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羽生名人が勝利!ドローン映像が見事だった壮大なリアル車将棋の舞台裏

2015年02月09日 22時30分更新

文● いーじま 撮影●篠原孝志(パシャ)

リアル車将棋の舞台裏

 寒い。寒すぎる。2月8日(日)。この冬一番の寒波が訪れているなか、所沢にある西武ドームで、『電王戦×TOYOTA リアル車将棋』が行なわれた。西武ドームは密閉空間ではないため、球場内は外気温と同じ。さらに昼前から雨が降り出し、風も強く体感温度的には、0度ぐらいじゃなかろうか。

 そんな極悪な環境下で行なわれた羽生名人×豊島七段の戦いは、94手で羽生名人の勝利に終わった。終了時間は、19時37分。雨は止んでいたが、あたりは真っ暗で、かなり冷え込んでいた。

リアル車将棋の舞台裏
↑会場は西武ドーム。対局開始の時間は雨が降っていなかったが、昼過ぎから雨に。球場内もちょっと霞んでいた。

 時間を巻き戻して振り返ってみよう。有料会員なら、タイムシフト視聴できるので、この記事を読みながら実際に見てほしい。

 まず、球場に特設された盤面と両陣営のテント。前日から設営したが、まずグランドにシートを敷き、その上にプラスチック製の土台を敷き詰め、さらに、その上に盤面のシートを敷いている。この模様は、5:27:30ぐらいからのタイムラプス撮影した準備映像を見てほしい。

リアル車将棋の舞台裏
↑Before After。まる1日かかって設営しているのがタイムラプス映像で紹介。

 あらかじめ使用車両が公開されていた羽生陣営側は、放送開始前から王将のトヨペット クラウンを除き、盤面に並べられていた。そして、放送開始後、豊島陣営のクルマが順次発表され登場していった。アンケート結果によって決まったクルマたちだ。西武ドームは、バックスクリーンが開き外部へ出入りできるのを活かし、そこからクルマが登場。そして最後は羽生名人、豊島七段それぞれを乗せて新旧クラウンの王将が入場した。

リアル車将棋の舞台裏
↑Vitzがずらりと並んでいる。羽生陣営側は予め並べられていた。
リアル車将棋の舞台裏
リアル車将棋の舞台裏

↑各々の陣営に対局する棋士がいるテントとクルマを動かすメンバーがいるテントに別れて設置。

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↑豊島陣営は開放しているバックスクーン側から、各クルマが入場した。

 羽生名人のトヨペット クラウンはレース仕様。放送では登場時は音楽が流れていたため、クルマの排気音が聞こえていないが、実はスゴイ爆音。対する豊島七段は最新のクラウンアスリート。ハイブリッド車なので、低速では電動。音もなく現われた。今回使用されたトヨペット クラウンは、昔レースとして実際に走ったクルマで、今回クルマを移動させる5名のドライバーを率いる、早稲田大学自動車部の監督・多賀弘明氏が実際に当時運転して優勝したもの。ブロロロロと美しい低音が響くが、私なんかは、無音のクラウンよりトヨペット クラウンのほうが好きだ。このあたりは、年代によって反応が違うのかもしれない。

 トヨペット クラウンの移動&爆音を聴きたいなら、1:50:20あたりをどうぞ。

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↑トヨペット・クラウン。第1回日本グランプリで優勝したクルマ。
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↑運転していたのが、今回の羽生陣営の監督・多賀弘明氏。80歳には見えない。

 日本将棋連盟の片上理事の挨拶に続き、古田敦也氏による振り駒の結果、豊島七段の先手となり、各テントに移動した。テントは、昔の合戦をイメージし、家紋風図柄とのぼりを設置。対局者いるテントには、将棋盤と実際の盤面の映像、残り時間が映しだされているだけで、対局者の表情は見られない。四方に電気ストーブが設置されており、ある程度は暖かいが風は入ってくる状態なので大変だったと思う。あと、トイレがダグアウト裏にあるため、そこまで歩いて行く間はかなり寒かったのではないか。

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↑トヨタの次世代パーソナルモビリティ『ウィングレット』に乗って登場した古田敦也氏。
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↑古田敦也氏が振り駒を担当。結果、豊島七段の先手に。
リアル車将棋の舞台裏
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↑各陣営のテント内。四方に電気ストーブが設置されているが、それでも寒い。

