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スマートフットウェアのプラットフォームを目指す「Orphe」

ポケモンGOでわかったネットにつながる靴が与える衝撃

 「Orphe(オルフェ)」は株式会社 no new folk studioが販売するスマートフットウェア。スニーカーのソールの部分をぐるりと縁取る100個のLEDが、履き手の動きにあわせてさまざまな色合いで光り、音を奏でる。ダンサーが着用して暗闇の中で踊れば、色とりどりのLEDは美しい軌跡を描き、ダンサーの身体表現を一段と引き出す。

 no new folk studioは2014年10月に創業。2015年に行われた米クラウドファウンディングサイトIndigogoのキャンペーンでは、当初目標の214%である110,717ドルを達成した。翌2016年6月には三越伊勢丹新宿本店で予約販売が行われ、ついに2016年8月にIndigogo出資者への配送を開始した。8月24日には伊勢丹2店舗での期間限定先行発売も始まっている。

 単なるハイファッションでアートなLEDシューズではなく、目指す先はスマートフットウェアのプラットフォームだというOrphe。製作元のno new folk studio、CEOの菊川裕也氏に、ネットにつながる靴が持つ可能性についてお話をうかがった。

no new folk studioの菊川裕也CEO

特徴は、リアルタイムで靴の動きをトレースすること

 Orpheは約100個のフルカラーLEDと、9軸モーションセンサー、Bluetooth Low Energy通信モジュールを内蔵したスマートフットウェアシステムだ。スマートフォンのアプリケーションで光と音をコントロールすることができ、日常生活やパフォーマンスを鮮やかに彩る。ダンサーの菅原小春さんが着用して、暗闇に美しい軌跡を描いていたTOYOTA vitsのCM(2015年放映)で、その様子を目にした人も多いだろう。

 このOrphe、単なるおしゃれなスマートフットウェアというだけではない。ソールに仕込まれた9軸モーションセンサーは、靴の角度や方向はもちろん、踏み込みの強さや、つま先、かかとのどちらで踏み込んだかなどを情報として取得する。光や音のコントロールはiOS、Android対応の『Orphe App』で設定することができる。

 さらにMac OS X対応の『HUB APP』とOrpheを接続すれば、センサーで取得された情報をリアルタイムにグラフとして表示することが可能だ。このソフトは足の向きと姿勢を画面上のCGに反映。HUB Appはさまざまなアプリケーションと連携するためのもので、OSC(OpenSound Control)プロトコルのインタフェースを搭載している。今後はSDKを提供し、APIも開放する予定だ。

 つまり、靴型のコントローラーを用い、さまざまなアプリケーションやガジェットのコントロールができる可能性を秘めたOrpheは、パフォーマンスの美しさをさらに引き出すスマートフットウェアでありながら、同時に入出力のためのデバイスという側面も持ち合わせている。

 一般的なハードウェアスタートアップのビジネスモデルとしては、プロダクトを製造・販売することで利益を出していくものと、BtoB向けや受託事業で技術を提供していくというものがあるが、no new folk studioではOrpheのBtoCも行いつつ、スマートフットウェアシステムそのものをプラットフォーム化していく将来像を描く。

 「入力と出力が靴に備わっていて、インターネットにつながり、製品化されていて、実際の使用に耐えうるスマートフットウェアが現時点では驚くほど少ない。今後は、ブランドとコラボレーションして、Orpheのテクノロジープラットフォームを組み込んだ靴なども提供していくことができると思う」(菊川氏)

 描く未来は明るいが、現状ではそもそもスマートフットウェア市場に参画している企業が少なく、自社が先頭を切って、市場自体を拡大させていく必要があるとも菊川氏は言う。そのため、スマートフットウェアのさまざまな活用事例を模索中だ。

AKB48の舞台では16足を同期して演出

 活用事例の一例が、エンタテインメント分野での展開だ。2016年夏に開催されているAKB48の公演では、実際に16人のメンバーがコンサート中にOrpheを着用。16足の靴が同期し、ダンス中の足元を鮮やかに照らす。照明を落とした舞台の上で光るLEDは、演出としての効果も抜群。エンタテインメントの現場で実際に使用できることを証明し、Orpheというジャンルを作ろうという取り組みのひとつといえる。

 バンド「水曜日のカンパネラ」のパフォーマー、コムアイさんともコラボレーションをしており、この6月にサンフランシスコで開催されたイベント「J POP SUMMIT」ではコムアイさんがOrpheを履いてパフォーマンスを行った。

 「バスケットシューズは、バスケットボールプレイヤーのかっこいい姿があるからファッションとして成立している。Orpheも、Orpheを使うとこんなにかっこよくなるというイメージを作っていかないと、一般のファッションにまで降りていかない。そこでアーティストとのコラボレーションを考えていたところ、縁ができたのがコムアイさんだった」(菊川氏)。Orpheを魅せるパフォーマーとして、コムアイさんはぴったりの存在だった。

 要素技術の横展開事例としては、株式会社マイクロアドのプロジェクト「Sky Magic」へのLED制御技術提供がある。「Sky Magic」は、LEDで発光した複数のドローンの動きとLEDの光を音や音楽に合わせて自動制御しながら飛行することにより、さまざまなイベントの演出を行うというもの。朝霧高原で実演された際には、25台のドローンをシステムで操作。ドローン1個に660個のLEDを取り付け、三味線の生演奏に合わせてLEDを明滅させるという演出を行った。光の制御はMIDIに合わせて行うことができる仕組みで、今後ライブハウスやイベント会場などでの汎用的な活用が期待できる。

 パフォーマンス、テクノロジーだけでなく、アートの分野にも受け入れられているOrphe。2016年9月25日まで金沢21世紀美術館で行われている展示では、Orpheを履いたダンサーが、真夜中の美術館を縦横無尽に駆け巡る映像作品「Motion-Score」を上映。評判は上々だ。

 「FacebookでOrpheを使ったパフォーマンスの動画再生数が伸びたが、それも世界で400万再生程度にしか過ぎない。まだ一般の人まで認知は至っていない状態」だと菊川氏は言う。逆に言えば、まだまだ認知してもらう伸びしろはあるということだ。

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