2015年01月09日17時00分

スタイリッシュな電動義手に潜む超メカニズムに迫る exiii山浦博志CTOインタビュー

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■SF映画のように美しい電動義手、目指すはコスト10万円
 筋電義手は、不慮の事故などで手を失った人が残された上腕の筋肉の動きをセンサーで検知して手指を動かす電動の義手だ。exiiiは筋電義手を従来の10分の1以下、10万円の低価格での提供を目指している。価格もさることながら、それ以上に目を引くのは義手のイメージを覆す、SF映画に出てくるロボのようなスタイリッシュなデザイン。3人の技術者が目指す、新しい電動義手の世界とは? 開発の山浦氏に話を訊いた。

 週刊アスキー1/20号 No1011(1月5日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第12回は低価格でスタイリッシュな革新的義手の製作を目指す“Exiii(イクシー)”のメカエンジニア山浦博志CTOに、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。

Exiii

↑腕のサイズを調整可能な最新試作機のモデル『handiii COYOTE』。“finch”を開発する奈良先端科学技術大学院大学の吉川氏、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の河島氏の協力のもとに開発。

■義手の利用者に出会えたことが分岐点、1年以内に実用化して2名へ贈るのが当面の目標

伊藤 イクシーさんは、代表の近藤さんと、設計の山浦さん、デザイナーの小西さんの3名で開発されているんですね。近藤さんと山浦さんは、大学で義手の研究をされていたんですか。それともロボティクス方面ですか?

山浦 私と近藤は同じ大学院の研究室で、小西がひとつ下の後輩です。人間と機械の協調をテーマにした研究室で、そのときに私たちが取り組んでいたのが義手の研究でした。近藤は、筋電義手の生体信号処理、私は人に装着する機械のメカニズムを専門に研究していました。

Exiii

↑ソフト、ハード技術者とデザイナー3名の精鋭。近藤玄大CEO(右)が信号処理、山浦博志氏(中央)がメカ設計、小西哲哉氏(左)がデザインを担当。彼らは秋葉原にできたモノづくりスペース、DMM.make AKIBAの初回入居組でもある。

伊藤 そして、いったんメーカーに就職されたわけですね。

山浦 近藤はソニーの研究所でロボットの研究。私はパナソニックでデジタルカメラの設計に携わっていました。

伊藤 メカ設計専攻からルミックスの開発に携わって、また戻ってきた形ですね。起業のきっかけは?

山浦 それには2段階あります。私は就職してからも趣味でメカをつくっていたんです。一方で、近藤はまだ筋電義手への思いがあり、個人的に研究を続けていました。それをお互いに知ることとなり、じゃあ、組み合わせてやってみようかと。それが2013年夏のことです。やる以上は何か目標があったほうがいいので、コンテストに出すことにしました。その1ヵ月後の8月に“ジェームズ・ダイソン・アワード”があったので、応募したところ、いい評価をいただけたんですよ。

伊藤 そこから今に至る?

山浦 それは第1段階。第2段階は、実際に使っていただける方に出会えたことで、すごく励まされたんですよね。

伊藤 どのようにして出会われたんですか?

山浦 受賞したことがウェブに掲載されて、フェイスブックから連絡をいただきました。

伊藤 製品になるなら、ぜひ使ってみたいという感じですか?

山浦 そうです。今は2名の方にご協力いただいています。

伊藤 やはり、実際のユーザーが試してフィードバックしてもらうのって、大きいんでしょうね。

山浦 それはぜんぜん違いますね。僕らは腕にはめることができないので、手にもって動かしてみても気がつかないことが多い。実は今日もユーザーの方に使っていただいたんですけど、腕に装着すると側面のボタンが机の角にぶつかって、誤作動をすることがあるんです。

伊藤 そう言われてみれば。

山浦 また、モノをつかもうとすると、指の動きの制約があるらしいのです。ああ、この動きができないんだなってのが着けてもらって初めてわかる。

伊藤 今、kibidango(きびだんご)さんでクラウドファンディングをされているんですよね。何人にお贈りするんですか?

