週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

地域医療連携成功のカギは診療所データの共有

2017年04月24日 07時00分更新

クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。

第13回テーマ:電子カルテ x 地域医療連携

 地域医療連携とは、「地域の医療機関が、自らの施設の実情や地域の医療状況に応じて、医療機能の分担と専門化を進め、医療機関同士が相互に円滑な連携を図り、その有する機能を有効活用することにより、患者さんが地域で継続性のある適切な医療を受けられるようにするもの」だという(公益財団法人 東京都保健医療公社より抜粋)。

 クラウド型電子カルテは、この地域医療連携を構築し、推し進めることができるとされている。病院、診療所、家族やコミュニティー間で患者のデータを共有しあうことで、効率的な診療を実現できるのだ。

 診療所における電子カルテの普及率は、現状として決して高いとはいえないが、今後の普及率の向上こそが地域医療連携推進の鍵といえる。

 以上が基本的な部分だが、ここからはクラウド型電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。最新トレンドをぜひチェックしてほしい。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。


クラウド型電子カルテが地域医療ネットワーク構築の後押しになる

クリニカル・プラットフォーム代表取締役 鐘江康一郎氏

 政府の掲げる「日本再興戦略」の中でも「2018年度までに、地域医療情報連携ネットワークの全国各地への普及を実現する」と書かれており、2017年3月現在、全国には少なくとも200件(※)を超える地域医療ネットワークが存在しています(※JAHIS調べ)。

 しかし、多くの地域医療ネットワークにおいて、「中核病院⇒診療所」のデータ開示は実現できているものの、「診療所⇒中核病院」の情報の流れが不十分であると言わざるをえません。JAHISが2014年に行なった調査によると、全国207の地域医療ネットワークのうち、診療所が情報発生元になっているのは 24件(11.6%)のみとなっています。

 つまり、地域医療ネットワークにおいては、約9割の診療所のデータが使用されていないということになります。そのため、せっかく高額な費用と長い時間をかけて構築した地域医療ネットワークが、十分に機能していないという地域も少なくないのが実情です。

 「診療所⇒大病院」のデータの流れが実現できていない最大の理由は、ネットワークに属している診療所の多くがいまだに紙のカルテを使用しているからと考えられます。とはいえ、設置型では一式何百万円もする電子カルテを、ネットワークに属するすべての診療所に購入してもらうわけにはいきませんし、政府や自治体から地域医療ネットワークに割り当てられる予算ではとてもまかないきれません。

 また仮に診療所が電子カルテを導入していたとしても、それぞれの診療所で使用している電子カルテが異なれば、それらのデータをすべて共有するためには膨大な開発工数が発生することになります。

 一方で、クラウド型電子カルテであれば、比較的安価に導入することが可能ですし、データ連携作業も比較的簡単に行なうことができますが、地域医療ネットワークに加入するために電子カルテを選ぶという医療者はあまりいないと思われますし、「地域全体でクラウド型電子カルテを導入すれば解決!」といった単純な話でもないでしょう。

 「ネットワーク外部性」という言葉が表すように、地域医療ネットワークでは連携される医療機関の数が増えれば増えるほど、医療者および患者さんの得られる便益が増加します。クラウド型電子カルテの登場は、より多くの診療所と患者さんを巻き込んだ地域医療ネットワーク構築の後押しになると思いますが、実際に採用されて実績を出すまでには、まだ時間が必要だと考えています。


記事監修

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長

著者近影 裵 英洙

1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事