 クルマを移動する各陣営のスタッフは、極力素早く移動させるため、サポート棋士の読みを参考にしつつ、どう移動させるか作戦室で検討していた。次の手を読んで、あらかじめクルマに乗っているということもしている。クルマを動かす際は、シートベルトを締め、ハザードを出してから。トヨペットクラウンは、4点式シートベルトだったため、装着がめんどうだそうだ。クルマの始動方法も多少異なるため、スタッフの1人を専属に指名していた。

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↑クルマが移動完了(テント内に戻る)するまで持ち時間が減っていく。みんなその都度全力疾走だ。
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両陣営のメンバーが終局後に記念撮影。結構やり遂げた感のある表情をしていた。

 移動は事前に、こういう局面のときどう移動すべきか検討もしてきたという。どちらの陣営もスムーズで、足手まといになることはなく、終局後のインタビューでも、羽生名人は「最初に角交換(1:07:30ぐらい)をしたとき、大変だと思ったんですが、思っていたよりはるかに早くやってくれたので、普段とあまり変わらなく指せました」とのこと。1秒でも早くとドライバーたちはクルマへ駆け寄り、将棋のことはあまりわからないけど無駄なく正確に移動していた。その姿もこの勝負の見どころといえよう。

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↑作戦処内部。大盤も使って次の手を読み効率よくクルマを動かす方法を練っているようだ。

 8:40:52ぐらいに羽生陣営のドライバー(学生)が「えぇぇぇ」っと叫んで走って行く姿は、予想が外れたからだろうか。将棋とは違った楽しさだった。またおもしろかったのが、「ランクルを運転したいから取ってほしい」と、車好き視点で棋士にお願いしていたところ。あと、大判解説のときに、「Vitzを4四に」など、「歩」と言わずに車名で話していたのも、将棋番組としてはありえない光景だった。

 今回の中継に当たり、ドワンゴも相当力が入っていた。これまでの電王戦でもなかった、クレーンを2台用意。中継用カメラもかなり投入し、クルマを追いかける手持ちカメラも2チーム。さらにドローンを使っての空撮まで取り入れている。

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↑大型クレーンを2台投入。クルマの移動を上部から撮影していた。
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↑手持ちカメラは、手ブレ防止付き。臨場感のある映像になった。

 そのドローンの映像は秀逸で、対局開始前の51:45から、盤面上空からドームの外へ抜けてドームの屋根の上へ、リアルタイムで撮影した映像を流したのは圧巻だった。電波があんな高さまで届くものなんだと関心。ドローンによる撮影による映像表現を示したもので一見の価値ありだ。

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↑振り駒後、対局までにオープニング映像が流れたが、ドローンが背後から飛び立った映像が使われていた。
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ドーム内でもかなり上空へ浮上。このあと、外へでてドームの外観を写すまで上昇している。

オープニングのドローンを使った映像

リアル車将棋の舞台裏
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 ドローンは、セキド(機材協力)の『DJI INSPIRE 1』を使用。あの映像とか見ちゃうと、すっごく欲しくなる。約38万円のようだ。昼食休憩時に、THETAを吊るして360度撮影もしていた。

リアル車将棋の舞台裏
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 電王戦と違い、マスコミの控室と大判解説の中継室がものすごい離れていて、いつもなら、棋士が控室へ訪れて検討していたりするのだが、今回はいっさいなし。継ぎ盤の支給もなく、中継の映像がテレビに映し出されていたのみだ。グラウンドへ入れる時間は休憩時のみと限られていたので、取材は3塁側ダグアウトから見ているか、スタンドから。実況しているのはバックネット裏センタービルの3階で、控室がある3塁側ダグアウト裏から、7階ぶんぐらいの階段を昇り降りしなければならず、それだけでもかなり疲れた。ヘルスケア系のウェアラブルでもつけて計測すればよかったと後悔。

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↑羽生名人。休憩時の撮影なので、考えているふうなポーズをとってもらっている。
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↑豊島七段。こちらは、マイクで指し手を言っているふうなポーズ。
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↑今回はマスコミ陣が多く、しかも撮影機会は限られているので、ワラワラ状態。
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↑実況と大判解説は、バックネット裏の一番上の階。ゲストはたくさん来て、将棋とクルマの話で盛り上がっていた。

 今回登場したクルマは以下のとおり。歩は色違いで用意されていた。成るときはどうしたかというと、基本は屋根の上にある駒に貼ってあったものを剥がすと成り駒になるようになっていたが、と金と成銀、龍王は、特別車が用意されていた。しかし、実際に使われたのはと金のみ。しかも出てすぐに取られるという仕打ち。6:38:45あたりが“と金”登場シーンだ。登場しなかったほかの2台は、終局後お披露目された。

羽生名人陣営のクルマ

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↑王将はトヨペット クラウン(2代目)。流線型が当たり前の世の中だけに、逆にこの車のカタチが美しく感じてしまう。

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↑飛車はカローラ レビン(AE86)。
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↑角行はランドクルーザー(40系)。
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↑金は初代プリウス。
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↑銀はアルテッツァ。
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↑桂馬は初代bB。
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↑香車はMR-S。
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↑歩は初代Vitz。

豊島七段陣営のクルマ

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↑玉将はクラウン アスリート。若草色の限定仕様。
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↑飛車は86。
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↑角行はMIRAI。
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↑金はプリウス。
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↑銀はミラー仕様のハリヤー。
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↑桂馬はiQ。
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↑香車はカローラ アクシオ。
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↑歩はVitz。
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↑特殊成り駒のクルマは成銀がハリヤーG’s。歩はVitz G’s。写真がないが、竜王は86 14R60(TRD)だった。他のコマは駒に貼っているものを剥がす仕様。

 対局の方は、角交換のあと豊島七段が攻めて一時期コンピューターの評価値(AWAKEによる)が豊島七段の+600を超えていたのだが、18時すぎぐらいから逆転。その後どんどん評価値が下がっていき最後は、豊島七段の-9999。つまり詰みが見つかった状態を示した。9:36:50ぐらいが投了した場面だ。

リアル車将棋の舞台裏
↑投了したときの様子。実況している部屋からでも盤面はよくわからない。

 将棋のできる声優で、将棋番組や電王戦でもお馴染みの岡本信彦氏が登場したのが、9:15:30ぐらい。当初の予定より45分ほど押しての登場だったが、このあとすぐに投了してしまったため、出演時間が短かった。ファンにとってはちょっと残念な結果に。

リアル車将棋の舞台裏
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↑岡本信彦氏は終局間際で登場。その前は乃木坂46の伊藤かりんちゃん

 駒の動きをタイムラプス撮影しジオラマ風に見せる映像は3回に分けて放送。前半、中盤、最初から終局までと、それぞれ3:02:006:19:4510:00:45。これを見ていると、ジオラマ上でミニカーを動かしているようにしか見えない。

 終局後にインタビューの時間が取られた。放送終了後は室内の予定だったが、撮影を兼ねそのままインタビューしたため、寒い中答えていただいた。ドライバーのつなぎにサインをしていた羽生名人、これかなり羨ましいぞ。

リアル車将棋の舞台裏
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 ということで、壮大なスケールで行なわれたリアル車将棋、将棋としての勝負の行方、様々なクルマが登場して移動させる様、ドライバーたちの連携プレーなど、見どころが多く電王戦とはまた違った楽しさがあった。ただ、現地で見ていると、クルマの移動は確認できるが、将棋の勝負がどうなっているのかは把握しづらい。いや、むしろできない。場内は対局中、放送の音はもちろん映像も流れておらず、羽生名人と豊島七段の指し手の声、各監督の声だけが響いていた。なのでその点では、ニコ生で見ている方がいい。ただ、ドライバーたちの指図の声やエンジン音、ドアの開閉が場内に響き渡るところの臨場感は現地にいたほうが楽しめたと思う。

 若者のクルマ離れが叫ばれているが、今回放送途中途中にトヨタのCMをいろいろなパターンで流していた。テレビで見かけないものばかりなので、ちょっと見てみるといいかも。特に私的には2:42:00からのCMがオススメ。大掛かりないわゆる“ピタゴラスイッチ”のような感じで、いろんなクルマが曲芸的に走って行く。昔のいすゞジェミニのCMのようだ。

リアル車将棋の舞台裏
↑狭い空間でドリフトしたりするさまは一見の価値あり。

 もし可能ならまた来年も見てみたい気がする。今度はトヨタ×日産とか、違うメーカー同士で新旧織り交ぜたクルマとかどうだろう。ただ、春とか秋とか過ごしやすい時期希望。また、3月から始まる電王戦もどうなるのか楽しみ。対局する場所はどこになるのか、電王手くんはどう進化するのか、こちらも見どころが多いので、お見逃しなく。

■関連サイト
電王戦×TOYOTA リアル車将棋公式サイト
将棋電王戦FINAL公式サイト

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