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IT業界にとっても「働き方改革」はビッグウェーブになってきた

2016年10月20日 09時00分更新

 10月13日、日本を訪れたアップルCEOのティム・クック氏は、BuzzFeed Japanのインタビューに対して「一人がこれ以上さらに働くことは不可能だ。長時間労働は正しい答えではない」と、働き方についての考え方を述べています。

 また、10月17日からは日本マイクロソフトも昨年のテレワーク週間に続き、「働き方改革週間2016」を開始。安倍政権が掲げる日本の「働き方改革」は、IT業界にとってもビッグウェーブになりつつあります。

「どこでも働ける=24時間働く」ではない

 IT機器を利用した働き方改革として、テレワークのように「場所を選ばずに働ける」のは分かりやすいメリットです。もちろんそれは長時間労働のためではなく、移動中のスキマ時間などに仕事を終わらせてしまうことで、自分や家族のために使える時間を増やすことが本来の目的です。

 都市部では通勤時間も問題です。誰もが通勤する必要がなければ、オフィスのコスト削減にもつながり、満員電車の混雑も緩和されるはず。在宅勤務で問題になりがちな「家では集中できない」とか「狭すぎる」といった点も、最近では「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」といった施設が続々とオープンしており、フリーランスの筆者も毎日利用しています。

 在宅勤務を支援する技術も出てきました。資生堂が日本マイクロソフトと協力して開発した「TeleBeauty」は、自宅でテレビ会議に参加するとき、ソフトウェア的にメイクを施すアプリとして大きく話題になりました。(動画

ソフトウェア的にメイクを施す「TeleBeauty」。(資生堂が公開した動画より)

生産性向上にITが貢献できるか

 日本における長時間労働の実態は、10月7日に厚生労働省が公表した「過労死等防止対策白書」が示しています。

「過労死白書」。1万社の企業を対象とした調査だが回答したのは1743社にとどまっており、回答しなかった企業が気になるところだ。

 今後、労働時間を短くするための議論が進められていくとはいえ、売上や利益が減るのではないか、といった不安から反発もありそうです。会社での労働時間が短くなっても、自宅でのサービス残業が増えては意味がありません。また、残業代をあてに生活している労働者からも反対の声が上がることが予想されます。

 そこでITが貢献できると思われるのが、生産性の向上です。公益財団法人である日本生産性本部の調査によれば、日本の労働生産性は主要先進7カ国で最低という状態が続いています。しかし、労働時間を短縮しても同じ収益を確保できるならば、誰もが賛同できるでしょう。

 気になるのは、情報通信業の44.4%の企業が、最も残業の多かった月の残業時間が80時間を超えていると回答している点です。いわゆるSIerで働いていた頃の筆者の経験では、過労で亡くなった人は直接の知り合いとしてはいないものの、心の健康を害して前線を離れた人は一人や二人ではありません。

 もちろんITを「使う」のと「作る」ことには大きな違いがあるとはいえ、まずはIT業界が残業を減らせなければ説得力に欠けるところ。そういう意味では、自社でテレワークを実践してきた日本マイクロソフトに833社もの企業が賛同したのは肯けるものがあります。

 なにより、働き方改革に積極的であることは、優秀な人材を惹き付けるための必須要件になりつつあります。優秀な人が集まる会社は、日本国内の新しい市場や海外市場に次々と進出し、その動きがさらに人材を連れてくるという好循環が期待できます。

「日曜にお店が閉まる」社会はどうか

 このように働き方改革が進んでいくと、究極の姿としては「日曜にお店が閉まる」時代が来るのではないかと筆者は考えています。たとえばドイツでは駅や空港、飲食店などを除いて、日曜日にはお店を営業できないことが法律で決まっています。コンビニはもちろん、駅前の家電量販店や老舗の百貨店も例外ではなく、日曜は休みです。

ベルリンの家電量販店「SATURN」も日曜は休み。日本で「日曜に店が休み」という習慣は受け入れられるだろうか。

オランダではお店が閉まる時間も早い。18時にはドアに鍵がかけられ、店員さんも帰ってしまう。

 たしかに不便ではあるものの、生活ができないほどではありません。買い物だけでなく、お役所や銀行などの手続きもオンラインで済むようになれば、営業時間はもっと短くできるはず。「ライバルが働いているので休めない」と全員で苦しむのではなく、休むときはなるべく全員で休むというのも、ひとつの手だと考えます。

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