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ドコモ39階で何が起きているか? オープンイノベーションで挑むハードウェア創造手法

ドコモ39worksとパートナー企業の取り組みが面白い!爆速のIoT/ハードウェア開発に迫る

 2017年3月21日に開催された「IoT&H/W BIZ DAY 3 by ASCII STARTUP」(こちらの記事参照)では、5コマのセッションが開催された。今回は、その中のセッションD「ドコモ39階で何が起きているか? オープンイノベーションで挑むハードウェア創造手法」の様子について紹介しよう。

ドコモ39階で生まれた「39works」に関わる5名が登壇し、立ち上げたビジネスに関して語ってくれた

ドコモにはない文化
爆速でビジネスを立ち上げる「39works」プロジェクト

 「ドコモって、どういうイメージでしょうか? 保守的、動きが遅い、融通が利かない、といったイメージがあると思います。実は中にいる私もそうかな、と感じることもあります。今日ご紹介する『39works』は、ドコモの内面から破壊する、単に壊すのではなく破壊的イノベーションを起こそうとする取り組みです」

 いきなりそう始めたのは、株式会社NTTドコモかつ39Meisterの共同代表である菊地大輔氏。この発言からもうかがえるが、大企業のお堅い感じがない。

 「39works」はドコモ本社ビルの39階に設けられた、新規ビジネス特区で活動しているプロジェクトだ。

 「ビルの上のフロアに行くと、社長の部屋に近いので、ぴしっとスーツを着ている人が多いのですが、新規事業のビジネス特区になっている39階は雰囲気が違います。カジュアルな格好で、ウォークマンを聞きながら集中してプログラミングに打ち込んでいる人もいます」と菊地氏。

株式会社NTTドコモ/39Meister共同代表の菊地大輔氏(写真左)

 「39works」のミッションは、パートナー企業とともに事業を「爆速」で作っていくこと。ドコモとして、これまでにないスピードで作っていくという。通常は、社内で稟議を通していくが、「39works」は同じフロアに座っているCTOに随時プレゼンし、次の日からPoC(Proof of Concept=概念実証)を開始する。さらに、起案者が事業トップになって全権限を持つというのもユニーク。

 「何かの判断をするときに毎回上司に聞くことがなく、自分たちのチームだけで決めていきます。時にはどこの会社にもある組織間の縄張り争いのような社内調整に巻き込まれることを避け、長い道のりとなる社内稟議を超高速化することで、まずは立ち上げるということを大事にしています」(菊地氏)

 仕事の自由度が高く、どこでどんな打ち合わせをするといった上司への説明も最小限。事後報告となることも多く、まずは自分たちで外に出て仕事を進める。社内調整も基本的に最小限とし、まずはスタートする。通常、事業に失敗するとネガティブに受け取られることも多いが、39worksでは大きな失敗は大きなチャレンジをしようとした結果であるという文化があり、失敗してももう1回チャレンジしてもいいという雰囲気があるとのこと。「失敗を恐れる前に、まずはチャレンジせよ」という文化があるそうで、一般的な企業の働き方から見ると、うらやましいところだ。

 「たとえば、こういうイベントに出る時、普通は社内チェックで資料を修正されたりして自分が言いたいことを言えない資料になったりします。しかし、社外で発表するような今日の発表資料であっても、その内容は発表者に一任されています。事業の責任を持たせられているので当たり前なのですが、役職に関係なく、起案者全員がその対象となっています。事業のトップには上司がいる場合がほとんどですが、その上司でも事業には直接口だしができないレベルの権限と責任が起案者には課せられる。全体的に39worksのチームはこんな雰囲気です」(菊地氏)

 その代わり、事業の細かいKPI(Key Performance Indicator)の管理は厳密に求められる。最終的なゴールもKGI(Key Goal Indicator)で管理するが、達成できなければ事業をドロップさせるという判断もその責任者が自ら下さなければならない。期間や予算、KGI、KPIを全部コミットして、進めていくスタイルなのだ。

 続いて「39works」が運営している事業のスライドが表示され、「ec-concier」や「Repl-AI」、「Agent Aily」といったサービスが並ぶが、下には「クローズした事業」も5つ並んでいた。これが自らの責任でドロップした、という結果なのだろう。そしてセッションでは、目玉となるIoTとハードウェアに関連する事業が取り上げられた。

39worksが手がけていたり、クローズした事業

「39works」のIoT関係ビジネスで活躍する
「39Meister」と3チームが勢揃い

 まずは菊地氏が共同代表を務める「39Meister」についての紹介。こちらは同じく「39Meister」の共同代表である株式会社ハタプロの伊澤諒太氏がマイクを握る。

株式会社ハタプロ/39Meister共同代表の伊澤諒太氏(写真左)

 「弊社ハタプロは、IoTに特化した少数精鋭のメーカーです。強みはBtoBで、企業からのIoTプロダクトの設計や開発についての依頼を受けています。39Meisterは39worksの中でも、特にハードウェア受託にフォーカスしたサービスで、ハタプロの素早く開発するノウハウと、ドコモが持つAIやクラウドなどの技術を組み合わせます。設計製造の受託以外にも、ベンチャーと大手が実務レベルで共同運営する事業としても業界で注目されております。そこでハードウェアに特化したオープンイノベーションや、リーン型開発に関するコンサルティングサービスを大手法人向けに展開もしています。LPWA(Low Power Wide Area) 通信技術のうち、LoRaやSigFoxの需要の高まりから、まずはLoRaの実験キットも販売しました。LoRaWANのシステム構築も得意としており、自治体さんや法人企業と組んだ実証実験の取り組みも進めています」(伊澤氏)

 ハタプロというベンチャー企業とNTTドコモという大企業が関わっているサービスであるため、ベンチャーならではの対応スピードと、大手の信頼やノウハウを生かした事業体として、案件を手がけているという。最終的にドコモの技術として取り込むための事業と考えられがちだが、あくまでドコモからは独立した中立な事業であることも特徴だという。大手法人クライアントも多く、特にLoRaへの取り組みについては、39Meisterが先行して市場で事例と実績を作り、それをドコモ以外の会社に売り込むことがゴールである程、ドコモとは距離を置いた独立性を持っている。

ハタプロは少数精鋭のIoTプロダクトの開発・事業化支援をするメーカー

 「39Meister」の紹介が一段落すると、今回集まった3チームにマイクが渡される。「39works」のメンバーなのでもちろん全員NTTドコモの社員なのだが、それぞれ別プロジェクトを手がけているのだ。最初のお題は、オープンイノベーションについて。大企業がどうやってパートナー企業と一緒に仕事を進めるのか、その中でのハードウェアの難しさとは何だったのか、というのが質問のポイント。

 まずは「ここくま」のプロジェクトリーダーを務める横澤尚一氏。

 「僕は文系でコードも書けないし、6年間法人営業部にいました。2年前に39階に着任して、7ヶ月半後には事業化が決まり、その1年後には事業を始めていました。そんなスピード感でやっています。事業を進めているのは、高齢者とその家族向けのコミュニケーションロボットです。このクマの中にはLTEが搭載され、メッセージを送り合ったり、クマと喋ったりできます」(横澤氏)

 横澤氏が手にしたのは可愛いクマのぬいぐるみ。これが、IoTだというから面白い。このロボットと手持ちのスマホを設定するだけで、ボイスメッセージのやりとりができるのだ。スマホアプリに話しかければ、LTE通信でぬいぐるみにボイスメッセージが届き、クマの再生ボタンを押すだけで家族からのメッセージが聞ける。逆にクマの録音ボタンを押して話しかけるだけで、家族のスマホにメッセージが届く。

コミュニケーションパートナーここくまのプロジェクトリーダー、横澤尚一氏

かわいいクマのぬいぐるみに話しかけると、スマホにメッセージが届く

 「ほとんどの方がご両親と離れて暮らしていると思います。僕が法人営業部時代に感じたのは、おじいちゃんおばあちゃんだけで暮らしているのに、通信手段が電話しかないこと。電話だとお互いに都合があうときしか話すことができない。働いている世代だと、家に帰ってご飯食べて、それで電話しようと思っても夜9時10時とか当たり前で、ご両親はもう寝ている。これを解決したいと思って開発しました」(横澤氏)

