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2017年はイスラエルスタートアップ日本進出飛躍の年になるか

2017年01月12日 09時00分更新

「ASCII STARTUP 業界ポジトーク」は、ベンチャー、スタートアップ、テクノロジー業界で活躍するインキュベーターらを著者に迎え最新情報を共有する“ポジショントーク”連載です。

「スタートアップ大国」イスラエル関連のニュースが以前に比べて増加している。本記事では、2016年に起きたイスラエルのスタートアップと日本企業の間で起きた連携をつなぎ、また見てきた筆者(Aniwo植野)がその事例を紹介し、2017年の展望を記そうと思う。

日系大手企業とイスラエルスタートアップとの連携

「オープンイノベーション」の枠組みを活用した形での新規事業開発や研究テーマの探索が日本企業の中で急務となっている。提唱者であるチェスブロウ博士によると、「技術を進歩させるために、企業が外部のアイデアを内部と同様に活用し、内部と外部の市場への経路を活用することが可能であり、また、そうしなければならないパラダイムである」とあるが、「外部」の対象はイスラエルのスタートアップにまで及ぶ。

 ソニーは、LTE通信向けモデムチップ技術を保有するAltair Semiconductor(アルティア社)を約250億円で買収し、当社の保有する高性能で低消費電力、低コストを実現するモデムチップ技術とソニーが保有するセンシング技術を組み合わせることで、通信機能を持った新たなセンシングデバイスの開発に取組む。KDDIもアルティア社の技術を活用してIoTデバイスの長時間稼働とモジュール開発費削減に取り組むことを発表している。

 また、日本電気株式会社はイスラエルのRadiflow社と、サイバー・フィジカル統合セキュリティ基盤の研究開発を行っているが、2020年の東京オリンピックの開催に向けて、サイバー、フィジカル共に優れた技術を保有するイスラエルの企業が多く安全な都市づくりに向けて活躍することが見込まれる。

 これまでIoT、セキュリティの事例を紹介したが、ブロックチェーンを活用して仮想通貨発行を可能にするゼロビルバンクは三菱東京UFJ銀行が国内で主催する「MUFG Digitalアクセラレータ」内での出会いから、カブドットコム証券と連携し、企業内の仮想通貨発行を可能にし、社員の生産性向上の取組みを進める。

 ヘルスケア領域では武田薬品工業が3年ほど前に支社をイスラエルに設立、インキュベーションプログラムなどを通じてスタートアップの発掘や連携の模索を進めているが、2016年の夏に大規模なイベントを開催、創薬にとどまらずAR、VR技術の活用や脳波測定のウェアラブルデバイスおよび解析エンジンを開発する企業などとの連携を行っている。

増加するイスラエルスタートアップへの投資

 独立系ベンチャーキャピタルやコーポレート・ベンチャーキャピタルも国外スタートアップへの投資という文脈ではシリコンバレーの企業への投資が主流だったが、2016年はイスラエル企業への投資の案件も増えている。

 例えば、独立系ベンチャーキャピタルのグローバルブレインは、機械学習を活用したモバイルアプリのユーザー獲得およびエンゲージメント向上を実現するYouAppiのシリーズBでの投資ラウンドにリード投資家として参加、さらにグローバルブレインが運用を行う三井不動産のコーポレート・ベンチャーキャピタルの31 Venturesからは、建設現場向けの自立飛行ドローン技術を開発するDoronomyへのリード投資も行っている。

 他にも、三菱UFJキャピタルによる、画像処理、機械学習技術を活用したビルオートメーションの実現を目指すPointGrabへの出資や、NTTドコモ・ベンチャーズは個人に最適化された動画広告配信を可能にするSunday Skyへの出資とクレジットカードの不正利用分析技術を保有するRiskifiedへ出資するなど、投資の案件も増加している。

2017年の展望

 2015年以前と比べると、2016年は大手企業を中心にイスラエル企業との協業を目指す日系企業が増加した。イスラエルがこれまでの紛争やテロのイメージから、「技術、スタートアップ大国」として見方が変わってきていることは弊社Aniwoの活動を通しても体感しているが、2017年はさらに、特に大手企業のオープンイノベーションという文脈で、イスラエルのスタートアップ企業の持つ技術をいかに活用するかという点での具体的な事例が増加すると同時に、スタートアップや技術の探索の際にシリコンバレーや東南アジアだけでなくイスラエルも視野に入れるのがいわば「当たり前」になるのではないかと推測している。

 特に2020年のオリンピックに向けたセキュリティや、自動運転車の領域、法整備が進む遠隔治療や仮想通貨、日本が強みを持つコンテンツ産業との連携が見込まれるAR/VRやIoTなど多くの領域で先進的な技術を保有するイスラエル企業との連携が増加するだろう。

植野力(COO & Co-Founder/Aniwo)

著者近影 植野力

2014年にイスラエルに渡り、独自のアルゴリズムでイスラエルのスタートアップと世界の投資家をつなぐ。マッチングプラットフォーム「Million Times」を運営するAniwo社を共同創業。昨年末より日本支社を担当。

●お知らせ
 イスラエルのスタートアップ業界の解説と具体的な企業を紹介するイベントPitchTokyoの第11回を1/17(火) 18:30から、「ブレインテック」(関連サイト)をテーマに開催するのでご興味のある方はぜひお越しいただきたい。ブレインテックとは脳波や中枢神経の活動の測定や解析し、モバイルヘルスケア業界や教育、マーケティングに応用する領域で、現在イスラエルでは当領域だけで100社以上の企業が活動している。

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