2017年03月09日07時30分

成功への鍵は事業部コミット 富士通が仕掛ける独自のスタートアップ協業モデル

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スタートアップと大手企業のコラボで生まれるメリット

富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか
「富士通アクセラレータプログラム」チーム

 イノベーションを起こすため、異業種、異分野それぞれが持つ技術やアイデアなどを組み合わせるオープンイノベーションが盛んだ。とくに近年では国内外のスタートアップとの連携を目指す大手企業の動きが目立つ。

 国内大手企業の場合、投資だけでなく協業という側面でも、従来なかったサービスやプロダクトを生み出すためスタートアップとのコミュニケーションを求める流れがある。現在第4期でスタートアップ募集を行っている「富士通アクセラレータプログラム」も、具体的な協業を狙った大手による取り組みの1つだ。

 IT大手企業としての同社主催の場合、スタートアップ側への利点はわかりやすい。多くの顧客を抱える事業部の決定権者とコンタクトをとって話をスタートできるといった点や広い顧客を抱えたコアな技術基盤への組み込み、またそもそもの伝統的な大手企業との協業という看板自体の影響力も、ビジネスをスケールするにあたって明確な強みになる。

 とはいえ大手とスタートアップでは、その規模や意識の違いからのディスコミュニケーションもあり、まだまだわかりやすい事例は少ない。各社ごとの事情も当然あるが、「オープンイノベーション」を実現するのはそう簡単ではない。

 とくに富士通などのように、非常に多くの事業部から成り立つ大企業の場合、スタートアップの持つ技術とベストなマッチングができる部署へといきなりつなげるのは難しい。大手ならではの複雑な社内体制を把握しつつ、バッティングのない事業マッチングをいかになすのか。

 第4期を迎えた富士通アクセラレータプログラムをリードする同社マーケティング戦略室の徳永奈緒美氏によれば、ポイントは「ゴールは事業部門とのマッチング」にあるという。

スタートアップへの立候補制で事業部のコミットを引き出す

富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか
富士通株式会社 マーケティング戦略室 シニアディレクター(ベンチャープログラム担当)の徳永奈緒美氏

 「第4期では、マッチング精度を高めるためにも、事業部側から『こういう技術やサービスと組みたい』という具体的なものを挙げてもらいました」(徳永氏)

 IT領域で幅広い事業がある富士通の場合、なかにはスタートアップと競合となる領域も多い。AIやFintechといった流行のテーマもいいのだが、せっかくよい技術やサービスを持っているスタートアップがエントリーしても、これまでうまくマッチングできないことがあった。そのため第4期プログラムでは、エントリー時に選ぶテーマがより具体的に設定されている。

 これ以外にも富士通アクセラレータプログラムでは、幾重にも重なった形で、スタートアップと社内事業部をつなぐためのマッチングの仕掛けが重視されている。

 同プログラムでは近しい業種のスタートアップを事業部につなぐだけでは終わらない。特記すべき点として、紹介のあとでそれぞれの事業部側からスタートアップと協業(検討)したい場合に、立候補してもらう形をとっている。

 これはスタートアップだけではなく、事業部にも本気になって取り組んでもらうためだと徳永氏は語る。「エントリーしてきたスタートアップと組む」と事業部側が自ら手を挙げることで、当事者意識を持たせるための方法だ。

 富士通ではかつて、現在のようなプログラム仕立てでない紹介でのスタートアップとのつなぎ込みも数多くあったが、そこからの実際の成果はなかなか生まれなかったという。タッグを組む事業部側にも、営業や開発の本業がある。新案件を取り込む意識がないため、具体的なリソースを割いて事業を進めるにも、時間がかかって前へ進まないことが多かった。

 現在では、最初のボールを富士通の事業部側に持たせることで、スタートアップとの取り組みでの中途半端な関係性を避けることが重視されている。立候補によっては、ときにはスタートアップ側が事業部を複数の中から選ぶケースになることもあるという。

 またこれらの背景には、「顧客から案件を受け取ると、絶対逃げない。必ず形にする」という富士通ならではの独特な企業カルチャーもある。スタートアップとの取り組みに対しても、事業部から手を挙げさせることで、プログラムへのコミットメントを作り出しているようだ。

スタートアップ側と積極的に関わる仲間が増えてきた

富士通アクセラレータプログラム

 実際の協業段階へ進んだあとのケアも忘れてはいけないポイントだ。

 3月21日に応募が締め切られる「第4期富士通アクセラレータプログラム」では、書類審査のあと4月4日にコンテストが予定されている。その後は各事業部と個別面談を行い、3ヶ月後に協業の成果を社内に公開、共有するデモデイを予定している。もちろん協業の成果が見えたら、その後も事業部とのやりとりは続く。

 スタートアップと大企業の組み合わせでは、打ち合わせなどを始めても、お互いのスピード感が違ったり、ゴール設定が曖昧であったりしてうまくかみ合わないことも多い。だからこそ同プログラムでは、検討スケジュールや検討課題をどんどん決めるよう事務局が促し、一定期間で一旦の答えを出すようにしているという。

 「3ヵ月の間は1~2週間に1度、事務局と事業部、スタートアップの3者の定例会をやっています。続けるのか止めるのか、とにかく話を進めるようにしています。組める可能性が低い場合、リソースの少ないスタートアップにとってはコミュニケーション自体が負荷になります。ある程度期限を決めて、そこで判断することが大切です。もちろん、企画継続の場合は、そのまま我々のケアも続きます」

 現在では、富士通社内の状況としても「スタートアップ側と積極的に関わる意思を持った仲間が増えてきた」と徳永氏は語る。3期を経験して、社内でのアクセラレータプログラムの認知度は大きく上がった。実際に第4期募集に向けて具体的な協業テーマを集めたときも、想定以上の数が集まってきたという。

 3期を通じて具体的な事業検討を社内でも重ね続けてきたことで、スタートアップとの付き合い方がわかってきた部署も増えてきた。すでにやりとりを経験している事業部からは、ブラッシュアップされた具体性の高いテーマが挙げられている。「AI」「IoT」といった大きなカテゴリだけではない、具合的に富士通側がスタートアップとともに歩みを進められる分野として明確化させている。

富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか
「バッテリレスセンサー技術とLPWA/Sigfoxを組合わせた新たな事業展開」や「自然言語処理技術(音声認識、多言語対応、方言対応など)」といったテーマは、現状の富士通が有する技術やアセットとの直接的なコラボレーションが目指されたものだとうかがえる。

CVCからの経験を蓄積したプログラム

 富士通アクセラレータプログラムを立ち上げから担当してきた徳永氏は、富士通社内でスタートアップへの出資も含めた提携を行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を担当していた経歴を持つ。

 自身の経験を通して、日本の大企業が世界と比べてスタートアップとの付き合いがまだまだ苦手な理由のひとつに、自社でやるものと外部に求めるものがなかなか明確に定義されないということがあると徳永氏は見ている。

 「かつてと比べると、スタートアップに対する関心は非常に高まっています。技術の進化が格段に早くなった現在、この状況でお客様へ先進的で価値の高い提案を実現するには、自社の製品や技術だけでは難しいと考えている事業部が本当に多いです。『技術面で大企業のほうが優れている』という時代ではすでにないと考えています」

 しかし、大企業にはまだまだスタートアップに対して、対等なパートナーではなく単なる発注先のようなイメージで接する人も少なからず存在する。徳永氏は、今は実績や結果を出すことで、そのようなスタートアップへの見方を少しずつ変えている段階だという。

 実際の協業が進む中でも、富士通のような大企業では、事業の決裁や意思決定に時間がかかることが少なくない。協業を進めるなかで、企業としてのスピード感の違いなども、事務局スタッフが間に入って調整しているという。そのため、立ち上げ時には2名だけだった窓口のスタッフも、現在では兼任を含めて8名にまで増えている。

富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか

富士通アクセラレータプログラムが目指すもの

 今回、別途取材を通して関わったプログラム参加スタートアップの中には、グロースフェーズとして富士通と抜群の相性だと言えるものがあった。富士通アクセラレータプログラムは3期を経て、事務局・事業部両面でノウハウの蓄積が進んでいる。

 「協業して100億円規模の売上げが得られるのかといったことを、始めから考えてもお互い一歩も動けなくなるだけですよね。まずは3ヵ月後の実証実験などの小さな成功を設定して実践しましょうと。100億円の売上げを考えるのもいいですが、それはお互いの小さな成功の積み重ねの先にあると思っています」(徳永氏)

 富士通アクセラレータプログラムが目指すのは、スタートアップと富士通の各事業部をより強く密接につなぐハブの役割だ。同プログラムでは、現時点で30社のほどのスタートアップが参加しているが、今後は常時、コラボレーションの相談ができる距離の企業を100社にも増やしていきたいと徳永氏は語る。

 富士通と関係する企業やスタートアップをつなげるコミュニティが生まれて、その中の企業と事業部が自由に組んでいくなかでの、新たなイノベーション創生に期待したい。

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