週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

CHORD『Mojo』は、見た目からは想像できないほど過激なポタアン──CEOに聞く

2015年10月27日 21時00分更新

Mojo

小さな巨人というべき、注目ポタアンが登場

 アユートは10月24日、東京・中野サンプラザで開催された秋のヘッドフォン祭 2015の会場で、発売間近のポータブルUSB DACの新製品『Mojo』を一般公開した。イギリスのChord Electronics(CHORD)が開発した製品で、10月15日のリリース直後から話題を集めている新製品。

 Mojoという不思議な製品名は"Mobile Joy"を略したもの。「Hugo」(国内では2014年3月に販売開始)で培った技術をよりコンパクトにして提供する製品だ。スペック面では、最大11.2MHzのDSDと最大768kHz/32bitのPCM入力に対応するなど最先端を走る。これは汎用のDACチップではなく、FPGAというプログラミング可能なチップを使用し、独自のアルゴリズムでD/A変換するためだ。

Mojo
Mojo

 アルゴリズムの開発はHugo同様、DAC設計者のRob Watts氏が手掛けた。これにCHORDのCEOでアナログ回路の設計にも明るいJohn Franks氏がタッグを組む形で実現したのがMojoだ。両氏のタッグは24年にも及ぶという。Mojoでは28nmのプロセスルールで製造されたザイリンクスの最新FPGA『Atrix 7』を利用しており(従来はSpartan-6シリーズ)、チップの消費電力をHugoの約半分に抑えている。

 Mojoの本体サイズは幅82×奥行き22×高さ60mmとコンパクト。一方で、航空機グレードのアルミブロックを削り出した本体は手に持つとずっしりくる。重量は180gほどあり、その大半をバッテリーが占めるという。かなり頑丈そうな印象を受ける。ちなみにこのサイズは、Astell&Kernブランドで最初のハイレゾプレーヤー『AK100』とほぼ同じフットプリントになる。

Mojo
Mojo

 Hugoは音が非常にいいと評判になった製品。ただし「トランスポータブルだが、モバイルではない」という意見が多かった。モバイルユースを想定した開発側の意図に対して、デスクトップ上で使うユーザーが多く、バッテリー駆動についても外で使うというよりは安定してきれいな電源で駆動できるという音質面でのメリットに注目しているユーザーが多かったように思う。だから「より小型の製品が必要」という判断になったそうだ。

 またポータブル向けといっても実売25万円程度とかなり高価な製品でもある。Mojoでは7万円台前半と1/3程度の価格に抑えている点も特徴だ。

オプションで機能拡張、iPhone直結やプレーヤー化も計画

 以上がMobile+Joyのうち「Mobileの要素」。一方「Joyの要素」ではヘッドフォン出力が2系統あり、2人で音楽を楽しめるという点に注目。またサンプリングレートや音量の大小をLEDの色の変化で表現する点も見ていて楽しい。そのデザインは手触り感も重視している。子供が川で拾っている石を手のひらでゴロゴロと転がしている様子をみて着想したそうで、ビー玉のように回る電源/音量調整用スイッチの感触などが独特だ。動作中は若干熱を持つので、本当に日に当たった石を持っているようだ。

Mojo
Mojo

 入力端子はMicro-USBが1系統、直径3.5mmの同軸デジタル端子、角形の光デジタル端子を備えている。Android端末とはOTGケーブルで接続。ドライバー機能を持つオンキヨーの『HF Player』などとの組み合わせでハイレゾ再生が可能。iPhoneやiPadとはLightning-USBカメラアダプタ経由、ウォークマンのNW-ZX2/ZX100/ZX1/Aシリーズとはソニー純正の変換ケーブル(WMC-NWH10)など変換アダプター経由で接続できる。AKシリーズとは光ケーブルで接続するが、光接続時は、最大192kHz/24bitまでとなる。

Mojo
Mojo

 また、iPhoneと変換アダプターなしで直結できるアタッチメントや、Wi-Fi経由で接続できるモジュール、SDメモリーカードを読み書きできるカードリーダーなどを開発中だという。まずはiPhone用のアタッチメントを11月ごろに投入していき、3ヵ月ぐらいで出そろうのではないかとのこと。

 アナログ部分も中々強力で、4~800Ωまでと幅広いヘッドフォンに対応。出力は600Ωで35mW、8Ωで720mWとなる。出力インピーダンスも1Ω未満とかなり低く抑えている。アナログ出力端子はライン出力としても利用できる。リチウムポリマータイプのバッテリー容量は1650mAhで、約8時間の駆動が可能(充電時間は約5時間)。

CEOに聞く、Mojo開発に込めた思い

 編集部では、ヘッドフォン祭に合わせて来日したChord ElectronicsのCEO John Franks氏の話を聞く機会があった。コメントを交えて、日本の読者に向けたメッセージをお届けする。

Mojo

Mojoは非常に小さな製品ですが、その中に込めた技術は巨大です。絵の描かれていないキャンバスを思い浮かべてください。同じような額縁(=FPGAやDAC)を使ってもそこにどれだけ情報を緻密に書き込めるかで完成する絵には差が出てくるでしょう。例えば都市の風景を描くとき、ぼやっとした遠景の輪郭だけでなく微細なディティールまで再現して描き切れるのがMojoです。最先端の28nmのチップを使って、元の波形を忠実に再現するわけですね。ハイレゾはもちろんですが、ローレゾでも元の波形を再現する。CD品質でも高音質に再生できるという点に注力しています。

Mojo

 Robert Wattも言っているのですが、重要なのは耳と脳の関係です。聴いた音をどうサウンドイメージに結びつけるか。大半のDACでは音楽の素性を再現する能力がプアだと思います。目を閉じて、音を聴いてみてください。(ざわついた会場内で)誰がどこにいるか分かりますよね。これは時間情報(Timing Information)を脳が識別し、これはここ、別のものはあそこという情報に変換するからです。

Mojo

 現実の音をより明確にイメージするためにはここが正確である必要があり、でないと正確な像を認識できません。一方、デジタルフィルターを使う業界標準のDACは数ドルで売られていますが、市販されている大半のDACで元の波形(Wave Form)を完璧に再現できるものは少ない。十分な能力を持っているとは言えません。

(編注:独自のWTAフィルターや2048倍のオーバーサンプリング技術について述べていると思われる。デジタルデータの前後を参照して近似データを得るのではなく膨大な演算処理で元の波形に近づけることがCHORDのアプローチ)

ダブルDXDの高音質さに自信を持っている

 PCM/DSDといった形式やサンプリングレートなど、入力信号の違いは自動的に認識して再生されます。またPCMの信号も2048倍にオーバーサンプリングして再生されるので、より自然の信号に近い形で再生できると思います。ここまで器が大きくなると、DSDやPCMの違いを意識する必要もないと思います。(Rob Watts氏自身もDXDの再生に注力しているが)その理由は、DSDは完全なシステムではないため。よりピュアなシステムはダブルDXDなどと言われる768kHzのPCMだと思います。

Mojo
Mojo
Mojo

 Hugoは成功を収めましたが、これは小型のサイズとはあまり関係のない面でのことでした。多くのユーザーはデスクトップ環境で使っていたからです。性能が良さが受けた。物理的なサイズを小さくする必要があると感じました。消費電力を下げて、バッテリーの技術も向上させて最高のものを作ろうと思いました。

 デザイン面で言いたいのは、ビーチで9歳の娘が石を拾って遊んでいるときに着想を得た形ということです。丸くて滑らかな石が落ちていますよね。あの感触を再現したいと思いました。このボールを回す楽しさも感じてほしい。ポケットに気軽に入れられます。縁の丸みなんかもiPhoneやiWatchを意識しています。

 日本のユーザーは大変熱狂的で、若者が多い。我々はハイエンド市場で成功を収めましたが、ユーザーはだんだん年を取ってきているんですね。日本のこのショー(ヘッドフォン祭)に来ると昔を思い出すんです。私たちがこの世界に入ったときのようです。

価格を含めて、ポータブル市場を切り開きたい

 我々は市場を切り開いていきたいと思っています。ビールを飲みながらRobert Wattと話したことがあります。小型でより長時間の駆動をしようとすると、どうしてもコストが高くなってしまうのですが、Xilinxと交渉をしてより多くの製品を売るからということで価格を安くしてもらいました。

Mojo

 スマートフォンで音楽を聴く人は増えているし、適正な価格と適正な性能を提供することでより多くの人の手に届く製品を作りたい。Hugoは見せてくれました。こんなすごいのは聞いたことがないと驚く人々の姿を。これを広げたい。家族や友人など、価格が下がればもっと聴いてくれる人が増えると思います。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう