週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

真鍋大度氏が登壇「トッププログラマーが語る人工知能」トークショーレポート

2015年04月13日 17時00分更新

 4月2日、Apple Store銀座店で「トッププログラマーが語る人工知能」と題したトークショーが開催された。プロ棋士の遠山雄亮五段をモデレーターに、メディアアーティストとして国際的に活躍する真鍋大度氏と、将棋プログラム「Ponanza」の開発者である山本一成氏が登壇し、これまでの活動や人工知能に関するトークを展開した。

AI

■ビッグデータが人工知能開発のキモになる
 スピーカーのひとり、真鍋大度氏はテクノポップグループ「Perfume」の舞台演出やプロモーションなど音楽・映像分野を中心に、国際的に高い評価を受けるメディアアーティストだ。実際の作業ではプログラムを書いている時間のほうが長いため、自身の肩書きとしてはアーティスト兼プログラマーだという。

AI
真鍋氏はデザインファーム「ライゾマティクス」のディレクターを務める。近年はプロジェクションマッピングなどの作品が広く知られている。

 真鍋氏の活動としては、「2045年のライブを考える」というテーマで作られた作品が紹介された。これは2045年にはリアルに会場にいくのではなく、アバターを送り込んで仮想体験するのではないかという着想で作られた作品で、そこで流れる曲は人工知能がリミックスしたものになる。具体的には約1000種類のリミックスを作っていくつかをユーザーに提示し、その中から選ばれたものを基にさらに最適化されたリミックスを作っていくというもので、これは遺伝的アルゴリズムを使った人工知能ということもできるだろう。

AI
NHKの番組で紹介された、進化するリミックスエンジン。将来はこのような自動リミックスの要素にウェアラブルなどのデータも使いたいという。

 また、「これは人工知能とは呼べないかもしれませんが」としつつ、Perfumeのウェブサイトで彼女たちのアバターが、ファンが仮想空間に作った建物を評価してコメントを残すコンテンツを作成。今は建物のピクセルの並びなどを見ているだけだが、今後は聴いている曲のデータを評価対象にするなどの展望を披露してくれた。

 また、Perfumeの楽曲だけが聴けるアプリを作り、ファンがどんな曲を好んで聴いているかのデータや、ライブ当日、ライブ会場に向かってくるファンの位置情報を使って映像を作るといった試みも紹介。こうしてさまざまなデータを収集し、その中から人工知能を作っていきたいという。

 確かに人工知能というのは、データをいかに処理するかというアルゴリズムによるものなので、素地となるデータは多いに越したことはない。スマートフォンやウェアラブルといった機器から収集したビッグデータが今後、人工知能開発でのポイントになるというのは、大いに頷ける話だった。

■想定を超えたプログラムはエキスパートを凌駕する
 もう一人のスピーカーである山本一成氏は、電王戦で初の電王となり、現在最強の呼び声が高い将棋ソフト「Ponanza」の開発者だ。Ponanza以外にも、Ponanzaのエンジンを使ったスマートフォン用将棋対局アプリ「将棋ウォーズ」などを開発している。

AI
山本氏は将棋プログラマー兼エンジニアとしては異例なほど積極的にメディアにも登場している。この日は2日後の電王戦第4局を控えつつも、リラックスした様子だった。
AI
山本氏が制作に携わった「将棋ウォーズ」。対局中、ピンチのときは5手だけコンピュータが代打ちしてくれる。

 山本氏の最近の悩みは、Ponanzaがいま盤上のどこを調べているのかがわからないことだという。Ponanzaは秒間500万手、1分間で3億手(当然ながら、Ponanzaが動作するPCの性能に依存する)もの手筋を読み切る。そのログを見るだけでも膨大な量になるため、プログラマーですら何が起きているのか把握しきれないのだ。ちなみに人間は、1分間で50手程度読むのが限界なので、その差は実に600万倍にもなる。

