2017年03月07日08時00分

パナソニックが挑む大企業からのゲームチェンジ

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SXSWを目指すゲームチェンジャーたち パナソニックで生まれた胎動

 昨今、多くの企業が商品の企画・開発に”オープンイノベーション”の手法を取り入れている。とりわけ起業からの歴史が長く、創業者もすでに不在の大企業では成功例も多く見受けられる。他社や大学、地方自治体、社会起業家などが持つ技術やアイディア、サービスなどを取り入れることで、硬直した組織に潤滑油を注ぐような効果が得られる。

 しかし、ものづくり企業の場合は難しい側面も少なくない。製造業はソフトウェアやサービスなどの事業とは異なり、大きな資産を抱え込まざるを得ない側面が少なからずある。もちろん、さまざまな技術・生産環境の変化はものづくり産業への参入障壁を下げているが、大きな会社とは馴染まないことも少なくない。

 なぜなら、大きな規模でのビジネスを作れる(それだけの生産能力と営業力など)ことに大企業の価値があり、そこにベンチャー的な”小回りが利く組織でより良いアイディアを元に小さく、素早く始める”手法をそのまま持ち込んでも本来の利点を活かせないこともあるからだ。

 しかし、”社外に対して開かれた手法でなければオープンイノベーションではない”という制約を取り外してみると、既存の大企業という枠組みで、その企業が持つ本来の力を引き出すという意味において”オープンイノベーションの精神”を取り入れることはできるのかもしれない。

 パナソニック・アプライアンス社が2016年春に始めた「Game Changer Catapult(GCC:ゲームチェンジャーカタパルト)」は、オープンイノベーションに長けた外部アドバイザーを迎え、方法論やコンセプトの面でのオープンイノベーションを取り入れつつ、社内の活性化、従来のパナソニックとは異なる手法での製品開発、プロジェクト編成を模索するプロジェクトだ。

 本来、社内改革プロジェクトとして進められてきたGCCだが、パナソニック・アプライアンス社の協力を得て、その取り組みについて取材を進めることができた。

”新規事業を創る”のではなく”生まれる環境を整える”

 近年、大企業の中で”イノベーション活動”などの名称を付けられた企業活動に関して、相談を受けることが何度かあった。しかし、深く考えてみると、どこか妙ちくりんな表現に聞こえてしまう。近年の大企業では、大企業の枠組みを崩さないままイノベーティブな商品や技術に取り組もうという活動が活発化しているが、そもそも”活動”でイノベーションは起こせるのだろうか?

 同じように感じているひとたちは「自己啓発本を読んで人生が変わると思っている人たちと同じ」と断じて、冷ややかに見ている人もいるのかもしれない。人生の転機を創るのは自分自身であるように、技術、製品、サービスなどにイノベーションをもたらすために必要なのは、雁首を並べて討議することではない。

 しかし、一方で企業組織というのは、個人よりも全体の和で物事を進める要素が強い。よほど強い個性とともに前へ前へとドライブする力が強い個人の想いがなければ、組織全体に影響を与えるほどのエネルギーが働かない面もある。

 つまり、活動によってイノベーティブな新規事業を”創出”はできないかもしれないが、大企業というスケールの大きな枠組みの中で、イノベーティブな発想・事業提案が”生まれる環境を整える”ことはできるのではないだろうか。

 大企業におけるボトムアップのイノベーション活動、あるいはベンチャー企業との協業がうまく行きにくいのには、それなりの理由がある。しかし、では大企業は鈍するのみで、変化の速さに追従できないのかと言えば、そうとは言い切れない。

 大企業には”重さ”もあるが、一方で揺るぎない基盤もあるからだ。要素技術の蓄積だけでなく、アイディアさえあれば外観デザインだけでなく、細かな機構設計から量産、流通、保守などに至るまで、必要なエレメントがすべて社内でそろう。それぞれのリソースを使うには、それなりに費用もかかるが、”ないないづくし”で立ち往生することは少なくともない。

 そんな大企業ならではの良さを活かし、新しいアイディアが製品化へとつながる流れを作ることはできないのだろうか? パナソニックのGCCは、そうした可能性を感じさせる新プロジェクトである。

集まるアイディアやプロジェクトのほとんどが既存事業の継続商品ばかりのなかで何を行なうか

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パナソニック株式会社 アプライアンス社 海外マーケティング本部 新規事業開発室 室長の深田昌則氏

 ”新規事業開発室”。まさにイノベーションの源泉とも言うべきアイディアが求められる部署の室長を任された深田昌則氏は、半年間、パナソニック・アプライアンス社に変化をもたらすにはどうすれば良いのか。さまざまなアイディアを検討していた。

 2014年夏まで、商品販売の現場を経験していた深田氏は、カナダにおけるパナソニックブランドの急速な伸張を目の当たりにしていた。消費者からの新商品に対する期待も高く、ブランド力も高かった。理由は高画質なプラズマテレビの供給にあったという。その後、パナソニックはプラズマテレビからの撤退を決め、カナダにおけるパナソニックはその中心となる商品を失う。

 しかし、ブランドの中核を担うユニークで画期的な製品があれば、パナソニックブランド全体が底上げされることを、販売の現場でハッキリと体感できたという。

 同じようなことは、中国におけるパナソニック電工の商品でもあった。キッチン家電や美容家電に対するパナソニックへの信頼は厚く、常に新たな商品ジャンルの開拓への期待にあふれている。

 しかし、ひとたび日本に戻って家電事業における”新規事業開発”を見つめ直してみると、集まってくるアイディアや進んでいるプロジェクトはほとんどが既存事業の継続商品ばかりだった。すでに大きなプレゼンスのある既存事業領域で改良を加えていれば、収支がきちんと保てるからだ。

 しかし、当然ながらそこから新しいアイディアは生まれてこない。

 そんな折、アプライアンス社の社長に就任していた本間哲朗氏を中心に、中期事業計画を作成するプロジェクトに深田氏も加わった。この中で決めた9つの事業プロジェクトのひとつとして、2025年を想定した次世代のパナソニックを担う事業の創出することにした。

 10年後にどうパナソニック・アプライアンス社があるべきなのか。これまでも、”暮らしの願いを形にする”ことが事業ビジョンだった。技術の前進が、常に商品の改善を意味する時代はそれでも良かったが、あらゆる商品ジャンルの性能・機能が底上げされてくると、別の切り口が必要となってくる。

 世の中の社会的課題や大きなトレンド遷移を読み取り、何が必要とされているかを読み取り、その解決策を提案する。そのような商品・事業の計画でなければ、画期的な商品は生まれてこない。

 「これまで成功してきた経営手法、発想、それに組織の形が、今後は通用しなくなるのではないか。ではどうすればいいのか? 従来とは異なる発想を、社内から集めていくにはどうすればいいかを議論した」(深田氏)

単なる社内ベンチャーでは継続性はない

 もっとも、社内でさまざまなアイディアを集める社内ベンチャーコンテストなどは、パナソニックでもずっと昔から行なわれてきた。しかし、アイディアを集めても30代から40歳ぐらいまでの中堅が集まって数ヵ月プロジェクトを練り、プレゼンしてコンテストに勝ってもそこで終わり。プロジェクトは解散し、それぞれのメンバーは経験だけを糧にして、本来の部署に戻っていく。

 実際に商品化するには、相応の予算と商品化するための組織が必要になるからだ。機構設計を行ない、電気設計を行ない、外観デザインも行ない、流通に乗せて販売を行ない、広告宣伝も行なわねばならない。

 しかし、まったくの新規プロジェクトはリスクが大きいため、安定した収益があり、また商品ジャンルが固定化された成熟市場では、既存の事業ラインに乗らないアイディアは、どんなものであれ商品化に向けた投資が行なわれずに消えていく。結果、アイディアはアイディアだけで消えていくのが当たり前で、そこから商品化を期待する雰囲気そのものが、社内には存在しなくなっていく。

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 このような流れを打破するため、社内のさまざまな部署に所属する人間がアイディアを出し合い、ひとつのバーチャル組織を作り上げ、社外のアイディアや意見も取り入れながら商品化直前のところまで持ち込めるようにすること。そして、”どうせ社内ベンチャーの提案を行なっても前には進まない”というあきらめの空気を一掃する方法を考えた。

 最初に決めたことは、GCCで進めるすべてのプロジェクトは、本間社長の直轄事業であり、そこにかかる予算が特定事業部の負担とならないようにした。そのうえで、事業部の意向にかかわらず、最後まで生き残って商品化を達成したプロジェクトは、米テキサスで開催されるサウスバイサウスウェスト(SXSW)にブースを構えて来場者にプレゼンテーションする権利と、パナソニックとして事業化検討を行なうことを保証することとした。

”パナソニックでなければ実現できない”アイディアを

 GCCは2016年春に応募を開始し、44組の応募が社内からあったという。初年度ということもあり、多種多様、異種格闘技戦のように、ひとつの枠組みでは括れないさまざまな内容だったそうだが、その中から1次選考を行なうにあたって基準としていた考え方、ポリシーがあった。

 それは、”大企業がベンチャー企業のもの真似をするのではない”ということだ。

 深田氏は「マイクロソフトやアップルが現れてもIBMが生き残ったのは、IBMだからこそ可能なITソリューションビジネスを提供し続けたからだ」と話す。

 ベンチャーにできることを大企業が模倣するのではなく、パナソニックが持つ規模や生産技術、グローバルに流通させるネットワークを活かしたプロジェクトに仕上げられる可能性が見えることが重要となる。

 パナソニックは言うまでもなく巨大企業だ。恐竜に例えられる巨体が、時に邪魔になることはもちろんあるだろう。組織的な問題もあるのかもしれない。しかし改善を加え、血の巡りがわるくなった部分を治療していくとしても、これまで築いてきた長所を捨てる必要はない。

 従来のパナソニックからは生まれなかったアイディアを、パナソニックでなければ実現出来ないプロジェクトとして育てる。そんなコンセプトで開催された第1回目のGCCの結果がいよいよ今月行なわれるSXSWにて1つの区切りを迎える。

 合計8つの事業アイディアがオースティンでお披露目となるが、今回ASCIIではパナソニック社の協力を得て事前に特別な取材も実施した。この結果の前兆について、次回はさらに掘り下げて行くことにしたい。

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