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どこまで自動化できる?95兆円市場の問題点を解決

まずは電話応答から Fintechに取り残された投資信託を変えるロボット投信

2016年10月07日 07時00分更新

 ネットを使うのが当たり前の株式の売買。しかし、金融商品の中には現在でも証券会社の営業担当者を介して売買されるものも。中でも投資信託は、その代表といえる金融商品である。

 「投資信託は現在でも対面販売が中心で、顧客は年金をもらっている高齢者中心。自分でインターネット、アプリといったものを使うことはない、電話でコールセンターに問い合わせる人が多い」とロボット投信株式会社の代表取締役である野口哲氏は指摘する。そして野口氏は次のように続ける。「問い合わせが多いうえに、簡単に回答するのが難しいことが投資信託の特性。つまり、問い合わせを受ける証券会社にとってこの負荷が大きい。ロボット投信が提供するのは、銀行や証券会社の負荷を下げるサービス」

 ブロックチェーンや人工知能の躍進など、Fintech界隈が盛り上がるなかで、証券会社の負荷を下げるサービスがなぜ必要なのか。ロボット投信が目指すビジネスとともに聞いてみた。

ロボット投信株式会社の野口哲代表取締役

現在でも対面販売が多い投資信託

 ロボット投信のサイトを開くと、トップページには「投信業務の『読む・書く・話す』を自動化」と書かれている。

 「保有している投資信託の現状をコールセンターに問い合わせても、きちんと答えが出ないことが多い。そこで電話ベースの自動応答システムを提供し、技術による問題解決を実現し、業界全体を改善していきたい」と野口氏は話す。

 10月現在、投資信託を購入した人が専用番号に電話をかけると、運用状況を把握できるシステムの試験運用を実施しており、投資信託を販売する証券会社などを通してサービスが提供される準備が進んでいる。

 なぜ、問い合わせ対応での問題解決が必要なのか。そのためには、投資信託について理解する必要がある。

 そもそも、「投資信託」とはどんな金融商品なのかご存知だろうか? 一般社団法人の投資信託協会では、次のように説明している。

 「投資家から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品で、その運用成果が投資家それぞれの投資額に応じて分配される仕組みの金融商品」(投資信託協会)

 投資信託は、証券会社、銀行など金融機関で販売されているが、現在でも購入者の中心が高齢者だ。これは少ない金額からの投資が可能で、運用は自分ではなく専門家によって行われること、また元本は保証されないものの分散投資となるため株式投資などに比べリスクが少ないといったメリットから、資産運用を考える高齢者が国内では主な購入者となっている。

 そのため販売は営業担当者を通じた対面販売が多い。インターネット販売が主流となっている株式売買とは対照的だ。

コールセンターが抱える問題点を解決

 高齢者が多い投資信託の現状を野口氏は次のように説明する。

 「資産は持っているが、自分で運用していく知識はないという方が多い。購入についても、株式のようにインターネットを使って自分で調べて購入するのではなく、営業担当者を介した購入が現在でも主流。さらに、対面での資産運用のためのコンサルティングを受ける過程で運用するスタイルが現在でも多い」

 販売後、問題になるのが運用経過を把握する方法だ。提供されている目論見書を見れば、その投資信託の方向性は理解できる。だが、日ごとの運用経過がどうなっているのかを調べるのは簡単ではない。

 「最新の運用経過がどうなっているのかという問い合わせがコールセンターに入ることはあるが、返答は難しい。投信には複数の金融商品が含まれているため、電話をかけてきた相手が持っている投信の運用状況を調べるには、それぞれの状況を調べ計算しなければ回答ができない。また、投資信託の商品には似た名前が多く、たとえばまったく異なるものなのに『○△□投信A』、『○△□投信B』といったよく似た名前がついているものも。このような複雑な背景もあり、電話応対で、正確な回答をするのは大変厳しい」

 実情としてコールセンターに電話が寄せられても、営業担当者から折り返し返答を行うことになる。ここで、担当者としては問い合わせに答えるための作業が負担となっているという。

 営業担当者は、勤務時間中は個人所有のスマートフォンなどを利用することは禁止されることが多く、支店の場合、事業所に投信の運用状況を調べることができる端末は1台だけということもあるそうだ。コンプライアンスと情報漏洩対策が背景にあり、問い合わせを受けてもすぐに応答ができない環境になっている。

 「実は新聞にも投資信託の情報は掲載されている。しかし、こちらも名前が似たものが多く、経済紙以外では残高の大きい商品しか掲載しておらず、文字も小さいために高齢者の方が必要な情報を探し出すのは難しい。そのため、リアルタイムの運用経過ではなく、販売会社などが発行する月次の運用報告書を読んで、状況を把握する方が多い。即時性がない情報で判断せざるをえないのがそもそも問題」

 新聞などに公表されているデータをもとに、自分で運用している投資信託の運用経過を計算することはもちろん可能だ。だが、対面販売で投資信託を購入するような高齢者は、自分でパソコンやスマートフォンを使うことも苦手な人が多い。そこでタブレットとアプリを提供して問題を解決しようという動きもあったが、解決にならないことも多いようだ。

 「購入者ではなく、証券会社など投資信託を販売する証券会社などに向けたシステム製品も開発されているが、あくまでもプロ向け商品。実際に投資信託を購入し、自分でパソコンやスマートフォンを使えない人向けのサービスは確立されていない」

画像提供:ロボット投信

 このような問題解決のためにロボット投信では、顧客が専用番号に電話をすると、自分が購入した商品の運用経過を音声で案内するサービスを提供している。

 「当初は音声認識機能を使い、1つの電話番号に電話して、音声でその人を確認し、購入している商品に関するアナウンスを行うサービスを予定していたが、現時点では音声認識では実現が難しいことが開発段階でわかった。方言を持った方の音声認識の問題や、試験を行った際に、『あの……これ……』といった固有名詞が含まれない対応も多かった。電話をかけてくれた方が話すよりも、専用番号で音声応答を行う方がよいと判断した」

 ロボット投信という社名からはAIを活用し、全自動で投信のサポートをするサービスを提供する企業というイメージがあるが、投信という商品の特性に合わせ、まずは投信購入者が使いやすいサービスの提供から始めることにしたという。

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