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パイオニア崖っぷち部門の挑戦 iPhoneでハイレゾ聴けるステラノヴァ

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ハイレゾオーディオ『ステラノヴァ』(6万9800円)

iPhoneでハイレゾが聴けるパイオニア生まれの『Stellanova』試聴会を6月5日から7日までやってるそうです。めっちゃいい音なのでぜひぜひ。

 iPhoneさえあれば、部屋でとてつもなく良い音が聴ける。昨年12月発売のハイレゾオーディオ『ステラノヴァ』(Stellanova)だ。アンプ(USB DAC内蔵)、スピーカー、ワイヤレスユニットのセットで6万9800円。

 いま、オーディオ好きのあいだで熱い視線が注がれている。

 ハイレゾ音源(DSD 5.6MHz、PCM 192kHz/32bit)を、iPhoneやパソコンからWi-Fiで送れるのが最大の強み。音源データの転送をアンプで制御するため、音源がiPhoneやパソコンの周波数(クロック)の影響を受けず、ピュアな音質で再生できるという。

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ワイヤレスユニット単体で2万3000円

 技術は本格派だが、見た目はやわらか。DACアンプのサイズは幅198×奥行き147×高さ33mm、重量は約570gと小型・軽量。カラーバリエーションはなんと8種類もある。想定している設置場所は机の上だ。黒くてゴツくて重い、いわゆる高級オーディオの常識を徹底的に裏切った。

 実際に聴いてみると、なるほど音が良い。常套句のようではあるが、クラシックで小さな音の余韻が最後まで消えずに聴こえる。もちろんハイレゾオーディオと言ってもDSDやFLACだけではなく、MP3やWAV、AACなども聴ける。

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別売りのユニットを使えばCDのリッピングもできる

 ステラノヴァと出会ったのは今年4月。開発元の代表を名乗る男性が、小社主催のセミナー『無名のブランドがなぜインターネットで飛ぶように売れるのか』に聴講客として来てくれていたのだ。男性は挨拶もそこそこに言った。

「知恵が欲しかったんだ。今までとはまったく違う売り方をする必要があったから」

 あらためて男性の名刺を見ると、そこにはパイオニアという社名があった。


生産部門が奮起 ただ死ぬのを待つわけにはいかない

 ステラノヴァを開発したのはパイオニアのグループ会社で、光ディスクドライブを制作してきたパイオニアデジタルデザインアンドマニュファクチャリング(PDDM)だ。中国・華南地区に3000人規模の工場を抱え、下請けとしてパイオニア・シャープのハードディスクレコーダーなどに製品を供給してきた。

 だが、光ディスクは「決して右肩上がりの業界ではない」(同社 青山 宏社長)。

 ブルーレイ人気をあてこみ、パイオニア66%、シャープ34%の合弁で2009年に創業したPDDMだが、折悪しく時代は光ディスクから遠ざかりはじめていた。アップルが光ディスクドライブの内蔵を打ち切り、iPhoneを大ヒットさせたのがきっかけだ。

 クラウドの隆盛に押され、光ディスク型のオーディオ・ビジュアルは縮小。パイオニア本社及びPDDMではリストラが相次いだ。パイオニアは昨年だけで2000人規模で人員を削減。昨年8月にはシャープとの資本提携も解消してしまった。

「創業時400人いた従業員のうち270人はカット、現在130人ほどに減った。売上規模はピーク時で800億円ほどだが、今では230億円程度まで落ちてしまっている。地デジ対応の駆け込み需要がピーク要因で、そこで一気に需要を食ってしまった」

 このままただ死ぬのを待つわけにはいかない。工学ドライブの技術力を活かし、スマートフォン時代にヒットするオーディオ製品を開発できないか──青山社長は社内からホームAV出身者をかきあつめ、ワイヤレス・ハイレゾプレーヤーの開発に着手した。

 製品をうまく開発できる自信はあった。技術を持っていたからだ。

 

課題につぐ課題 技術もデザインも一筋縄ではいかなかった

 パイオニアにはオーディオ、PDDMには光学ドライブの高い技術がある。具体的には、ワイヤレスブルーレイドライブを開発したときの高速USB仮想化技術がある。USBオーディオの仕組みに応用すれば、ハイレゾオーディオは作れるはずだ。

「ブルーレイのワイヤレス再生には40~50Mbps程度が必要だが、192k/24bitのハイレゾなら10Mbpsでいい。すぐ実現できると思っていた」

 だが、実際には技術上の問題がいくつもあった。

 たとえば、USBオーディオには『アイソクロナス転送』が使われている。次から次へとデータを送ることを重視し、データが順番に送れているかを気にしない。Wi-Fiの通信が途切れるとデータが途絶え、音声ノイズ発生につながってしまう。

 また、USBオーディオの場合、音楽を再生するiPhoneやパソコンのクロック(周波数)に影響を受け、伝送ノイズが発生しやすくなる。かといってアンプ側のクロックで再生させるのはケーブルをつないだ有線でなければ難しいというのが常識だった。

 解決策として、まずワイヤレスユニットにロングメモリー機能を搭載。データが正しく送れたか確認してから次のデータを送ることで、ノイズが発生しづらい構造にした。さらに世界で初めて、アンプのFIFOバッファ管理機能をワイヤレスユニットに搭載。伝送ノイズ発生をおさえることに成功し、Wi-Fiを使ったハイレゾ再生を可能にした。

「音がブツ切れにならないよう最大2秒のバッファをとっている。1社だけでは不可能で、無線技術を持つ2社との共同開発でようやく実現した」

 一方、技術と並行して考えたデザインでも、難しい決断を迫られていた。

 

絶望の宣告「量販店で売ってはいけない」

 デザイナーが出してきたのは、ごくシンプルなオーディオのデザインと、見たことがないような先進的なデザイン。対極となる2案を社内で投票したところ、結果は見事まっぷたつに割れた。

 悩みに悩み、青山社長が選んだのは現在の先進的なデザインだ。

「賛否両論はあった。『ほんとにこんなもの作るのか』と技術にも言われたが、『作るんだ』と言いきった。感性の部分を大事にしたかったから。5万円を超える製品になると、感性と理論が高い次元で融合していないと買ってもらえない」

 ようやく納得のいく製品が完成したが、次は販売面の問題が立ちふさがった。パイオニア本社から「これは売れない」と断られたのだ。

 すでにパイオニア本社はカーエレクトロニクスに集中を始めていた。オーディオ部隊であるホームエレクトロニクスをオンキヨーに、おなじくDJ機器を扱うプロSVをKKRというアメリカのファンドに相次いで譲渡していた。

 量販店でパイオニアブランドをつけた製品を売るわけにはいかない。そう宣告され、開発部隊は仕方なく手売りを始めた。

「PCショップに提案をさせてもらったり。東急ハンズさんの店頭に立たせてもらい、実演販売をしたり。まるで演歌歌手のようにドブ板営業を続けている」

 同社取締役の絹脇弘章事業戦略統括部長はそう話す。

 アップルストアに持っていったが、「AirPlayに対応していないから」と断られた。携帯電話キャリアのストアで売ってくれないかと提案したが、「売るメリットがない」「10万円を超える製品は割賦にできない、そんなことも知らないのか」と説教された。

 きわめて難しい戦いを強いられているステラノヴァだが、小さな希望はある。

 

崖っぷちの挑戦者は新たな市場を開拓できるか

 昔からのパイオニア好きが直販で買ってくれているのだ。以来、オーディオ好きのあいだにじわじわとクチコミで広がっている。それに、まだ取り扱い店舗は少ないものの、店先で音を聴いてもらったときの反応は確実にいいと絹脇氏。

「注目度は抜群に高い。かならず手に持って見てくれる」

 ただしハイレゾを扱うかぎり、ブルーレイと同様の課題はある。

 オーディオ初心者にとってハイレゾはまだハードルが高い。問題は流通面だ。ハイレゾはまだソフトの流通量が少ない。鶏と卵だが、プレーヤーを買うのは聴きたい曲があるためだ。消費者にハイレゾ音源を買う姿を想像させなければ普及は難しい。

 音と機能が良いことは間違いない。スマートフォンを使ったハイエンドオーディオという発想も面白い。13万円するAKGのイヤホン『K3003』がヒットしたのが象徴的だが、スマートフォン時代であっても音質を求める消費者は確実にいる。

 成功するか、失敗するかはまだ定かではない。いずれにせよ、ステラノヴァがオーディオのニッチに切りこむ、時代の開拓者であることは確かだろう。

「どうなるかは分からない。全然新しいことをやろうとしてるわけだから」

 青山社長はそう言い、楽しそうに頭をかいていた。


■関連サイト
Stellanova

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