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シリーズBの資金調達では製薬・食品メーカーも出資

モバイルヘルスケアベンチャーFiNCが目指す未来とは?

2016年01月05日 18時00分更新

 みなさん、こんにちは。ASCII(週刊アスキー+ASCII.jp)編集部の吉田ヒロでございます。さて2015年の12月17日に、ブルーボトルコーヒー青山カフェでの朝活セミナーを開催しました。6回目となった今回は、モバイルヘルスケアベンチャーのFiNCでCTOを務める南野充則氏を迎えて、同社のヘルスケア関連事業をどのように進化させていくのかを語っていただきました。

FiNC
モバイルヘルスケアベンチャーのFiNCでCTOを務める南野充則氏

 FiNCは、元フィットネストレーナーの溝口勇児氏が中心となって2012年4月に創業した、モバイルヘルスに特化したスタートアップ企業です。事業内容は、「フィンクダイエット家庭教師」「フィンクオンラインワークス」「ウェルネス経営」「ウェルネスポスト」「フィンクアセスメントサービス」「フィンクプライベートジム」など。

FiNC
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FiNCの事業内容。これまでは「ダイエット家庭教師」などのC向けのサービスが主体でしたが、今後は「ウェルネス経営」などのB向けサービスに力を入れていくとのこと

 現在フィンクは、CEOの溝口氏のほか、CCOの乗松文夫氏(元みずほ銀行常務)、CFO兼CSOの小泉泰郎氏(元ゴールドマンサックス幹部)の3代表制を敷いており、法人、個人、事業内容などによって役割を分けているそうです。

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FiNCでは、それぞれの専門分野を担当する3代表制をとっています

 実はCTOである南野氏は創業メンバーではなく、2012年にMEDICAという会社を起業し、2014年にFiNCに参画。南野氏は個人だけでなく、起業した会社ごとFiNCに移籍という珍しい経歴の持ち主。「私の社員番号は7番なのですが、いまではアルバイトやインターンを含めて100名超のスタッフがいます」と南野氏。そのほかの経営陣も、大手企業の元社長や元専務など。「このそうそうたるメンバーをどうやって集めたのか?」と聞いたところ、「代表の溝口をはじめ、事業内容を説明して仲間に引き入れるのがうまい人間が多い」とのこと。スタートアップ企業というと、若い人材を集めていると思いがちですが、「FiNCでは経営陣だけでなく、一緒に働くスタッフについても40代以上のスキルのある人材を積極的に採用している」とのことでした。

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経営メンバーには、著名な企業の元代表取締役や専務取締役などが名を連ねています 

 入社したきっかけを聞いたところ「私が入社する前のFiNCはネット関連やモバイル関連の事業は手がけておらず、専門部署もありませんでした。ここに参画すれば、自分のやりたい事業をさらに広げられる。ウェルネス系はライバルもまだ少ないのでチャンスしかない」と感じたそうです。いまFiNCが狙っている市場はモバイルヘルスケアのソリューション。デジタルヘルスソリューション(ハードウェア)や宅食などについても将来的には検討したい分野とのことでした。

B向けサービス「ウェルネス経営」が事業の柱に

 FiNCは数多くの事業を手がけていますが、今後注力していくのは「ウェルネス経営」。「これまでは遺伝子分析やダイエット家庭教師といったC向けのサービスを充実させてきましたが、今後の成長を考えるとB向けのウェルネス経営が重要」とのこと。

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メンタルヘルスなどについては、ストレスチェックテストなどを通じて現状を把握し、研修やトレーニングなどのソリューションを提供します。これも「ウェルネス経営」のサービスの1つです

 ウェルネス経営とは、企業に雇用されている従業員の健康状態を一元管理できるサービス。従業員のアンケート収集や健康診断のデータなどを統合して、各自の精神面、体力面など状態を客観的に把握できるというもの。従業員個人は、自分の健康データをスマホなどで参照してアドバイスを受けられるほか、部署のリーダーなどは部下の健康状態を匿名で知ることができます。自分のグループに、体力的、精神的に調子の悪い従業員がいるということを把握しつつ、改善に向けたアクションを起こせるわけです。

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従業員は自分のメンタルヘルス、フィジカルヘルスの客観的な分析結果をPCやスマホで参照できます

データ分析からソリューションまでを提供

 同業他社と異なる点として「FiNCの強みは、集めたデータを見せるだけでなく、そのデータを使って分析、提案、指導、ソリューションまで提供できるところ」と南野氏。フィットネス系のモバイルデバイスやアプリは数多くありますが、実際にそのデータを基に改善に向けて具体的なアドバイスを受けられるというサービスは確かにありませんね。FiNCのサービスでは、「栄養士やフィットネストレーナーなどから個人に合った具体的なアドバイスを受けられます」とのこと。

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FiNCでは、栄養学などの知識を持った人材が在宅で働ける「フィンクオンラインワークス」といった制度があり、多くの栄養士や薬剤師、トレーナーなどが従事しています

 実際に、タクシー会社である日本交通はウェルネス経営のサービスを導入しており、ドライバーの職業病でもある腰痛をはじめとする体調不良が減ったとのこと。「ドライバーにはシニアの方々も多いのですが、このサービスを積極的に活用してもらっている」とのことでした。これに関連してFiNCは2015年10月8日、多種多様な業種の企業とともに「ウェルネス経営協議会」を発足させています。

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「ウェルネス経営協議会」は、12月20日に設立総会を開催。健康に関連するデータや取り組みを共有して、各企業の従業員の健康増進を目指します

 ちなみに、データ分析からソリューションまで提供する一例としては、「フィンクプライベートジム」があります。南野氏によると「ジムに通っている人口は、だいたい400万人。そのうち200万人程度が毎年辞める人、200万人程度が新たに始める人」とのこと。定期会員になったものの行く回数が減り、月額料金がもったいなくなって辞める人が大多数のようです。「しかし、ジム利用に加えてアドバイスが受けられるとなれば継続するモチベーションが続く人も多いのでは」と南野氏。

 FiNCでは、自社で経営しているフィットネスクラブだけでなく、JOYFITなど大手のフィットネスクラブと提携したダイエットプログラムも提供しています。「フィットネスジムは定期会員を増やさないと経営が安定しないものの、辞める人も多いことからFiNCとしては都度会員で利用できるようなサービスを拡充していきたい」とのこと。

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JOYFITと提携した「60DAYSグループダイエットプログラム」に加入すると、JOYFITの施設を2カ月間自由に利用できるほか、専門家による食事・生活習慣のアドバイスを受けられます

 また、FiNCのシステムはアスリートなどにも使われているとのことで、2015年8月には元サッカー日本代表監督の岡田武史氏にも参画してもらっているそうです。

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岡田氏のほか、イーアクセス創業者の千本氏、元ヤフーCOOの喜多埜氏なども参画しています
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社内勉強会の「FiNC夜大学」に岡田氏を招くなど、従業員教育などにも力を入れているそうです

ソフトバンクとの協業にも注目

 ソフトバンクとの提携も発表済みです。南野氏によると「現在のところ正面向かってFiNCと競合するサービスはありませんが、ソフトバンクさんと協業で開発中のサービスが、その競合になるかも」とのことでした。ソフトバンクをはじめ各キャリアは、数年前から自社回線と連携させたフィットネス系、ウェルネス系のサービスに力を入れていますが、いまのところ成功を収めたとは言えない状態です。FiNCとの協業で、ソフトバンクのサービスがどう変わっていくのかも注目したいところです。

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ソフトバンクとは「パーソナルカラダサポート」と呼ばれるサービスで協業。生活習慣についてのアンケートや遺伝子・血液検査の結果、フィットネス機器が取得したデータなどを分析し、食事と運動のメニュー提案してくれます

シリーズBの資金調達先に食品メーカーや製薬メーカー

 さて、スタートアップ企業のバロメーターとの言えるのが資金調達状況。FiNCは2015年9月までに合計6.5億円を資金調達したほか、2015年12月にはシリーズBの資金調達を実施しました。この12月の資金調達で面白いのは、VC(ベンチャーキャピタル)だけでなく、今後のFiNCの方向性が伺える企業からの出資を受けている点。具体的には、生命保険会社の第一生命、製薬会社のロート製薬、外食産業の吉野屋、食品メーカーのキューピーなど。「現在は、ウェルネス経営をはじめとするサービスに注力しているが、今後は吉野屋さんやキューピーさんなどと一緒に、宅食の分野にも事業を広げていきたい」と南野氏。ちなみに、ANA(全日空)やセゾンカードなどが出資しているのは、各社の会員向けサービスの一環としてFiNCのサービスを取り入れたいという狙いもあるようです。

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2015年12月には、ベンチャーキャピタルだけでなく、食品、外食、製薬などのメーカーからの出資を受けています
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2020年に向けて目指す目標としては、レシピ提案を弁当配送、コミュニティの形成などがありますあります

Watsonなどの人工知能の開発にも注力

 サービス開発面で注力しているは人工知能とのこと。2015年5月に開催された「人工知能ハッカソン」では見事優勝を果たしたほか、7月にはIBMのWatsonパートナー(初期エコシステムパートナー)に選出されています。ちなみにこの提携ついてFiNC代表の溝口氏は、「FiNCとWatsonとのコラボレーションによって、健康改善のための栄養や運動習慣のリコメンドロジックを向上させ、最適なサービスをユーザーに提供することができます。FiNCは、『一生に一度のかけがえのない人生の成功をサポートする』をビジョンとして掲げており、Watsonとのコラボレーションは、そうした世界の実現に向け強力な推進力になると確信しております」というコメントを出していました。

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分析したデータを各個人に適切に届けるための機械学習(人工知能)の研究にも力を入れています
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FiNCは、2015年5月に開催された「人工知能ハッカソン」で見事優勝

 兆候に気付きにくく、治療に時間がかかるメンタルヘルスはケアが難しく、最近では社会問題になるほど企業にとっては大きなリスクです。ウェルネス経営のようなソリューションが用意されることで、早期改善に向けて部署単位、会社単位で取り組みやすくなります。職場環境を改善するためには、今後はこういったソリューションがはかなり重要になってくると思われます。

■関連サイト
Blue Bottle Coffee
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