 プログラマーは常にこうしたらいいと思って書いているが、Ponanzaの思考をビジュアル化することができれば、どうしてその思考に至ったかの理由付けができるため、もっとうまく開発が進められるのではないかと考えているのだという。

 山本氏の話で印象的だったのは、「プログラマーの想定にある動きをするうちはプロ棋士には勝てない」という言葉だ。もちろんプログラムは記述したとおりに動いてくれるのだが、その動作は想定を超えるものでなければならないそうだ。

 ゲームなどで開発者が想定していなかった技が作られるようなことはあるが、「プログラムはプログラムしたとおりにしか動かない」という常識を覆されるかのような発言で、ちょっとしたカルチャーショックだった。

■人間と人工知能の関係の未来は明るい?
 人工知能といえば、近年スティーブン・ホーキンス博士や米テスラモーターズのイーロン・マスクCEOが、相次いで人工知能の発展に対する警句を吐いている。昔から人工知能が人間に対して反乱を起こしたり、人間を支配するというのはSFのテーマとしての定番でもあるが、果たして本当にそのような事態は来るのだろうか。

 おそらくいま、最前線でこの問題に直面している一人が山本氏だ。現在、公式戦でプロ棋士に対して無敗のPonanzaは、将棋という知的ゲームやプロ棋士の存在意義を追い詰めていると感じている人もいるだろう。

 山本氏は「将棋は人工知能の未来の道標」だと言い切る。現在、将棋プログラムはプロ棋士のある程度強いところに並ぶまでに来たが、10年後には圧倒的に強くなる可能性があるという。実際、チェスはすでにコンピューターが世界チャンピオンよりも強くなり、囲碁も将来は危ういと言われている。人工知能に人間が負ける恐怖というのはあるだろうが、そもそもこれはフェアな戦いなのかと疑問を投げかける。

 確かに将棋やチェスのような「二人零和有限確定完全情報ゲーム」(運に左右されないゲーム)の場合、突き詰めれば人類の数百万倍の速度で機械学習を重ね、 最善手を限りなく追い求められるコンピューターのほうが人間よりも有利だ。コンピューターの処理速度が上がり続ける以上、人類の処理能力が飛躍的に向上するのでもない限り、到底フェアだとは言えない、絶望的な戦いだと言わざるを得ない。

 しかし、チェスがコンピューターに負けてもなお、チェスという競技が廃れたり、世界チャンピオンの価値が下がったということはない。山本氏は、将棋もまた同じようになるだろうと予測する。プロはコンピューターが指した、一見無意味だが後々に意味を持ってくる新たな一手を研究し、新たな定石を生み出す。コンピューターが見つけた点を人が線にしていくことで将棋というゲームの奥深さが増していくわけだ。

 真鍋氏も、決して人工知能が人間を追い詰める存在になるとは考えていない。映像の自動編集機能を例に挙げ、人間が手作業でやるのは大変な編集作業が自動化されることで、単純作業から人間が解放され、よりクリエイティブな作業に時間を費やせるメリットを説く。確かにコンピューターに職が奪われるということも問題視されるが、そもそも簡単になくなるような職であれば、それは必要ない仕事だったのではないかというわけだ。

 人工知能がどんなに進化しても、人間が得意な領域はまだまだたくさんある。人工知能により効率を高めることはあっても、最後のキーはまだ人間の手に残されることになる。二人のトッププログラマーが予測する人工知能と人間の関係は明るいようだ。

 このトークショーの様子はiTunes StoreのPodcast「Apple Storeイベント」で後日公開される予定だ。本記事で紹介しきれなかった細かい話題も含め、貴重なトークが無料で公開される。ぜひチェックしてほしい。

※2015年4月13日17:20追記 初出時、一部名前が間違っておりました。お詫びして訂正いたします。

■関連サイト
遠山雄亮(遠山雄亮のファニースペース
山本一成(山本一成とPonanzaの大冒険
真鍋大度(DAITO MANABE
ライゾマティクス

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう