7月8日(現地時間)、米マイクロソフトは携帯電話事業における大規模なリストラを発表しました。
その人員削減は最大7800人に上り、さらにノキアの携帯電話事業に関する76億ドルもの減損を計上するとのこと。マイクロソフトが2014年4月、当時のレートで72億ドルを払って買収したノキアの事業が、丸ごと消えてなくなるかのような、衝撃の内容となっています。
その一方で、マイクロソフトがスマホ事業から完全に撤退するわけではない、という点には注意が必要です。むしろ新たなスマホが登場する可能性も見えてきました。
MSに移籍した元ノキア従業員の大部分を解雇
2014年4月の買収完了により、ノキアからマイクロソフトに移籍した従業員は2万5000人とされています。そのわずか3ヵ月後の2014年7月、マイクロソフトは1万8000人のリストラを行ない、そこにはノキアからの1万2500人が含まれていました。
今回発表された7800人のうち、少なくとも2300人はフィンランドで働く元ノキア従業員と報じられています。これまでのリストラと併せて考えると、携帯電話事業に携わってきた従業員の大部分が、マイクロソフトを去ることになりそうです。
ノキアCEOだったステファン・エロップ氏は買収により古巣のMSに戻ったものの、2015年6月の事業部門再編により同社を去った。今になって振り返れば、あれは今回のリストラへの布石だったのだろう。 |
一方、フィンランドではスタートアップ企業が盛り上がっており、毎年ヘルシンキで開催される“SLUSH”は、欧州でも有数のスタートアップイベントに成長しています。
その背景には、ノキアなど大企業からスタートアップへと人材が流れている状況があるとされており、リストラ以外にも優秀な人材が流出していることがうかがえます。
フィンランドのスタートアップイベント“SLUSH”。4月には東京で、アジア版の“SLUSH ASIA”も開催された。 |
真のマイクロソフト製スマホは登場するか
ノキアの携帯電話事業を買収することを決めたのは、当時マイクロソフトのCEOだったスティーブ・バルマー氏です。ノキアはWindows Phone端末の9割を占めており、アップルやグーグルと真正面から対抗することを前提としていたバルマー氏にとって、必要不可欠な存在でした。
しかしそのノキアも、端末の差別化が困難なWindows Phoneの仕様に苦しんでおり、株価も低迷します。同社が生き残る道として、もはやAndroidへの移行しか選択肢がないというところまで追い込まれた結果、マイクロソフトは買収に踏み切ったとされています。
ノキアの買収完了後、1年強の間にマイクロソフトは大きく変化しました。後任のサティア・ナデラ氏は必ずしもWindowsに拘泥せず、iOSやAndroid向けにもOfficeの提供を開始。すべての人々の生産性を向上させるという同社のミッションは、Windows Phoneとは関係なく、着々と実現しつつあります。
MWC2015でMSが発表した『Lumia 640』。今回のリストラにより、Lumiaシリーズのモデル数は大きく絞りこまれるとの見方が有力だ。 |
とはいえ、これでマイクロソフトがスマートフォンの端末事業から全面的に撤退するわけではありません。むしろナデラ氏は、7月8日に送信した社内向けのメールで、Surfaceシリーズに代表される“ファーストパーティ・デバイス”への注力を表明しています。
さらに今後の携帯電話事業についても、“ビジネス・バリュー・フラグシップ”という3つの顧客セグメントに集中することを説明しています。
ビジネスユーザーを意識したLumiaというのは、法人ユーザーの需要が見込める分野といえるため、カメラ非搭載や生体認証対応などの高セキュリティモデル、タフネスモデルといった方向性が考えられます。
また、バリュー端末は現在のWindows Phoneにおいて、最も重要なセグメントです。2014年に出荷された3500万台のWindows Phoneのうち大半は、400番台や500番台という低価格のLumiaシリーズが占めているとみられます。
ちょっと気になるのは、Nokia 100シリーズのようなフィーチャーフォン事業です。その出荷台数はLumiaシリーズの約3倍の規模を維持しているものの、大規模な人員削減や工場閉鎖により、事業の継続が危ぶまれるところです。
最後に、最も注目したいのは“Windowsファン”向けという位置付けの、フラグシップのデバイスの存在です。Surfaceシリーズの成功により、マイクロソフト純正のデバイスを求める声は確実に増えており、同社としても手応えを感じているようです。
2015年後半に登場するWindows 10 Mobileに備え、その魅力を最大限に引き出すような、新たなフラグシップ端末の発表が期待されます。
MWC2015(3月2日~5日)におけるMicrosoft Mobileのブース。ノキア時代と大きく変わらない内容だったが、来年からはどうなるだろうか。 |
ノキアの携帯も復活する?
ノキアファンにとって気がかりな点は、今回の発表により、いよいよノキアの携帯電話事業自体が消滅してしまうのか、という点ではないでしょうか。しかし今後、ノキアブランドの携帯電話が“復活”する可能性は残っています。
すでにノキアはAndroidタブレット『Nokia N1』を中国市場で販売し、成功を収めています。デバイスの製造に関する設備を売却したノキアですが、端末設計のデザイナーは残っており、製造や流通にはFoxconnと提携しています。
ノキアによるAndroidタブレット『Nokia N1』。マイクロソフトとの契約次第では、スマートフォンが復活する可能性もある。 |
スマホではなくタブレットである理由としては、マイクロソフトと交わした契約の存在が挙げられます。その契約によれば、「2016年までノキアは携帯電話を作ることができない」とされていました。
もちろん、マイクロソフトがスマートフォン事業を縮小するとはいえ、ノキアとの契約に変化があるとは思えません。しかしマイクロソフトに解雇された元ノキアの従業員が再びノキアに合流し、マイクロソフトに対して声を上げるようなことがあれば、話は変わってきます。
ノキアが再び携帯電話事業に参入する日は、意外なほど早くやってくるかもしれません。
■関連サイト
Microsoft(英語)該当リリース
Microsoft Smartphones and Mobile Devices
NOKIA
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります