2017年01月10日09時00分

生産性を上げて長時間労働を減らすには何が必要か?

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Vol.953 生産性を上げて長時間労働を減らすには何が必要か?

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物価上昇を考慮した実質労働生産性の国際比較。欧米諸国と比べて日本は格段に低い。『平成28年版 労働経済白書(労働経済の分析-誰もが活躍できる社会の実現と労働生産性の向上に向けた課題-)』よりhttp://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1.pdf

 日本経済が停滞しているのは、もっぱら少子化やデフレのせいだと思われているが、じつはそれ以外の要因も大きいことを、白書は(小さな声で)指摘している。

日本の生産性上昇を支えるデフレと少子化

 白書にも〝個性〟がある。

 以前本連載で取りあげた情報通信白書のように、海外との比較調査を大きく扱ったり、強い主張を打ち出す白書がある一方で、データを淡々と説明している白書もある。

 労働経済白書は後者のほうだ。おもしろみが感じられないし、何を言いたいのかよくわからなかったりもする。しかし、読みこんでみると、日本の労働や経済の問題がよくわかる。

 前回、経済財政白書をもとに、日本の企業は解雇がしにくいことから、仕事が増えると人を増やさず、労働時間を長くしてこなそうとする。だから、長時間労働になりやすい状況になっていると書いた。しかし、スウェーデンなどの場合、解雇はしにくいまま、職業訓練や資格取得などにお金を使って雇用可能性を高めて採用を増やし、長時間労働を防いでいる。要するに、生産性を上げれば、長時間働かなくても、仕事をこなせるわけだ。

 こうした国々に比べると、日本は異様なまでの長時間労働の国だ。なぜそうなるのかは、今年の労働経済白書を見てもわかる。労働生産性が欧米諸国と比べて格段に低いのだ。OECD諸国の生産性は日本の1.5倍から2倍。大きな開きがある。

 物価要因を考えない名目生産性は、日本ただ一国ほとんど伸びていない。物価を考慮している実質生産性の上昇のスピードは日本も他国とあまり変わらないが、日本は物価が下落していてモノの価格が下がっているぶん、実質生産性が上昇して見えるだけだ。

 さらに日本は、少子化で就業者が減りつつある。少ない頭数で同じ仕事をこなせば生産性は上がったことになる。少ない人数で同じ仕事をこなす過酷な条件で、日本は形ばかりの生産性を維持しているわけだ。

 労働経済白書は、製造業はデフレ要因、飲食サービス業は労働投入の減少によって生産性が上昇していると、きわめて皮肉な結果を淡々と記述している。

情報化も人の育成も遅れている日本

 情報通信白書を取りあげたときに、日本の労働者は、アメリカと比べて、テレワークも人工知能の導入も遅れていて、人工知能に対する期待度も低いという調査結果を紹介した。情報通信白書は、アメリカ人だけでなく、多くの国と比較した調査結果も載せている。いずれ取りあげるつもりだが、他国と比較すると、情報通信先進国とはとても思えない日本の消極的なようすが見てとれる。

 経済成長しないのは、少子高齢化とかデフレだけでなくて、技術力の導入が遅れているからでもある。よく言われるように工場などの機械化は進んでいるものの、ホワイトカラーの生産性が低い。長時間労働をしているのはそのためもある。

 そうしたことは、労働経済白書のデータでも示されている。日本は、情報化資産と人的資産の上昇率が低い。情報化資産というのは、IT投資からPCなどのハードウェアや通信設備などを除いたソフト面の資産だ。日本の上昇率は、’10年までの15年間で、’00年代前半を除いて英米ドイツと比較すると最下位だ。

 人的資産も、他国が上昇しているのに日本は下落している。企業が人を育てることを怠ってきたという「やっぱり」という気もすると同時に衝撃的でもある事実が浮き彫りになっている。