 つまりスマホは自分が持ち、遠隔地にいる両親にクマのぬいぐるみをプレゼントするというわけだ。このプロダクトは、4社の協業で作られている。ドコモとイワヤ、バイテックグローバルエレクトロニクス、MOOREdollだ。しかし、決してこれらのパートナー企業に丸投げしているわけではない。

 プロジェクト全体はドコモの横澤氏が見ているのだが、IoT関連ではMOOREdollがリーダーになり、バイテックが開発マネージャー、プログラマーにドコモからも1名、となっている。ぬいぐるみ関連では、イワヤがリーダーとデザイナー、プログラマーはMOOREdollから。アプリはバイテックがリーダーで、開発マネージャーはドコモ、デザイナーとプログラマーはMOOREdollといった具合だ。

プロジェクトメンバー一覧。それぞれの分野で複数の企業のスタッフが入り交じって作業していることがわかる

 続いては、「神戸市ドコモ見守りサービス」を手がけた加納出亜(いずあ)氏。このプロジェクトは、Bluetoothタグを子供や高齢者に持たせ、街全体で検知し、位置を探せるようにするというもの。ドコモは2年前に別プロジェクトで神戸市の担当者と出会い意気投合。1年間いろいろな話をする中で、町の人たちに役立つIoTをやろうとなったという。「オープンイノベーションでは、忘れた頃に役立つ人脈、ということでございます」と加納氏は笑いを取った。

 実施については、企業と自治体が組むに当たり、お互いに役割分担をうまく決めたという。ドコモはサービスやシステムを作るのは得意で、自治体は市の住民を相手にした諸調整が得意。お互いが得意分野を担当することで、実証事業化を実現したそうだ。

 「IoTによるサービス実現の一番大きなキモは、フィールドでのエンジニアリングです。装置とタグは両方とも市販品を使い、実験室ではうまく動作しました。しかし現場では、フィールドのどこに付けようかとか、実際に車とすれ違ったらどうなるのかとか、電源が止まったりだとか、そういったところでうまくいかない」(加納氏)

「神戸市ドコモ見守りサービス」を担当した株式会社NTTドコモの加納出亜氏

「神戸市ドコモ見守りサービス」のサービス概要

 最後の3チーム目は「Smart Parking Peasy」。マイクを握るのは、現在入社2年目で、「docomo スマートパーキングシステム」のプロダクトマネージャーを務める島村奨氏。最初の配属先が、このイノベーション統括部「39works」で、「Peasy」の立ち上げ当初から関わったという。

 「Peasyは駐車場向けのサービスです。都内は特に駐車場が足りなかったり、コインパーキングでは小銭不足で支払いに困ったり、といった経験がある人は多いと思います。そういった駐車場の困りごとを、最新の技術でユーザーにやさしくシンプルにしようと思っています」(島村氏)

 従来の駐車場設備だと採算が合わないような土地にも導入できるように、入出庫を検知できるハードウェアが必要だった。しかし、目指すサービスに合ったものが存在しなかったために、新規開発したという。島村氏は38cm四方の白い樹脂製のガジェットを掲げた。

 「四隅をアンカーボルトで駐車場に設置します。設置コストはかなり低く、電池駆動なので電源も不要です。無線で通信し、リアルタイムに入出庫の情報をクラウドにアップできます」(島村氏)

 立ち上げ時のメンバーは島村氏を入れて3人。それぞれネットワーク系、ソフトウェア系、UI系というバックグラウンドで、求めるハードウェアをゼロから作る知識や技術がある人はいなかった。そこで、最初はブレッドボードで試作機を作り、プラ板で筐体作りにチャレンジしたという。行けそうだと手応えを得たら、3Dプリンターで試作し、数ヶ月間駐車場に設置して、車の入出庫を取れるかどうかテストした。

docomo スマートパーキングシステム「Peasy」を担当する島村奨氏

Peasyで使われる「Smart Sensor」。380×380×50mmのデバイスで、アンカーボルトで固定するだけでOK。電源も不要だ

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