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赤ちゃんがわたしを親にしてくれる

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

わたしと赤ちゃん

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。育児コラム「男子育休に入る」の時間です。2ヵ月の育休取得を終えて3ヵ月に入りました。さすがに連載タイトルをあらためた方がいいのではないかと感じています。

 先日赤ちゃんをつれて実家に行きました。ちょうど妻が日帰り旅行に出かけていたためわたしと赤ちゃんだけの里帰りです。

 7月に入ったばかりなのに真夏のように暑い日で、地元の電車や駅ビルは寒いほどクーラーが効いていました。駅ビルの書店に涼みに来ていた子どものころを思い出し、懐かしい気持ちになりました。赤ちゃんを抱っこひもに入れたまま駅前を歩いていくと、中学生のとき自転車を停めていた駐輪場があり、毎日のように友達と通っていた1プレイ50円のゲームセンターがあり、気持ちがかつてそこに暮らしていたときの自分自身に戻っていきました。しかし目の前の抱っこひもに赤ちゃんが入っているのでどこかふしぎな気分です。子どもの自分が赤ちゃんを連れてお父さんとお母さんの待つ家に帰っていく、そんな夢を見ているような気持ちになりました。

 実家に着き、父母に赤ちゃんを見せると、相好をくずし「前に会ったときより大きくなったねえ」と言いながら抱っこをしてくれました。抱っこする父母の写真を撮るときもふしぎな気分はまだ続いていました。なぜそこにいるのが自分ではないのだろうか。

 今日のテーマは3~4ヵ月目の育児です。

 育児コラムを称しているくせに生後2ヵ月以降あまり赤ちゃんの話をしてこなかったということもあり、久しぶりに赤ちゃんとの関わりを書いてみようと思います。赤ちゃんはわずか2ヵ月で本当に人間らしくなってきました。3~4ヵ月は1~2ヵ月と比べても赤ちゃんの個性がかなりはっきりあらわれてくる時期だと感じます。まわりの親に聞いても悩みがまったく異なり、驚かされることも増えてきました。

 変化の具体例を挙げると、

・ニコニコーと笑う
・かまわないと泣く
・アウワウしゃべる
・唱歌をじっと聞く
・絵本をじっと見る
・おもちゃをつかむ
・排泄の回数が減る
・よだれの量が増す
・睡眠時間が延びる

 などです。多すぎると話題に。

 根源的な変化としては、行動に人間としての意思を感じるようになりました。

 1~2ヵ月時点ではまだ表情も少なく、ヒト科の動物を育成している気分でした。振る舞いも新生児反射がベースになっているため、生物としての基礎を見守っている気持ちです。かわいいと愛でるより興味深く観察する対象でした。

 さしだされたものをギュッと握る「把握反射」、同じくさしだされたものにグッと吸いつく「吸てつ反射」、あおむきで寝かせたとき顔の向きにあわせて手足が動く「非対称性緊張性頸反射」、母乳を飲んだあと口の端がぴくぴく動いて笑ったような顔つきになる「生得的微笑反射」などをおもしろく見ていました。

 こうした反射を基本の行動プログラムとして、快・不快を様々な手法で伝えたり解決しようと試みていくのが3~4ヵ月以降の赤ちゃんなのだろうと思います。



笑う泣くしゃべる

 最大の変化はコミュニケーション能力の向上です。中でも歓迎をあらわすかのような笑顔に衝撃を受けました。

 明け方に起きた赤ちゃんをのぞきこんでニヤーと笑顔を見せられた日から、わたしの愛情をつかさどる部分が熱を帯びました。無条件で自分を好きと言ってくれているようでたまらない気持ちです。あと1時間寝ていたい気持ちをおさえて「そうかそうか~」と抱っこすることになりました。以降赤ちゃんはよく笑うようになりました。「もしかしてハルさんですか?」と驚いたように話しかけても笑い、おでこに鼻をつけて「くっついちゃった!」といっても笑い、腹に顔をつっこんで「ムシャムシャムシャ~!」とゾンビのマネをしても笑うようになりました。わたしは「もっと笑顔、もっと……」と赤ちゃんを笑顔にすることしか考えられないゾンビとなり、胸元をワシャワシャくすぐったり、顔のあちこちをつつくなどしています。赤ちゃんがニヤーと笑うたびにショットガンで頭をぶっとばされたようになっています。

 最近は鏡を見てもキャハーと笑います。鏡に映った姿を自分とわかってはいないと思いますが、大好きです。にやけているわたし自身の顔が目に入って「こんなに素直な表情できたのか」と驚かされたりもしました。

 次の衝撃は強い抗議を思わせる泣き方です。

 朝、赤ちゃんをハンモックのようなイス「バウンサー」に座らせて洗濯物を干そうと洗面所に向かうと「ウエェ……」と泣き声が聞こえるようになりました。1~2ヵ月期は「のどが渇きました」「おむつが汚れました」「眠くなりました」という三原則にのっとって泣いているものと判断していましたが、3~4ヵ月期に入ってからは「みて」という泣き方をするようになってきます。実際に見ると泣きやんでニヤーとします。かわいいのですがまったく家事が進まないので赤ちゃんをバウンサーごと洗面所に招待して「ごらんください!再販でゲットしたUniqlo Uの半袖白Tシャツです!」など話しかけながら洗濯物を干すようになりました。