 情報化資産と人的資産に加えて、研究開発や著作権、デザインなどの革新的資産を合わせた〝無形資産投資〟が生産性を上げることもデータからは明らかになっているが、日本は後れをとっている。

 日本の経済停滞の原因は、もっぱら少子化やデフレのせいにされているが、じつはそれ以外の要因も大きいことが見てとれる。少子化やデフレの問題をことさら語ることによって、こうした問題を見えなくしているとも言える。

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企業規模別にみた業務を離れたトレーニングを行っている事業所の割合(2014年度)。大手と中小、正社員と非正社員で大きく違っている。『平成28年版 労働経済白書(労働経済の分析-誰もが活躍できる社会の実現と労働生産性の向上に向けた課題-)』よりhttp://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1.pdf

労働者の教育や訓練をしないとみんなが不幸に

 生産性を上げるためには、仕事を離れた能力開発(OFF-JT)をする必要があることもデータから確かめられる。スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国のOFF-JT実施率は6割から7割だが、日本は4割。英国やスペイン、イタリアよりはましだが、かなり低い。

 そして、正社員と正社員以外では大きく違う。正社員で自己啓発を行なっているのは4割前後、とくに1000人以上の大手は5割を超えているが、非正社員は大手でも2割。非正社員の割合が増えれば、能力開発の機会が少ない労働者が増えていくことになる。

 日本の企業は人件費を下げるために非正社員を増やしてきたが、そのことによって生産性が落ち、競争力を失ったわけで、何とも皮肉な話だ。

 また、学習や訓練に費やす時間が長いほど産業間の労働移動がさかんだ。教育や訓練を積めば、より待遇のいい業種に移ることができる。待遇のいい業種は生産性が高く、賃金が払える。そうした業種に人が移っていけば、全体の生産性も高くなっていく。逆に、転職しにくければ生産性の低い企業が温存される。欧米諸国と比較して日本は、産業間の労働移動が生産性の上昇に与える効果が大きいこともデータから見てとれる。

 さらに求人を出している企業の3分の1が、「応募はあるが、応募者の資質が自社の求める水準に満たない」と答えている。労働者がレベルアップをはかれる環境がないと、雇用のミスマッチが解消されず、企業も困ることになる。前回取りあげた経済財政白書でも、OFF-JTを受けさせたい企業も、社員がOFF-JTに参加する時間的余裕がなく、それは長時間労働が妨げになっていると指摘されていた。OFF-JTが問題解決のカギを握っている。

問題のありかははっきりしているが……

 日本経済の問題も労働環境の問題も構造的要因が大きいが、逆に言えば、構造さえ変われば、大きな変化が起きる潜在的可能性があることになる。

 構造問題の根っこに何があるかと言えば、非正社員の増加と長時間労働だ。長時間労働があるから、能力開発ができず、生産性が上がらず、競争力もない。非正社員は能力開発の機会が乏しい。非正社員を減らすか、非正社員にも正社員同様の教育の機会を与えることが必要だ。そのためには、非正社員も長期雇用を前提にする必要があるだろう。

 企業が能力開発をする余裕がないならば、労働者ひとりひとりがお金の心配なく、仕事を離れて勉強する機会と時間を政府が得られるようにする必要がある。そのためには、少し前に書いたように、政府が国民に最低限の生活ができるお金を保障するベーシック・インカムの制度なども考えるべきだろう。

 白書をちょっと見ただけでも、何をすべきかは容易にわかる。当然ながら、白書をまとめた官僚たちもわかっているはずだ。それができないできているのはなぜだろう。ほんとうに考えなければならないのは、そちらのほうかもしれない。

Afterword
 49%の企業、57%の労働者が人手不足だと感じているという調査結果がこの白書に載っている。人手不足だから長時間労働になって、学習や訓練の時間もとれない。生産性が上がらず、仕事が片付かない。人手不足の状態が解消されず、長時間労働になる。本文でも書いたけれど、完全に悪循環になっている。

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