏によると、この10年でパブリック/プライベートクラウド向けのXeonの出荷数はほぼ倍増しているとのこと。2017年末には出荷数の50%がクラウド向けになると予想する。クラウドのトレンドであるハイブリッドクラウドの実現により、「パブリッククラウドの効率性や拡張性、オンプレミスの信頼性や安全性などのメリットをはかりにかける必要はなくなる」とシェノイ氏は述べ、今後ハイブリッドクラウドが主流になる見通しを示した。

 シェノイ氏は、クラウドに加えて、AIやアナリティクス、5Gのトレンドが到来することで、さらなる処理能力が求められると語る。たとえばAIでは、「データが収集されているものの、活用されているのは1%未満」であり、大きなチャンスがあるとした。また、5Gはこれまでの人からモノがつながるという役割を持ち、単に高速なだけでなく、遅延は10分の1、キャパシティは1000倍になるなど大きな変化となる。

 こうした市場の変化を受け、インテルは過去20年の技術や知識をベースに製品を土台から作り直したという。この結果、1ソケットあたり28コア、システムメモリは6TB(4ソケット)をサポート、エントリーレベルからミッションクリティカルなワークロードまでカバーできるとしている。

Mesh Architecture、AVX-512命令セットなどで性能を強化

 具体的には、クラウド、AI、5Gの”3大トレンド”に向けて、性能、安全性、アジリティの3つの分野でさまざまな強化や新機能が加わった。3つについて詳細を説明したのは、バイスプレジデント兼Intel Xeon製品担当ゼネラルマネジャーのリサ・スペルマン(Lisa Spelman)氏だ。

 まず性能は、前世代から平均して1.65倍の改善が図られ、前世代比ではこの10年で最大の改善を実現したという。この背景には、「Intel AVX-512」命令セット、コアとコントローラでデータをやり取りできる新しいオンチップ・インターコネクト技術「Intel Mesh Architecture」、ソフトウェア定義インフラで暗号化や圧縮を加速する「Intel QuickAssist」などの最新技術がある。これらにより、クラウド、AIとアナリティクス、ネットワークの3分野でそれぞれ最高の性能を実現。たとえばAIとアナリティクスではSASによるビジネスアナリティクスで従来の2倍を記録したほか、クラウドでは中国のテンセント(Tencent)のVRコンテンツ生成サービスの速度が1.72倍向上したという。

これまでのRing Architectureに代わって、Mesh Architectureを導入した。コア、メモリ、I/Oコントローラーを直接結ぶことで低遅延を実現するという

 セキュリティ面でも、データ保護の性能が前世代比2倍となり、新しいレイヤーとして暗号鍵をソフトウェア攻撃から保護するという「Intel Key Protection Technology」が追加。保存、移動、使用中のデータを保護し、ハードウェアプラットフォーム自体の安全性も強化した。加えて暗号化を有効にした時のオーバーヘッドを0.37%まで抑えることが可能になったという。

 アジリティは、レスポンス性が高く、稼働率の高いデータセンターアーキテクチャにより、迅速に新しいサービスを導入・配信するための機能を指す。Xeon Scalableでは仮想マシン関連でモードごとの実行を導入し、ハイパーバイザーが信頼性のある形でカーネルレベルでのコードの認証や一貫性を確保できるという。また、ミッションクリティカルなワークロード向けのRAS(信頼性、可用性、保守性)機能である「Intel Run Sure Technology」では、利用できるハードウェア設定を増加させた。さらに仮想化されたワークロードのスループットも4.2倍と拡大し、TCOも65%削減できるという。

AWSも登壇し、AIの活用でもXeonをアピール

 AI関連ではトレーニングと推論の両面で性能の改善が図れるという。「トレーニングは、最適化したソフトウェアでは113倍の性能改善が図ることができ、推論ではスループットが2.4倍改善する」とスペルマン氏。なかでもXeonがよく利用されているという推論については、「トレーニングより取り扱うボリュームが多く、通常は運用環境のワークロードに組み込まれていることが多い。拡張性、性能、低遅延などのXeonの特徴を活用している」と強調した。

 その例として、カスタムのIntel Xeon ScalableプロセッサをベースとしたAmazon EC2の最新のインスタンス「C5」を2016年11月に発表したAWSが紹介された。

 動画で登場したAWSのAI担当ゼネラルマネジャー、マット・ウッド(Matt Wood)氏は、「(Xeon Scalableと)C5インスタンスファミリのネットワーキングやアクセラレーションにおける強化を組み合わせることで、HPC、機械学習、AIなどの用途を大きく進化させることができる」とコメントした。実際、保険会社がAWS上で機械学習を利用した財務シミュレーションを行なうなど、AWS上に機械学習のワークロードを実装する顧客は増えているとのこと。AWSはインテルと共同で「Intel Math Kernel Library」で深層学習エンジンを最適化。また、AWS上でApache Sparkなどのツールを利用して分散型の深層学習アプリケーションを構築するのも容易にしているという。例として、1万600台のEC2インスタンス、約8万7000のコンピュートを使って、39年分の化学計算をたった9時間で実現した製薬のノヴァルティスの事例を紹介した。

 顧客としてはこのほか、早期プログラムに参加して、財務データ分析にXeon Scalableを利用したトマソン・ロイターズ(Thomson Reuters)も登場した。同社のコア技術資産トップ兼リアルタイムプロダクトマネジメントのピーター・マースデン(Peter Marsden)氏は、「アナリティクスの処理が約2倍高速になった」「リアルタイムデータのアップデートは25%改善した」などと報告。2002年に同社のネットワーク上でやりとりするメッセージは毎秒5万件だったのが、現在は7500万件になったとのこと。これに対してXeon Scalableでは、テスト段階で8800万件のベンチマークを記録した。「AVX-512などの技術を利用するだけでなく、同じメリットを得るのにコアの数を減らすことができた」とマースデン氏は述べた。

インテルのリサ・スペルマン氏(左)とトマソン・ロイターズのピーター・マースデン氏(右)

480社以上が採用予定、実装高速化する新プログラムも

 Xeon ScalableはAWS、ロイターズなど、すでに30社以上の顧客に50万ユニットを出荷しているという。グーグルもその一社だ。

 同社は2016年11月にGoogle Cloud PlatformでIntel Xeon Scalable Platformベースのクラウドサービスを提供することを発表。2月にXeon Scalableをベースとしたクラウドを提供開始し、すでに小売、財務サービスなどが利用しているという。ビデオで登場したGoogle Cloud Platformのバイスプレジデントのバート・サノ(Bart Sano)氏は、「顧客は科学的モデリング、ゲノム研究、3Dレンダリングなどで利用しており、多くの場合で性能は40%改善している」とアピール。AVX-512向けにチューニングした場合、2倍以上改善した顧客もあったという。

 クラウドのほか、Xeon Scalableを搭載したシステムはDell EMC、HPE、富士通、NECといったサーバーやストレージベンダーから登場するほか、ネットワーク機器でもエリクソン、ファーウェイ、ノキアなどが採用を決定している。採用を計画しているベンダー数は合計で480以上にのぼる。

 スペルマン氏はまた、実装を高速化する目的で既存のBuilders Programの拡張となる「Intel Select Solutions」も発表した。これはワークロードに最適化したリファレンスアーキテクチャで、まずは「VMware vSAN」「Microsoft SQL Server」「Ubuntu NFVi」などが発表された。これにより、データセンターやネットワークインフラの実装を簡素化し、時間を短縮できるという。提供パートナーとしては、エリクソン、HPE、ファーウェイ、レノボなどが発表されている。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう