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または私はいかにして心配するのを止めて育休を取得するようになったか

33歳の男ですが育休を8週間取ることにしました

2017年02月16日 07時00分更新

この記事を書いた人

 ほとんどの方は初めてお目にかかります、盛田諒(もりたりょう)と言います。けものフレンズでおなじみ出版社のKADOKAWAに勤める編集者です。今はアスキーで家電を担当し、おすすめ家電を紹介しています(家電ASCII)。バルミューダ炊飯器たっのしー!

 さて、うちの奥さんは今年3月1日に出産予定です。わたしは33歳の男ですが、奥さんの産後休業に合わせて5月までに8週間の育児休業をとることにしました。奥さんが40歳の高齢初産でサポートが必要になると感じたのが大きな理由です。何より前例が少なく、大きな仕事も始めたばかりだったのでかなり迷いましたが、理解ある上司・同僚に恵まれて取得を決意することになりました。

 さらっと書きましたが決心するまで10日間ほど迷いました。男の育休取得にはこんな悩みがあると知っていただき、同じように悩んでいる方々の参考になれば幸いです。


2人とも同じことができるようになりたかった

 育休をとろうと決めた理由は2つありました。

1.奥さんが40歳の高齢初産だったから
2.一人でも子育てができるようになっていたかったから

 1は消極的な理由、2は積極的な理由です。

 はじめは消極的な理由から。

 奥さんは40歳。男勝りな性格でいつも圧倒されていますが、さすがに体力には不安がありました。生まれて間もない赤ちゃんは1~2時間おきに寝たり起きたりをくりかえし、母親はめちゃめちゃ体力使うと育児雑誌も脅してきます。わたしは休日の趣味が掃除ですという程度には家事が好きなので、奥さんと一緒に家事・育児をするくらいならむしろ楽しめるだろうと考えました。

 里帰りも考えましたが、親も高齢なので、頼りきってしまうのは考えものだと思います。それと、親と関係が悪いということは普通にあると思います。うちは幸い仲が良い方なので赤ちゃん赤ちゃんウエルカムベイビーという感じですが(謎)、親なんて顔も見たくない、こんな幸せなときにどうして実家になんか帰らなきゃいけないのという人は普通にいると思います。親世代には「里帰りしないの?」と不思議に思われるかもしれませんが、それだけが選択肢ではないと思います。

 たまに育児休業に関する記事で「家族で子育て」「地域で支援」などと楽しそうに書かれているのを目にしますが、それはあくまで選択肢のひとつであり、それぞれ利点と欠点を知った上で選ばれるべきものだと個人的には思います。

 もう1つは積極的な理由です。

 うちは共働きで、奥さんも編集者です。赤ちゃんが生まれて半年~1年ほど経ったら奥さんはもとの会社で勤務を再開する予定です。赤ちゃんが生まれてから家事にかける時間と手間はおそらく想像もつかないほど増えると思います。二人ともほぼフルタイムで働くことになると思うので、本当にうまく分担しなければ家事は回らなくなります。そのため最初に赤ちゃんと過ごす時間をちゃんと経験しているかどうかで育児系家事のレベルに大きな差が出てきてしまうという恐れを抱きました。

 たとえるなら、配信されたばかりのゲームです。最初からプレイしているか数ヵ月後からプレイしているかどうかで、イベントやキャラやアイテムについて会話できるレベルがまったく変わってしまうと思います。そんな感じです。「は?そんなクソ装備でガチ来るとかなめてんの???」と煽りコメントをもらうとめちゃめちゃ怖いですし、ゲーム自体も楽しめなくなりますし、追いつけないのはとても怖いです。生活はゲームではないのでもっと怖いです。課金ガチャもないです。

 それと、縁起でもない話ですが奥さんが倒れてしまったときは自分が家事をすることになります。炊事掃除洗濯なら普通にできますが育児スキルはゼロです。スキルを身につけていなければ、いざ家庭と仕事のバランスが変わったときのストレスが大きく、こちらもドテーンと倒れてしまうのではないかという不安があります。最近おぼえた言葉ですがリスク分散をするためにも「奥さんができること」「旦那ができること」を極力イコールに近づけておくべきではないかと感じます。

 なお、取得期間を8週間にしたのは、奥さんの産後休業に合わせたこともありますが、子育て支援が最も必要なのは産後1~2ヵ月だと雑誌で読んでいたからです。そもそも泣き声がどんなサインなのかもよくわからないし、心配事が多いといいます。不安や失敗をひとりで抱え、ハラハラとイライラを募らせると旦那さんとの関係が悪くなることがあるとも知りました。怖いです。

 そういえばFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOも2015年に8週間の育休をとっていました。アメリカは出産前後12週間を最大とする無給の休業制度があるだけで、日本のように充実した産休・育休制度はありません。逆に長期休業は失業の恐れがあるということで、世界政策分析センターの調査によれば、働く女性の77%が「パートナーに育休をとってほしくない」と回答したそうです。そんな中で世界企業のトップが長期の育休を取ったインパクトは大きかっただろうと思います。


意識が低くても育休は申請できます

 ただ育休をとるまでは迷いがありました。

 育休というと意識高い旦那のように見えますがわたしの意識は低いです。奥さんから「もりちゃん育休取ったら?」と軽く言われたときは正直言って「ええー取りたくないなー」という気持ちのほうが大きかったです。立ち上げたばかりのメディアを運営するという比較的大きな仕事をまかされたばかりだったのでしっかり働きたい気持ちがありました。仕事に穴を空けるわけにはいかないと考え、取れたとしてもまあまあ数日間くらいじゃないかと思っていました。

 でも積極的な(?)理由はそんなものです。あとは消極的な気持ちがほとんどでした。

1.社会に出てからそんなに長く休んだことがない
2.会社にどうやって申請すればいいかわからない
3.男社会だし、前例がないから、言い出しづらい

 こんなものです。書き出すとバカっぽいですがこれくらいが想像力の限界でした。

 1については、大体おわかりかと思います。わたしは社会に出てから唯一の長期休業といえば、新卒入社した出版社が2年半で倒産してしまい、いろいろいいやと思ってインドに行った2週間くらいでした。あらためて考えたらたんなる無職の旅で休業ではありませんでした。ちなみにインドのネットカフェでmixiを見ていたときアスキーのバイト求人を見つけ、腰かけ気分で始めたらあっというまに8年が経って正社員になっていました。それはさておき日本人はもっと休むべきだと思います。

 2についてはそのままです。大企業でも社内規則で男の育児休業について明記している会社は少ないと思います。それでも、子供が1歳(一定の場合は1歳半)に達するまでの育児休業は育児・介護休業法によって保証されている権利です。会社が申請に対応できないことはありません。会社の人事部の担当さんも全面的に協力してくれてうれしかったです。人事部というと勤怠報告にうるさい人たちとしか思っていなかったので心をあらためました。

 3については、これが本当にばかばかしいですが気分の問題です。「男が育休を取るなんて前例がない、ありえない、リスクが大きい」という気分です。男社会ならではの先入観が心にフタをしています。キムタクが出ている医療ドラマじゃないですけど、前例がなければリスクがあるか判断はできません。のけものになるのを「こわーい!」と感じているだけです。

 とはいえ育休を取るにあたっては上司や周囲の協力が必要不可欠です。

 幸い今の上司は柔軟な方で、相談したらすぐに「育休取るんだよね、じゃあ今の仕事はこうでこうでこう!」とチャッチャッチャッと段取りを手伝ってくれました。心強く、とてもうれしかったです。育休明けの職場復帰後は全力でがんばろうと思えました。

 もしこれが育休に積極的ではないクソ上司で「はあ~??育休~???ウチどういう仕事してるかわかってるゥ~?いま一人でも欠けたらさあ~~他の人が迷惑するんだよォォ~??」などと言われていたら絶対取得はやめていたと思いますし、ネットに会社の悪口を書きまくってコンプライアンス事案になっていたと思います。わたしの人間性については気にしないでください。

 いま育休を取得した男性社員へのいやがらせは「パタハラ」(父へのいやがらせ)として問題となっています。自分自身が「男が育休なんてなあ」という先入観をもっていたことから「男の育児参加は働いて金を稼ぐことじゃ」という考えを否定することはできませんが、それでもいやがらせをする理由になるとは思えません。

 実際、育休取得にあたっては「昇給や出世の妨げになるのでは」という懸念を抱く人も多いようです。個人的にはそうした社内行事とほぼ無縁の日々を過ごしているためまったく頭にありませんでしたが、理由のある長期休業が人事評価でマイナスになってしまうというのはいやな気分だなあと思います。なるべくやめてほしいです。

 なお休めない気分は自分だけでなく周囲も同じで、上の世代になるほど大きくなるものです。「育休とろうと思ってるんだ」と母に話したところ「えっそれで会社は大丈夫なの?」と心配されました。上司が応援してくれていること、国が共働き世帯の育休取得を後押ししていることなどを説明すると、まだ不安そうですが納得してもらえました。親ならわかってくれると思うのは逆です。

 ちなみに懸念の新しいメディアについては、2ヵ月間ほど自分がいなくても安定して回せる体制をつくれました。このことでむしろ自信がつきました。他社が関わる案件の引き継ぎもあり、自分がすべき仕事、誰かにお願いすべき仕事の区分けもはっきりできてきたように思えます。もともとわたしは仕事を抱えこんでしまうダメなところがあったので、いい勉強になったなと思っています。


育休が普通の権利になってほしい

 厚労省の調査によれば男の育休取得率は2.65%とまだまだレアです。うち6割が2週間未満で、わたしのように1ヵ月以上の育休を取るケースは排出率1%以下のスーパーレアです。

 男の育休取得者が多いといわれる生命保険会社やメガバンクも、取得期間は1週間以内がほとんどだそうです(東洋経済さんがまとめていました※1)。奥さんが出産するため実家に戻っていて旦那さんはごろごろしているだけという例もあるとママ友から聞きました。そんな名ばかり育休をカウントしてまで「男性従業員も安心して育休をとれるいい会社」と言おうというのはせこいと思います。

 育休は全員がとるべきとは思いませんが、とりたい人がとれる選択肢になってほしいと思います。

 法が保証している権利というものは行使されてはじめて意味があると思います。定額サービスのようなものだと思うので、使いたいものがあったらどんどん使っていくべきです。使われないサービスはなくなるかもしれません。人生はさまざまです。育休をとる理由もさまざまにあっていいと思います。生まれてすぐの赤ちゃんは1日1日どんどん顔が変わっていくといいます。その変化を絶対に見逃したくないというのも立派な理由じゃないかと思います。

 長くなりましたが育休です。いざ休業に入ってからはFacebookに、うまくいかないこと、不安・不便に感じること、奥さんとケンカしたことなど、いわゆるパパの教科書には出てこない失敗談をなるべく正直に書いていきたいと思っています。本気で困ることだらけになりそうなので、みなさんの体験談もズンドコ教えてもらえるとうれしいです。コメントお待ちしています。



※1 最新!「育休取得者が多い」100社ランキング
金融機関が上位独占、男性も育休は取れる?
http://toyokeizai.net/articles/-/100413



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。今年パパに進化する予定です。Facebookでおたより募集中

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