Exiii

↑筋電義手『handiii』を2人に届ける。資金調達にはクラウドファンディングサイト“kibidango”を利用。協力者の2名へ実用レベルのhandiiiを届けるのがプロジェクトの目標だ。当初の目標金額は達成したが、多くの人に届けるため引き続き資金を2015年1月19日まで募集中。

山浦 まずは2人です。最初にテストしていただいた方に。

伊藤 それにしても、デザインが綺麗で、セクシーですよね。指を単体でほしいって人がいそう。

山浦 実は、クラウドファンディングのオプションでも考えたんですよ(笑)。でもいらないでしょう。いりますかねぇ?

伊藤 ワンフェスとかに出せば、需要ありそうですよ。モーターなしでいいからほしい人。ロボ好きの方は「おっ!」てなる。

山浦 けっこうそういう話も聞くのですが、どこまでニーズがあるのか、プロトタイプの段階ではわからなかったんです。まずは実用的なものを2人に届けて、次の段階として、義手じゃない売り方をできるのかどうか考えようと思っています。

■スマホの利用、指の関節機構によるモーターの削減、3Dプリンターによる製造で、コストを10分の1に

伊藤 おもしろいなと思ったのは、なるべく安価に義手をつくることをテーマにされていること。低価格の提供は当初からの目標だったんですか?

山浦 当初からコストは課題でした。近藤がスマホを使うアイデアを出して、私がモーター数を削減するアイデアを出して、組み合わせたら、かなり安くできるんじゃないかと。

伊藤 指の関節の機構もすごい。これ、ひとつのモーターで動かしているんですよね。関節ごとのサーボがいらないとは。

山浦 3つの関節を動かすには、本来モーター3個が必要なのに、1個にしちゃったんです。ひとつのモーターで第3関節を動かすだけで、モノにぶつかればその形になじんで、関節が曲がるんです。自分の手でやってみるとわかりますよ。もともと指ではない部分にも使われている仕組みで、それを応用しました。

Exiii

↑モーターひとつで3つの関節が動く指の機構。モーターをひとつにすることで軽量化を実現。複雑な指パーツも3Dプリンターで組みあがった状態で出力される。

伊藤 3Dプリンターだと、この指のパーツも組み立てずに、そのまま出力できるんですよね。

山浦 バネ以外は組み立てられた状態で出力されます。

伊藤 手で組み立てたら、すごいコストになっちゃいますよね。時間も人件費もバカにならない。今、お値段をつけるとしたら20万円くらいするのでは?

山浦 現状、試作の材料費が3万円、そしてあくまで目標の数字ですが、売価で10万円を目指しています。

伊藤 安いですね。“義手を贈ろうプロジェクト”ですね。いまでも実際、10万円でつくれるものなんですか?

山浦 材料費だけなら可能性はあります。でも開発費やサポートもありますし、実現の可否の検証はまだまだこれからです。

伊藤 ちなみに一般的な電動義手って、おいくらなんですか?

山浦 約150万円くらいから、何百万のものもあります。

伊藤 10分の1を目指しているわけだ! いま、パーツの原価はどういう内訳ですか。

山浦 3Dプリント代が1万5000円、1個800円のモーターが6個で約5000円ですね。

伊藤 パーツ代だけなら、ひとケタ万円でつくれるというわけですね。これだけ体積があって3Dプリントが2万円とは思えないなぁ(笑)。今の段階で、製造原価ベースでは不可能じゃないところに驚きます。

山浦 3Dプリンターは高いというイメージをもっている方もまだ多くいらっしゃる。でもナイロンの粉で固めるタイプなら安いんですよ。製造業関係の方もすごく驚かれます。「今はそんなに安くなってるんだ!」と。

伊藤 先日の“Maker Faire Tokyo2014”では義手に握手してもらうための行列ができてましたよね。実際、握手したくなりますよねぇ。最新バージョンの“COYOTE”の素材はカーボンですか?

山浦 表面にカーボン風のシートを貼り付けています。クルマの装飾用シートを張っていて、熱をかけるとなじんで曲面もキレイになります。うちのデザイナーの職人芸です(笑)。

伊藤 よくできているなぁ。前バージョンとの違いは?

