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生活の「質」が丸見え!センサーメガネ JINS MEMEが着目する「ディープデータ」の世界

■“自分を見る”メガネって一体どういうコト?
 2014年5月に発表された『JINS MEME』(ジンズ ミーム)は、3点式眼電位センサーを世界初搭載した機能性アイウェア。眼電位により捉えた眼の動きを計測することで眠気や集中度を把握でき、“自分を見る”という新しい機能をメガネに付与した製品だ。2015年1月のCESで世界デビューを果たし、メガネメーカーが手がける先進的なウェアラブル端末として注目を集めた。その開発意図と先に広がる世界観について訊いた。

 週刊アスキー6/9号 No1030(5月26日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第27回はメガネメーカーがつくったウェアラブル機器『JINS MEME』を担当するジェイアイエヌR&D室の井上一鷹マネジャーに、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。

JINS MEME

↑世界が注目する機能性アイウェア『JINS MEME』。3点式眼電位センサーやジャイロセンサー、加速度センサーを搭載。ふつうのメガネと変わらない見た目も特徴。価格は未定。

■視力矯正以外のメガネの機能を探そうという流れで“自分を見る”というJINS MEMEにたどり着いた

伊藤:僕は今年1月のCESで『JINS MEME』を体験させていただいているのですが、会場での注目度は非常に高かったですね。まずは開発の経緯から聞かせていただけますか。

井上:JINSはご存じのとおり、メガネメーカーなのですが、メガネをつくって“視力矯正”の機能を提供していくだけだと、市場規模に限りがあるんですね。ですので、視力矯正以外の機能を探そうという流れになりました。その流れで、ブルーライトの影響を軽減するPC作業用メガネ『JINS PC』という製品が生まれました。

伊藤:JINS PCは週アス編集部でも愛用者が多いです。

井上:視力矯正ではなく“眼を守る”という新しい機能を提供し、JINS PCは累計500万本を販売するヒット商品になりました。それに味を占めたわけではないのですが(笑)。次なる新機能を探し続けてたどり着いたのが“自分を見る”という機能をもつJINS MEMEだったのです。

伊藤:製品コンセプトの“自分を見るアイウェア”というのは、気になるキャッチコピーですね。

井上:これまでは、視力矯正でも眼を守るという機能でも、“外界の情報を見る”という機能に閉じていました。ただ、メガネというのは頭部に身に付けるものであり、しかも装着時間は下着に匹敵するほど長時間です。そのことで得られる使用者の情報は非常に深いものがあります。この情報をうまく生かす製品はできないだろうかということで開発を始めたのが、JINS MEMEというわけです。

伊藤:2014年5月に製品を国内で発表し、今年1月のCESでは海外にも初披露という流れですが、反応はどういったものだったんですか?

井上:本当にあらゆる業界の企業さんから反応があって、「部品を使ってください」とか「販売をさせてください」とか「コラボをしましょう」など、さまざまなオファーをいただきました。すべての企業さんとは対面でお話ができなかったくらいです。米国のガジェットメディア“Digital Trends”が主催するアワードで、ベストウェアラブル賞を獲得したことの影響も大きかったと思いますね。

伊藤:僕も会場で反響の大きさは体感していたのですが、やっぱり「これまでこういう製品は世に出ていなかったよな」という驚きがありました。

井上:それと、他社のウェアラブルと比べ、普段使いできるデザインというのは重要。それに、いわゆるIT企業ではないメガネメーカーがつくったということもインパクトがあったのかなと。これまでのメガネと変わらないデザインなのに、これまでにない体験をできるというのがニュースだった気がします。

伊藤:おっしゃるとおりですね。CESの会場で実際にJINS MEMEをかけてみたお客さんは、どんな反応だったのですか。「これはすぐに欲しい!」なのか、それとも「どんなことができるの?」なのか。

井上:後者ですね。というのもまだ現時点では、JINS MEMEが一般の人たちの日常をどう変えるのかという提案はしていないからです。アプリの開発はもちろん進めているのですが、そのあたりの情報は発売が近くなったらまた公開していこうと思っています。

伊藤:やっぱり、自分の生活がこの製品でどう変わるのかが明確にならないと、「買いたい」という気持ちにはつながらないですよね。そのためには、アプリが重要になります。今年3月にはSDKを配布して、アイデアコンテストも開催されていますよね。そちらはどんな手応えなんでしょうか?

JINS MEME

↑アイデアコンテストを開催中。JINS MEMEの活用アイデアを募集。年齢や職業不問で応募でき、入賞者には実機ベータ版をプレゼント。公式サイトではJINS MEMEのスペックのほか、開発者向けやアカデミック向けの情報を公開。SDKのダウンロードも可能。

井上:コンテストには多数の応募をいただいたのですが、そのうちの受賞者にはベータ版を配布しています。というのは、SDKがあっても実機がないと開発はしづらいんですよね。

伊藤:なるほど。つまり、コンテストでアイデアを提案してもらって、受賞者には「これでつくってみてください」と実機を渡しているのですね。アプリの開発に関して、今後はどういう展開になるのでしょうか?

井上:まだ情報公開ができない時期なので、あまり具体的なお話ができずに恐縮なのですが、まず自分たちでつくっているアプリが何種類かあります。それに加えて、セカンドパーティー的な企業さんがJINS MEMEを使った自社サービスを想定し、アプリ開発を進めています。そしてさらに、コンテストに応募してくださったようなサードパーティーの方々が加わってくるという感じですね。

JINS MEME

↑4月25日、26日の2日間にわたり、ジェイアイエヌ本社で開催。参加者たちは講師によるガイダンスのあと、チームに分かれて制限時間内でのアイデアソンとハッカソンに挑んだ。

■JINS MEMEを身に付けることで頭と心、身体のバランスで自分自身の状態を理解可能

伊藤:JINS MEMEで実現できることを想像すると、やはり法人向けの用途が頭に浮かびます。個人向けの用途は、どんなものがあるのでしょうか?

井上:JINS MEMEで得られる情報は、今までにないレベルのライフログになるんですね。そして、それを何の目的で使うのかというと“ヘルスケア”になります。

伊藤:ヘルスケアというと、たとえば活動量や心拍数を測ったりというものがありますね。

井上:これまでは、たとえば歩数やそれを基にした消費カロリーなど“量”がわかるものがメインでした。ところがJINS MEMEの場合は、加速度センサーやジャイロセンサーが体軸に置かれているので、歩行時の姿勢という“質”がわかるようになるんですね。つまり、データの質が上がるわけです。歩行を質的に理解できるようになると、たとえばケガの予兆を察知できたりもするでしょうし、質の高いライフログがデータベースに蓄積されれば、疫学的なデータにもなっていきます。これが、JINS MEMEによって“身体がわかる”ようになるということの意味ですね。

JINS MEME

↑眼電位とGPSを連携させるアイデア。コンテスト第1ラウンドの受賞アイデアで、自分がどの場所でどれだけ集中していたかを自動記録するアプリ。

伊藤:なるほど。JINS MEMEによって、どれだけ歩いたかだけでなくどういう歩き方をしたのかまでがわかり、それが一歩進んだヘルスケアへとつながっていくのですね。それはイノベーションだなぁ。

井上:もうひとつは、眼電位センサーで眼の動きが計測できることによって、心や頭の状態もわかるようになります。頭の使い方や心の状態が1日の中でどう変化していたかとか、どんな知的生産活動をしていたかというのは、眼の動きでけっこうわかるものなんですよ。

伊藤:へえ! おもしろい。

井上:人間というのは頭と心、身体で構成されているわけですよね。だから、これらすべてが把握できれば、トータルのバランスで自分自身の状態を理解できるようになります。さらに、意識の高い人であれば理解するだけにとどまらず、自分自身をより良く変化させようということもできますよね。