 寝かしつけでは地獄のように泣きます。

 職場に復帰して20時代に帰宅するようになったため週末しか遭遇しませんが、世界の終わりという勢いで泣くため、抱っこして動物園のクマのように部屋を行ったり来たりすることになります。抱っこしたままスクワットをしたり、きゃりーぱみゅぱみゅの「みんなのうた」「Drinker」等を歌いながらステップを踏んだりもしています。赤ちゃんは3ヵ月時点でまだ体重が5kg程度しかなく、平均体重に比べると軽かったのですが、5kgの米袋を抱えてクラブで踊っている人を想像してみると大体わかるかと思います。3ヵ月を過ぎてからは縦抱きしか受けつけなくなったため、利き腕である右腕のつけ根付近も疲労を訴えます。

 泣きやまないときは抱っこひもに入れて夜のピクニックをすることもあります。クルマが好きな人はチャイルドシートに座らせて夜のドライブをすると言っていました。信号につかまると泣き、動き出すと泣きやむそうです。赤ちゃんを抱っこして夜の公園や住宅街をトプントプンと歩いていると、心細いような、誇らしいような気持ちになります。赤ちゃんが生まれるまではなかった感情でした。

 クーイングとよばれる単純な音声で意思表示をするようにもなりました。

 初めは「アー」「エウー」など、ちょっとした発音の断片を投げ出すように発話するのですが、やがて目がさめたときから「アーウェイウェイ?ワウワウワ~」と交信するようにしゃべるようになり、機嫌が悪いときは「ワウワウ~!」と叫ぶようになりました。語彙は「アイ・ウェイウェイ」と「WOWOW」だけです。ハルさんは周囲の赤ちゃんに比べるとクーイングの回数が多いようで、おなじ月齢の赤ちゃんが集まったときもウェイウェイ言っており、周りのママたちが「すごいねえ」と感心していました。が、何を言っているのかはまったくわからないので、前後の行動や環境から「おむつ気持ちよくなりましたね」「毛布ふわふわで気持ちいいですね」「あら、そうなんですか!」などと適当な相づちを打っています。

 そこでニヤーとされるとふわふわと気持ちがよくなるので、コミュニケーションというのはそういうものかもしれないなと感じています。



■見る聞くつかむ

 視聴覚・運動系の発達も見えてきます。

 まず、絵本を読むとじっと耳をすませます。

 好きなのはエリック・カールの『はらぺこあおむし』、安西水丸の『がたんごとん がたんごとん ざぶんざぶん』。はらぺこあおむしは大量の食べものが並んだページになると足をバタバタさせてテンションを上げるので、食いしんぼに育つのではないかと思っています。オニャーンと泣いたときも「はらぺこあおむし」とタイトルコールをするだけで泣きやんで絵本に目を向けたこともあって驚きました。最近はまねをしてページに手を伸ばすようにもなりました。

 歌をうたうと、じっと口元を見ています。

 本当は音階の少ないわらべ歌や唱歌のほうが赤ちゃんになじみやすいといわれるのですが、レパートリーが少ないためわたしのカラオケを聴いてもらっています。初めは細野晴臣『三時の子守唄』、アン・サリー『こころ』などゆったりした歌を聴かせていたのですが、くるりやピロウズなどハイテンポの歌も意外と聴いてくれました。とくに好きなのはアニメ『モンタナ・ジョーンズ』OPのTHE ALFEE『冒険者たち』。サビで手足をバタつかせます。逆に『今夜はブギーバック』は「ダンスフロアに……」と口ずさんだ瞬間にギャーと泣きました。

 最近ではテレビの音や映像に反応するようになり、朝などにテレビがついていると体をひねって画面を見るようになりました。

 今まではテレビを見ながら、スマホを見ながら家事育児をするということも普通だったのですが、赤ちゃんの目と耳に入ると思うと意識してしまいます。いきなり禁止というのは不自然ですが、ある程度は制限してもいいかなあと思っています。菌類や食べ物との付き合い方もそうですが、いずれ雑多な刺激にふれるようになるわけで、ちょっとずつ免疫をつけるように暮らしたいと個人的には思っています。

 そしておもちゃについては手でつかみます。オーボールという穴あきボール状のおもちゃがつかみやすいようで、よくつかんで口元に持っていき、ベローとよだれまみれにしています。最近は外出先で葉っぱを見せるとサッと手をのばしてブチッとひきちぎるというワイルドな標本採集をしています。小さな博物学者です。



■出す飲む眠る

 消化器官も発達します。

 具体的にはうんこの回数が減り、1回あたりの量が増えます。1~2ヵ月時点では小出しにするのですが、はらわたの内容量が増えたことで、うんこをストックしておきまとめて出せるようになったようです。だいたい朝にうんこをするのですが、うんこの前には、あせるように足をばたばたさせはじめ、うんこをしたあとは神妙な顔をしているのでおもしろいです。おむつを替えるとかわいい声で「ウェイウェイ~」と歌のようなものを口ずさみます。「うんこのうた」と呼んでいます。

 はらわたの発達にともなって母乳とミルクを飲む量も増えます。小食気味だったのですが、それでも1~2ヵ月に比べると倍程度になりました。もともと1回分のミルクは母乳の補助で40ml程度だったので、80~100mlに増えると「そんな飲むの!」と大酒飲みを見ているような気分になります。すぐ飲んでしまうのでおそろしいです。5~6ヵ月になると離乳食もはじまるので、またそのときには排泄をふくめて大きく変化していくのだろうと思います。楽しみですが、乳飲み子の時期があっさり過ぎてしまうのがさみしいような気もしています。

 よだれの量も大幅アップ。よだれかけがバスタオルのようにぐしょぐしょになります。1~2ヵ月の時点ではあまりよだれも出ないので、いただきもののよだれかけをもてあましていたのですが、いまでは1日に何枚も替えるようになりました。タオルと同じで、あって困ることはないベビーグッズの1つだなと思います。

 消化に時間がかかることもあってか、よく眠るようになりました。

 1~2ヵ月のときは深夜も3時間おきに起きたりしていたのですが、今では夜20時に眠って朝4時に起きて二度寝、朝6~7時に起きるというパターンで安定しました。わが家の赤ちゃんは昼寝も朝寝もほとんどしないので夜間の睡眠がすべてです。

 睡眠時間は本当に人によってバラバラです。12時間ぶっつづけで寝る子もいれば、夜中にすぐ起きてしまうという子もいます。ロングスリープがいいことかというと必ずしもそうでもなく、たとえばおかあさんの母乳がつまってしまう問題があります。育児は家庭によって苦労と幸福の中身がまったく違うものですが、とりわけ睡眠は、親をふくめて生活の根幹であり、まさに典型例という気がします。人は人、わたしはわたし、違っていて当たり前で、そこが世界のおもしろいところだと思います。

 余談ですがわたし自身は赤ちゃんのころからよく寝る子で、夜に12時間睡眠、朝寝も昼寝もして、1日の6割を夢の中で過ごしていたそうです。いま赤ちゃんに合わせてなんとなく真夜中から明け方に目をさます生活になっているのでつらいです。寝不足が負債のようにたまって体調悪化につながる「睡眠負債」も話題なので、睡眠外来にでも行こうかなと思っています。



■親にしてもらう

 赤ちゃんの成長に伴い、わたし自身は、自分が親であることを意識するようになりました。

 3~4ヵ月の赤ちゃんは本当に子供らしいかわいらしさがあります。1日1日どんどん大きくなっていくので、着実に成長しているなという実感もわいてきます。1~2ヵ月の頃は妻に「ハルくんかわいい?」と聞かれ「うん、おもしろいね」と答えていたのですが、いまでは「かわいいね」と素直に答えられるようになりました。しかし、自分自身が親であるという意識は、なかなか頭に入ってきてくれません。

 社会的にわたしは親です。戸籍も入れたし、住民票も取ったし、健康保険の被保険者に入れたし(「無職の同居男性」と記入するところがあって「ヒモかよ」と思いました)、保護者様宛にマイナンバーの通知カードさえ送られてきました。それでも気持ちは子供の頃から変わらないそのままの自分でありつづけています。

 赤ちゃんが生まれるまでは、赤ちゃんができれば自然に親になるものだと思っていました。子供のとき自分が家族だと思っていた関係も、自然にできてくるものだと思っていました。妻にそう話したら「そんなわけないでしょ、家族は努力目標です」と言われました。

 そうなのか、自分がいつまでも子供っぽすぎるのかと思いましたが、それはわたしの親が家族というものを本当にしっかり作ってくれたからなのではないかと感じました。大人になってからも実家は当たり前にある場所で、そこにしかない聖域でした。両親がわたしの前から危ないものをていねいによけてくれて、いつでもそこに戻っていけるという安心が、わたしの家庭像を作ったのだと思います。

 両親も人間なので、家にいると多少窮屈さを感じるところもありますが、わたしはたしかにそこで親と子として安心して生きていました。

 赤ちゃんと実家に行ったとき、母親は赤ちゃんを木製の汽車に乗せました。わたしが赤ちゃんだったときに遊んでいたおもちゃで、前進・後退するとポンプの運動でポッポッと鳴ります。初めは怖がっていた赤ちゃんもすぐに慣れ、足を伸ばしてニコニコ笑っていました。母親が汽車を押し、父親が写真を撮っているところを脇から見ていると、わたしが家庭だと思っていたものは、こうして1つずつ親が作ってくれた世界なんだなと思えました。

 わたしはトロい人間なので、少しずつ赤ちゃんに親にしてもらい、やはり少しずつ家庭を作っていくのだろうと思います。家族というのもけっしていいことばかりではありませんが、赤ちゃんがちょっとでも生きやすい場所を提供していけたらいいなと、そう思っています。

 連載は続きます。週間で続くかどうかはやや不安です。

母親と赤ちゃん



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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