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八百屋ベンチャーとして食農業界の人材排出を活性化させるアグリゲート

月商300万円超のすごい八百屋「旬八青果店」が目指す未来

 ユニクロや無印良品が採用する、小売店が商品の企画、製造までを担う、垂直統合型のビジネスモデル「Specialty store retailer of Private label Apparel(SPA)」。これを農産物の食品小売りに応用した、「SPF(Specialty store retailer of Private label Food)」というビジネスモデルを指向しているのが、株式会社アグリゲートだ。アパレルとは異なる特性をもつ農産・食品業界で、垂直統合型ビジネスモデルを指向する狙いはどこにあるのか。

 創業者であり、代表取締役である左今克憲氏は、「当社の青果店『旬八青果店』の粗利率は50%。業界では異常な数値と言われているが、産地を回り、自ら仕入れをする商品を仕入れるからこそ、この数字を実現している」と話す。

アグリゲートの左今克憲代表取締役

顧客の嗜好を把握できる地域限定の出店戦略

 アグリゲートが運営する八百屋「旬八青果店」。ディテールは八百屋だが、アパレルを思わせるスタイリッシュなのれんのデザインとともに、陳列された商品が印象的だ。置かれた野菜や果物をよく見ると、他の青果店とはちょっと異なっている。

 例えば青果店には欠かせないニンジンは、4月中旬にカラーニンジン(栄養価の高い黄色や紫のニンジン)が置かれていた。カラーニンジンは産地の店舗や、野菜のバリエーションが多い青果店であれば珍しくないものだが、決して大きな店舗ではない旬八青果店に置かれているのは珍しい。

 そのほかさりげなく置かれている柑橘類も、あまり聞き慣れない種類が並んでおり、ニンジン以外に置かれている商品でも驚かされるものが多い。気になる商品が一つ見つかると、「知らなかった、こんな商品があるのか」と再び別の気になる商品が次々に発見できる、狭小ながらも凝った品揃えの青果店である。

 「出店している地域で求められている商品を並べて販売している。お客さんの様子を観察し、会話をして、ニーズをつかんだ上で販売を行っている」と、自身がバイヤーとして商品セレクトにも関わる左今氏は笑顔で話す。

画像提供:アグリゲート

 旬八青果店は、現在東京都内に10店舗を展開。顧客ニーズに合った商品を提供するために、あえて出店エリアを目黒区、渋谷区、港区、品川区に絞り込んだ、「超狭域ドミナント出店」戦略をとっている。

 「現在出店している地域のお客様を観察し、話して、求められているものを探ったノウハウがようやく蓄積されてきた。現在の展開地域であれば、収益が上がる店舗を作れる自信がある。他地域での出店依頼もあるが、同じノウハウが活用できるとは考えておらず、現状では出店地域を絞り込んでいる」(左今氏)

 各店舗での売上・利益は通常の八百屋とは比べものにならない。たった2坪の売り場で月間で200~300万円を売り上げる旬八青果店の店舗利益率は10%を超えている。

 高収益の背景は、アグリゲートが旬八青果店で扱う商品そのものにある。店頭に置かれているのは、デパートなどに提供されるような青果のなかでも、形が悪く納品基準を満たさないようなB級やC級といったランク付けをされる品だ。だが、多少形が悪くとも、味・品質に問題がなく、そのブランド認知が進んでいれば顧客側との需要はマッチする。農家としても、廃棄しなければならなかったモノに価値が生まれることで積極的な協力ができる。

 ただし、いいものを並べれば売れるというわけでは決してない。「求められているものを探る」というと簡単に聞こえるが、実際にその需要に見合ったものを店頭に出せなければ本来は見向きもされないものとなる。都心を中心とした展開を行うのも、利用者側の高いリテラシーなくしては成り立たないからだ。

画像提供:アグリゲート

 ベンチャー企業が手がける事業は、短期間に起ち上げ可能なビジネスを業務とすることが多い。アグリゲートが創業したのは2009年2月で、翌2010年1月に法人化した。それから時間をかけて現在のビジネスを作り上げてきた。

 「属人性が高いビジネス。決して効率よくビジネスを拡大していけるものではない。その代わり競合はいない。一店舗だけなら競合が出店することも可能だろうが、多店舗展開となると、人を育て、時間をかけて取り組む必要がある」

 短期間に成長を目指すベンチャー企業には珍しい、長期戦を覚悟したビジネスとなる。

 「まさにそのとおり。同じベンチャー企業をやっている経営者と話すと、『もっと効率がよいビジネスをしたらどうか』と言われることもあるが、『農業を活性化すると先に決めてしまったからしかたない』と(笑)。まずは、信頼を勝ち得て、ポジションを固め、そこから事業拡大を進めていきたい」

 現在のビジネスが軌道に乗れば、「2021年以降に上場も検討したい」(左今氏)と計画しているというが、そもそも、このようなビジネスに至ったのはどのような発想からなのか。

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