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メーカーの危険な「自分が主役」という思い込み〜amadana熊本浩志社長インタビュー

2015年10月13日 15時15分更新

「メーカーは『製品を企画・製造して、世の中に送り出す』という立場上、どうしても“川上”発想になりがちなんですよね。でも、それだと限界が出てくる」

 amadana代表の熊本浩志社長はそう語る。

 マルチリモコン、電卓、携帯電話などをつぎつぎと開発してきたamadana。 現在、ユニバーサルミュージックとの共同企画で、新ブランド『Amadana Music』を立ちあげレコードプレーヤーを開発している。

 天然木をあしらい、スピーカーを内蔵したオールインワンタイプのレコードプレーヤー。クラウドファンディングMakuakeでは目標金額の150万円をはるかに超える1400万円以上の支援を集めた。

 amadanaは以前から、異業種と共同でモノをつくっている。さまざまな企業と戦略的パートナーシップを組んできたのはなぜか。ユニバーサルミュージックとして、オーディオメーカーではなくamadanaを選んだ理由は何なのだろう。

 amadana熊本浩志社長、ユニバーサルミュージック大原浩氏の仕事を知ることで、新しい日本企業のあり方が見えてきた。

時代をとらえる鍵は「チェキ」

──まず、なぜレコードプレーヤーをつくろうとしましたか。

大原:いま世界的にレコードが売れている。日本でもレコードの市場を大きくできないか、という話が社内で上がっていました。ただ、レコードだけつくってもプレーヤーがなければ仕方ない。そんなとき、クラウドファンディングでレコードができる『QRATES』というサービスをやっている方から、DJ仲間ということでamadanaの熊本社長を紹介してもらったんですね。

──社長DJなんですか!

熊本:実は。

大原:ということで今年、年明け早々お会いしたんですが、本格的なプレーヤーをつくるのもまた違うなと思ったところがありまして。ファッションとして落とし込めるものでないとダメだろうという話になったんですね。

──ユニバーサルミュージックといえば日本最大手のレコード会社です。老舗オーディオメーカーを選ばなかったのはなぜですか?

大原:アメリカでは、実はアーバンアウトフィッターズというアパレルショップでレコードが売れているんです。そこがアマゾンの次に売っている。日本でもファッションと結び付けていかないといけない。すると本格的なプレーヤーをつくるんじゃなく、インテリアになるようなレーヤーをつくらないといけないと。

熊本:「音楽好き」と「音好き」は似て非なるもの、ということもありますよね。

──どういうことですか?

熊本:「音楽好き」は音の細かいクオリティにすごくこだわっているわけじゃないけれど、アーティストはたくさん知っている。ヘッドホンの世界でも、例えば「beats」のようにファッションアイコンとして注目されるメーカーがありますよね。こうしたメーカーがもともと “オーディオメーカー”かといったらそうではない。過去のオーディオメーカーの延長線上にあるものではありません。きっとそれはいろんな業界に起きていることだろうと。ファッションブランドのように、顧客の体験をうまく伝えられる人の方が、モノづくりがうまくなってしまったところがあると思うんですよ。

──なるほど……そこでデザインのamadanaが浮かびあがってくると。しかし社長もDJなら、レコードプレーヤーを作ろうとしてたんじゃないですか。

熊本:もちろん、お話をいただく前からレコードの波がきてるのはわかってはいたんです。でも、レコードが驚くほど売れていた20年前に青春時代を送り、アルバイトをした数十万円を全てレコードにつぎこんでしまうほどレコードを買っていた……そんな人間からすると、20年後の今また、これほんとなのかなと思うわけですよ。

──これは、ごく一瞬の小さな現象にすぎないんじゃないかと。

熊本:そう思いながらも腑に落ちたのは、レコードが売れているという現実そのものとは別に、インスタントカメラの「チェキ」が売れていることでした。

──チェキですか。

熊本:あるいはスターバックスがこれだけ日本中にある中で、ブルーボトルコーヒーが入ってきたことであるとか。世界がハイパー・デジタル、サブスクリプションに向かっていき、iPhoneで4Kが撮れるようになった中、なぜかフィジカルなものが売れている。撮り直しもできなくて、1枚しか写真が出てこないチェキをなぜ若い子が買っているのか。ひょっとすると本当に時代は今、アナログに向いているのかもしれないと感じたんです。

──モノではなく、ライフスタイルそのものにヒントがあると。

熊本:大事なのは文化なんです。コンテンツの手段としてハードがあり、コンテンツとハードが文化をつくる。三位一体。チェキもハードがあり、コンテンツとしての写真があり、シェアして楽しむという文化が根付くようになった。昔、写真を交換して楽しむことは少なかったと思います。しかしスマホを経由して「写真をシェアすること、交換することが当たり前」という文化ができたわけですからね。

スマートフォンから“サービス”が主役になった

──amadanaはもともと単独で開発をしてきました。他業種と組むようになったのはいつごろからなんでしょう?

熊本:スマートフォンがきっかけですね。スマホがいろんな業種を壊してしまったことで、良くも悪くもモデルが“サービス”になった。音楽がフィジカルからサブスクリプションに移ったように、あらゆる業種がそうなった。ユーザーは「体験」にお金を払いますけど、一個一個の「権利」にお金を払わなくなりました。そこから1つの業種だけでは価値をつくれなくなっているように感じています。

──amadanaは会社としてデザインを主力製品とするデザインハウスです。

熊本:バリューチェーンが変わったんですね。今までは垂直統合というか、モノを作る上で、技術があって、デザインがあって、それが1つで完結していた。しかしスマホのアプリのごとく「体験」をつくる上では、横のつながり、縦のつながりといった時空を超えていかなければならない。音楽業界、住宅業界、自動車業界、ときには飲料業界など、垣根を超えたビジネスが実現します。

──スマートフォン以外、すべてのモノが主役でなくなった。

熊本:ハードが手段になったとも言えますよね。顧客を囲いこんでるのはオープンプラットホームであって、このレコードプレーヤーにしてもハードは手段でしかない。プレーヤーがあれば、押入れにしまわれていた無数のレコードが動き始めたり、新譜がレコードでリリースされたりする。いくらコンテンツがあっても、動かなければ意味がない。だからモノは手段としての割り切りが必要なんです。メーカーは「モノを企画・製造して、世の中に送り出す」という立場上、どうしても“川上”発想になりがちなんですよね。でも、それだと限界が出てくるぞと。

──ハード、ソフト、文化は三位一体という話がありました。本来メーカーは主役ではなく、あくまでその中の1つなのだと。

熊本:今のメーカーはユーザーに最も近い“川下”をよく理解して、「モノ=製品は手段であるべき」という考え方を持つべきなんですよ。でもメーカーは製品を「手段」と言いたくない。でも、“川上”も“川下”も本来はあるべきものではないんです。

──すべておなじ場所にあるはずだろうと。

熊本:時代で変わるものだろうと。ただし、ハードは顧客につながる接点であることは変わらないので、ハードがなくなることはないんです。でも、バリューチェーンが変化しているので、メーカーはモノづくりにこだわりすぎるとビジネスが成立しない。なのに、今でもメーカーは基本的に川上発想。いつも違和感があるんです。従来のメーカーは工場を作って、製品をたくさん作って成り立つ。稼働率を上げないといけないとなるとシェア争いになる、というのはわかりきっていることです。でも、虚しさがあります。だって財布を開くときってそういうお金の使い方はしないじゃないですか。ぼくら、もっと楽しいことにお金を使ってるはずですよね。

──amadanaではプラットホーム『amidus』を作り、デザイナーとプランナーを直接やりとりさせています。これも“川下”発想の延長線上にあるものですか。

熊本:もっともっとモノづくりはオープンにしちゃったほうがいいと思うんですよね。でも、amidusの場合はamadanaという看板がない方がよくて、逆に、今回のレコードプレーヤーのようにamadanaが演じきっちゃったほうがいいところもあります。

──演じきる?

熊本:音楽のアーティストと一緒です。たとえばヒップホップのアーティストがバラードを歌ってカテゴリーイノベーションを起こしたりします。でもふだんはヒップホップをやっている、だからこの人は、あくまでもヒップホップのジャンルのアーティストだと誰もが認識します。それと同じです。

変化に対応できる柔軟なモノづくりを

──amadana、amidusは、いままでのメーカーとはモノづくりのステップをまったくちがう流れに変えようとしているように見えます。

熊本:“場所”から作るということですね。最近は事業を作るとき、方向性がさだまらないことの方が多いかもしれない。どういう商売をすればいいのか定まらないというとき、何もやらなかったのが今までの日本の会社だったと思います。でも、今は特にやってみないと定まるわけないんです。ぼくらも今回、クラウドファンディングで支援をつのっていましたが、予想と違う結果だった場合、そこで方向修正するべきだと考えていました。やってみて、予想と違う方向が出たらそっちにいく。それは最初からは読めないことですよ。

大原:ユニバーサルミュージックもこれまでハードを作ったことはないですしね。

熊本:でも、やってみると、やるべき方向が見えた瞬間に勇気を持って踏み込めるようになる。リーンスタートアップの発想で、まずやってみて、進むべき方向を二歩、三歩と行ってみたら、こっちになると分かってくる。いままでのプロセスを真っ向否定するやり方です。今まではプロジェクトの最初から最後まで、何年後にはどうなると、すべてロードマップを引いてきた。でも、今や3年後だって分からない。めまぐるしく移り変わる時代、計画を立てるのはとても難しい。枠にはまった計画を立ててしまったため、後戻りできないことが弱みになることもある。とくにメーカーに顕著で、最大の失敗だったりします。

──自然災害のような危機が襲ってきたとき、回避ができなくなってしまう。

熊本:マーケットがめまぐるしく変わる。予想外のところで大きな壁が立ちはだかったり、脅威に襲われることだってあります。スマートフォンがまさにそう、それまで確立されていた「携帯電話」という概念を一蹴し、様々な業種業態を壊しました。音楽業界だって、コンピューターメーカーが音楽の聴き放題サービスを提供するなんて思っていなかったでしょう。ですから、amadanaではハードをつくるということだけにこだわらず、事業の“価値”をつくることが根幹にあります。シンボリックにハードはつくりますが、ビジネスをつくることを一番に考えています。そのための手段としてかっこいいハードをつくったほうがいい。ハードというアーティストをデビューさせるには、きれいな衣裳やヘアメイクも万端に整えます。

──ハードをアーティストとしてデビューさせつつ、会社としては“川下思想”で黒子に徹していくと。

熊本:実際、表に出たときは黒子でもなんでもなくて、結局ハードがユーザーとの接点になるんですけどね。でも、そういう発想でいかないと、やっぱりビジネスはおかしくなっちゃうんじゃないかと思います。

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