伊藤:たしかに。そこからデータが蓄積されていけば、ある程度、誰にでも共通するパターンのようなものも見えてきますね。

井上:そうです。あくまでも例ですが、集中度が低い状態が長く続く人は認知症になりやすいとか、そういうものが見えてくるはずなんです。我々が“ミーム”という言葉を製品名として選んだのは、これが“ゲノム”の対比の言葉だからです。ゲノムというのは、先天的な、自分を形成するすべての情報です。逆に、後天的な情報、こういう生活をしてきたから今はこうなっているというような情報はミームなんですね。

伊藤:JINS MEMEが自分を見るというのは、今の自分を知るという意味なんですね。

井上:ミームを把握することで、生活習慣病の予兆だったり、メンタルヘルスの状態がわかるようになります。これを突き詰めていくと、最終的には社会全体の医療費を抑制できたりもすると思いますが、これはかなり長期的な構想ですね。

JINS MEME

↑メンバーの集中度を一元管理。受賞アイデアのひとつ。メンバーの集中度を把握し、疲れぎみの人に休息を促すメッセージを送れる。

伊藤:JINS MEMEの紹介では“ディープデータ”という言葉が使われていますが、これは以前からある言葉ですか?

井上:JINS MEMEの共同技術開発をしていただいている慶應義塾大学大学院の稲見昌彦教授が、以前から使われています。ビッグデータの対比になる言葉ですね。ビッグデータは使いようのないデータも大量に含まれますが、ディープデータはより質を高めた高精度のデータを指しています。

伊藤:なるほど。まさにJINS MEMEのコンセプトと合致する言葉ですね。ところで、僕は眼電位センサーというものを初めて知ったのですが、会社としてはどれくらい前から研究されていたものなんでしょう?

井上:約5年ぐらい前ですね。

伊藤:眼電位を読み取ると眼の動きがわかりますが、眼の動きから心や頭の状態を知るための研究というのは、以前からあるものなのですか?

井上:そのあたりは、けっこう研究が進んでいますね。だから今回、我々は眼の動きを正確に捉える部分の研究はしなければいけなかったのですが、眼の動きに意味づけをする部分は先行研究の成果を使えたというのはありますね。

伊藤:お聞きしていると、JINS MEMEのイノベーションが何なのかというと、そういった技術すべてをメガネというパッケージに収めたということですよね。メガネをかけるだけで眼電位を計測し、そこで得られたデータに意味を与えるというのを、日常の道具であるメガネに収めてしまったことこそが革新だと思います。

井上:そのとおりです。

JINS MEME

↑眉間と鼻パッドにセンサー内蔵。眼電位センサーを3基搭載し、まばたきと8方向の視線移動を検知。加速度とジャイロのセンサーからの情報と合わせ、眠気や集中度などを判別する。

■研究機関などに向けてアカデミックパックも用意、今年10月の一般発売を目指して開発が進行中

伊藤:うーん、スゴい。お話を聞いているとますます欲しくなります。研究機関などに向けたアカデミックパックの引き合いはどうなんですか?

井上:かなりありますね。アカデミックパックの販売は今年の秋を予定しています。

伊藤:一般発売も今年10月の予定ということですが、開発は順調ですか?

井上:今は鋭意開発中で、完成度を上げるための作業を行なっていきます。

伊藤:価格も気になってます。

井上:まだ未定なのですが、JINSの製品ですので、それほど高価なものにはならないと思います。

JINS MEME

株式会社ジェイアイエヌ
R&D室 マネジャー

井上一鷹
 
1983年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、コンサルティング企業で大手製造業を中心とした事業戦略の立案などに従事し、2012年にジェイアイエヌに入社。社長室や商品企画グループマネジャーを経て現職。

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