2015年06月05日07時00分

現役女子高生ファウンダーに“二次創作”に革命を起こすビジネスプランを聞く by 遠藤諭

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 私は、いまでもマンガを読むほうだし昔はコミックマーケットにも出かけていた。'80年代は、同人誌に商業出版とは違った魅力を放つ作品がたくさん出てきて、“軽オフセット印刷”によるまさにメディア革命というものが起きたのを目の当たりにした世代だ。

 つまり、マンガとか同人誌とかに少しばかり思い入れがあるのだが、その私とはひと世代以上違う女子校生が“二次創作”に関係するスタートアップを考えているそうだ。昨年、TechCrunchジャパンのハッカソンで一緒に審査員をやらせてもらった“みやこキャピタル”の藤原健真さんに「話を聞いてみて」と紹介されたのだった。

 4月半ば、神戸に住む本人が角川アスキー総研と大阪のナレッジキャピタルの共催セミナーに来てくれて、“女子高生ファウンダー”こと吉川(きっかわ)あかりさんと会った。マンガの二次創作、つまり同人誌によるパロディやファンフィクション(登場人物やシチュエーションを使った別ストーリーの作品)系のサービスである。

コミッククラウド
↑“女子高生ファウンダー”こと吉川あかりさん。

『女子高生とTPPの関係』

──どんなサービスを考えてるんですか?

吉川:『コミッククラウド』という名前なんですけど、ライセンス料を支払うことで、そのサービス上限定で二次創作を自由につくることができるんです。

──具体的には?

吉川:コミッククラウドがオリジナルの作品を描いた作家から二次創作の許諾をもらいます。二次創作できる作品のリストができるわけですね。それを見て二次創作した人はコミッククラウド上に作品を投稿できる。その投稿作品を読む人はコミッククラウドから買うのですが、売り上げは二次創作をする人とともにもとの作品の権利者にもお金がはいります。

コミッククラウド
↑コミッククラウドの基本的なサービス概要案。

──ワンフェスの“1日版権”みたいな解放区をマンガの二次創作についてエコシステムとしてつくってしまおうということですね。

吉川:ええ。いまのところ黙認という形がほとんどですけど、マンガの二次創作かグレーゾーンであるということがそのままでは何か弊害があるんじゃないかと思ったんです。二次創作の市場がどんどん大きくなっていくというのは作家や出版社にとっては懸念されることですよね。それに加えて、いまTPPで著作権侵害の“非親告罪化”がすすめられるという話が迫っているというのがあります。

──TPPが出てくるわけだ。

吉川:マンガ同人誌に激しい制裁はないんだと思いたいけど、一部には危惧している人もいる。禁止とはいかなくても、二次創作を自粛する人が出てくるのではないか? それをどうにかしなきゃということで、コミッククラウドを考えました。

コミッククラウド
↑TPPなどによる現状の問題点。

『音楽のような“いけず”な形じゃなくありたい』

──どんなビジネスモデルなんですか?

吉川:電子コミックとして販売するわけですが、ちょっとお金を払うと紙でも読めるようにしたいです。印刷する場合だと、原価が50%、二次創作する人に25%、オリジナルの権利者にライセンス料として10%。コミッククラウドが15%というような形を考えています。もちろん、まだ案の段階ですが。

──それはけっごう良心的な数字ですね。iTunesの場合、Apple側に3割くらいでしたか? なかには半分くらいもっていくサービスもある。

吉川:ライセンス料をこのくらい支払うことで許してほしいという考えなんで、二次創作で儲けを出すというのはまずいと考えています。基本的には“ファン活動”としてなんですね。

──なるほど、その“ファン活動”というのはどこまでを言うんでしょう?

吉川:ゲーム会社のニトロプラスなどはガイドラインを示していて、製品200個以内、売り上げが10万円未満まではオーケーとしていますね。

──なるほど同じような基準をもうけるんですか?

吉川:基本制限ナシの方向でいきたいと思っていて、何個つくっても、いくら売ってもこの条件で払ってもらえればと考えています。要するに、ニトロプラスは、個数と売り上げ額でファン活動かどうかを見極めているわけだけど、そうではないですね。明らかに業者というような感じのところが、コミッククラウドを利用するようなことのないようにするわけなのですが。そこは、もう少し検討の余地があるかもしれません。

──“コミッククラウド”という名前の由来は?

吉川“サウンドクラウド”を参考にしているわけですけど(笑)。二次創作をただ勝手に使っているんではなくて、"共有"する感じのものにしていきたいんです。

──音楽の世界はシステムが確立されているから、お金さえ払えば誰でも割りと自由に使えるじゃないですか?

吉川:あんな“いけず”な感じじゃなくありたい。ガッチガッチで使ったら学校でもなんでもお金を払えといわれるじゃないですか? ただ、二次創作が自粛するのを防ぐというか、協力してあげる立場になりたい。二次創作自体、同人誌即売会というものがコミュニケーションする場みたいなところがありますよね。コミッククラウドも、いまのところはネット上のサービスとして計画してますが、ゆくゆくは“生”で出会えるイベントでも適用できたらすばらしいと思うんですよ。

──なるほど、リアルに行くのはいいですね。

吉川:紙の本も提供したいと言いましたけど、同人誌をつくるときの費用的なリスクは印刷コストなので、コミッククラウドが肩代わりすれば、そのリスクを回避できるというメリットもあるかもしれません。

──ただ、"薄い本"といっても紙の質とか細かなところもあるんじゃないですか? 同人誌の印刷で有名な共信印刷なみに対応しようと?

吉川:いまのところオンデマンド印刷しか考えていないですけど、そこはできるだけ細かく対応したいんです。共信印刷のパンフレットは取り寄せました(笑)。

──まさか家が印刷屋さんというオチじゃないですよね?

吉川:残念ながら違いますね。そこに売り上げをもっていきますかね(笑)。アンケートをやったところ13人中12人が「同人誌は紙のほうがよい」と答えたんですよ。

──そのアンケートはどうやって?

吉川:大阪駅の前でずっとスタンバッて聞きました(笑)。

コミッククラウド
↑熱く語る吉川さん。

『上海に住んでいて“二次創作もパクられる”のを見ていた』

──どんな人がこれを考えたか教えてください。

吉川:小学校3年から中学1年まで親の仕事で上海に住んでいたんです。いっぱいパクリものが売られていた中には、オリジナルのイラストを使ったもののほかに、二次創作のイラストを利用したものもあったんですよ。

──なるほどそうなんだ!

吉川:マンガに出てくる“剣”などのキーホルダーとか、勝手につくってしまうのですごい尖っていて危ないやつとか。本当に武器になるみたいなのとか、グッズが多いのですが(笑)。そのバックにイラストが描いてあるんだけど、完璧に二次創作からもってきたのがあったり。実際、中国の人はあまりわからず買ってしまうというのがあると思います。その意味では、二次創作というのは、たとえ著作権的に侵害されたとしても声を大にしていえないというのもありますよね。

──上海にはそういうものを売る店がたくさんあるんですかね?

吉川:いっぱいありますよ。豫園の近くのビルがまるごとそういうビルだったり。

──日本のコンテンツを外から見ていたというのは、実はとても貴重な体験ですね。

吉川:それと上海万博のときに、“カワイイステージ”みたい名前だったと思いますけど、朝から晩まで水木一郎さんだったり、セーラームーンのコスプレして踊る人たちがいたりやっていたんですよ。一番前に中国人で日本のアニメやマンガが好きな人たちが陣取っていて、彼らと朝から晩まで一緒に見ていました。

──おーっ!そんなことが。

吉川:「あなたも萌え萌えすきですか?」と日本語で聞かれて、私が日本人だとわかったとたんに質問責めにあったり。お昼にお母さんがつくったお弁当を出したら、まわりの人たちが歓声をあげて喜んで「おにぎりが本当にあるものだった!」とか、それが面白かった。

──どんな人たち?

吉川:大学生、20代、30代、男女半々くらい。とにかく熱量が多い。

──せっかくそんなに盛り上がっているのに、日本のコンテンツってどこに行くんですかね? “クールジャパン”という発想はいいと思うんだけど、実際に全体でとらえた生態系はとてもデリケートだというのがポイントだと思います。

吉川:パクリものを見ていましたからね。そこに、TPPで非親告罪化がなんたらという話をきいて危機感を持ったんですね。もともと二次創作が好きで、でもそれがグレーゾーンだ、著作権的にはアウトなんだというのは気づいていたわけですけど。

『3年後に市場の5%を獲得』

吉川:Amazonに"キンドルワールド"(Kindle Worlds)というのがあるんですよ。マンガやアニメではなくて、小説や映画、テレビドラマなんですが、アマゾンが権利者に許諾をとって、キンドルワールド上で作品を投稿するというコミッククラウドに似たようなサービスがあるんです。

──なるほど。Amazonのコミケ化だ。

吉川:それで、アメリカだと二次創作というのはファンの権利だという考えがあるらしいんですね。『ハリー・ポッター』なども、映画会社とファンの間で“ポッター戦争”といわれるやりとりがあったけど、最終的には二次創作が可能となっだ。日本だと許していただいているみたいな感じで、コソコソやろうみたいなところがある。とにかく目立たないように、目立たないようにという風潮があると思うんですよ。それで、名前を出さないのがカッコいいみたいな。

──なるほど日本は権利だという発想はあまりしていないかもね。

吉川:コミッククラウドの場合は、電子コミックとして提供するので翻訳もしやすいので海外に出しやすい。数年後にできたらいいと思っています。

──収益が出たら自分のところでもコンテンツが作れますね。ネットフリックスじゃないけど自社で作品のプロデュースができる。

吉川:コミックラウドがあれば、それもできると最近思いました。権利者の許諾をとっていくのは大変なので、最初にオリジナル作品をのせて行くのはどうかと思いましたけど、いきなりゼロから人気作品を生み出すのはもっと大変です。プラットフォームがあるとめちゃ便利だなと思いました。

──現状どこまでいっているんですか?

吉川:システムの内容を考えている最中です。同人誌やっている人たちにアタックしています。まだひとりで動いている状態なんですよ。それから、出版社や作家から許諾をもらうという大きな作業が待っています。それをどうするか? 野望としてはTPPが決まる前に立ち上げたいんですけど、受験勉強と並行してですからねぇ。受験が早く終わったらいいですけど。

──売り上げ目標とかは?

吉川:3年後に国内市場の5%を獲得みたいなことを考えてます。35億円の売り上げで、収益5.3億円。これのもとになっている数字は矢野経済研究所が日本の同人誌市場を732億円と発表したことがあるんですが、その中で二次創作はかなりの部分を占めているはずなんです。

──ちょっとした出版社か雑誌の規模をめざすわけだ。何年後に株式公開?

吉川:株式公開しないといけないんですか? 最近のIPOブームとかイヤなんですよ。株主の声もきかないといけないし。IPOがゴールみたいなのじゃなくてそのためのにやっているわけではないわけなのです。

──ところで、起業という手段にいたった理由というのは?

吉川:忘れもしない高校1年の11月ですけど、『ゼロ──なにもない自分に小さなイチを足していく』を読んだら、ホリエモンの半生みたいなものあったけど、生きていくのが不安で、どうせ生きていくなら一所懸命仕事をしていこうと。ガツガツしている感じがいいと思いました。

──それが二次創作という興味とうまくはまったわけだ。

吉川:いままでもいろいろやりたいことあったんだけど、ベンチャーをやりたいと思って高校3年夏に“スタートアップウィークエンド”という催しに出て、めちゃ褒められました(笑)。これは、自分は才能があるんじゃないかと思いこんでしまい動いている最中なんですね。


 今年4月には、政府による“二次創作もクールジャパン”が目指すコンテンツに入るという内容の答弁があったという話も、彼女に教えてもらった。著作権法を順守したうえで、関連商品の波及効果を見込む場合などの説明はあるが、二次創作が行なわれることの価値が認められたといっていいのかもしれない。

 コミッククラウドについて、私のまわりの業界人に話してみたのだが「実現すればコンテンツ業界的にも意味があるしこのようなスタートアップの形で出てくるのはよいのではないか?」と感想をもらす人が多い。業界を知っている人だと数だけは多い二次創作のひとつひとつをチェックする手間はどうするのか? など、いままでの常識に縛られてしまうからだそうだ。その一方、二次創作の価値も一番理解している。

 昨年11月に角川アスキー総研が開催した“IP2.0シンポジウム”では、サンリオの鳩山玲人氏にハローキティのライセンス戦略について語っていただいた。二次創作の議論と一緒にはできないが、今年4月には、バンダイナムコが“カタログIPオープン化プロジェクト”を開始。パックマンなど17のキャラクターについて監修などは行なわず、簡易的な企画審査だけでコンテンツで使えるようにした。これは、ある意味でコミッククラウドに似た動きとも言える。

 コミッククラウドは、これからどのように実現されうるのだろうか? デジタルの業界とスポーツの世界に共通するのは、若い世代が高いパフォーマンスを発揮することがままあることだ。しかし、吉川さんに会ってみると本当にごく当たり前の高校生なのである。実際にメディア系サービスの“cakes”や“note”を立ち上げたピースオブケイクの加藤貞顕氏を紹介したら、彼は、仲間をさがしているより自分でコードを書いてとりあえず動かしてしまうべきだとアドバイスしていた。数ヵ月も勉強すれば少しは恰好になるものがつくれるというのだが。

●関連サイト
Slideshare コミッククラウド

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

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