山浦 大きく変わったのは腕に装着する部分の機構です。今回は可動式になり、腕の太さや形が違っても、調整できるんです。

伊藤 フルオーダーでつくらなくても済むようにですか?

山浦 はい、従来の義手の人体への装着部は、すべてフルオーダーでした。腕を石膏で型取りして、それに合わせて板材を縮めてつくっていました。それじゃ、どうしてもコストがかさんでしまいます。そこで、個人差を吸収できるようにと。

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↑腕にセンサーを巻きつけて、最新モデル『handiii COYOTE』を操作してみた。予想以上に思いどおりに動き、スマホもつかむことができた。腕に力を入れると、距離センサーの周りにあるスポンジが圧縮され、その距離変化から筋肉の強弱を測定。

■装着者をヒーローにしてしまうような、ハンデではなくアドバンテージになる義手

伊藤 今は筋電位を使わない方法も試されているんですよね?

山浦 どちらも並行して研究開発を進めています。

伊藤 筋電位と距離センサー、それぞれのメリットは何です?

山浦 筋電位は、より多くの情報をとることができます。具体的には、ある筋肉に筋電位センサーを張ると、その筋肉だけの強弱の情報だけがとれる。反対側にも張り付けたら、また別の筋肉の強弱がとれる。すると、2つの筋肉から違った強弱がとれ、組み合わせによって、さらに多くの情報が得られる。この試作機のタイプは、距離センサーを腕に巻きつけちゃうので、ひとつの強弱しかとれないのです。

伊藤 でも距離センサーのほうが強弱がとりやすいと聞きます。別々の動きはできないけど、ゆっくり手を握ったり開いたりといった、動きにはいいかも、ということですよね。

山浦 強弱データをとりやすいのは距離センサーですね。

伊藤 実際に僕が動かしてみることはできますか?

山浦 もちろん。センサーを腕に巻き付けてください。

伊藤 けっこう思ったとおりに動きますね。握手もできる!

山浦 このモデルは距離センサーを使っています。筋電位に比べてノイズが少なく、情報量が減ってしまう代わりに、絶妙な調整ができるのがこのタイプの特徴ですね。ちなみに、この方式は、“finch”(フィンチ)という電動義手を研究されている奈良先端科学技術大学院大学の吉川雅博先生、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の河島則天さんのアドバイスを参考にしています。

伊藤 スマホもちゃんとつかめますね。おもしろい!

山浦 裏側のモードボタンを押してみてください。

伊藤 お、動きが3本指になった。

山浦 もう一度押すと、1本指になります。エレベーターのボタンやキーボードを押すのに使えるかと。要は、これまで動作の切り替えを筋電位だけで行なおうとしていましたが、ある程度は割り切ってもいいかなと。

伊藤 なるほど。これはすごい。こりゃ、行列になるわけだ(笑)。

山浦 「握手をしてください」っていう行列ができちゃうと、義手を付けている側の人って、もうヒーローです。ハンデではなく、アドバンテージになればいいなって思うんですよね。

伊藤 結局、人体に似せようっていうのは、それはそれでもどかしい。素材の質感とか。ある種、ロボットっぽくても成立するデザインのおかげで価値観が変わった気がします。

山浦 人体に似せようっていうのは、いわば、腕の障がいを隠す方向なんですよね。もちろんそれを望まれている方も多くいらっしゃいますし、そうした義手が必要不可欠であることは理解しています。ただ、それ以外の選択肢として、隠すのではなく、個性だと言ってしまう人がいてもいいのではないでしょうか。ただ、個性といっても不便ではいけません。であれば逆に、これを装着することで、逆に健常者にはできないことができれば、別の価値のカッコよさが生まれる。自分の個性をアピールできる、しかも、人から羨ましがられるものになれば、と。

伊藤 クラウドファンディングでお渡しするものは、これからまだ変わるんですか。

山浦 さらにブラッシュアップしていきます。いくつか課題もあるので、もうふたひねりくらいはしていきます。

Exiii

イクシー株式会社 CTO
山浦博志
 メカエンジニア。東京大学大学院卒。2014年10月に近藤氏、小西氏の3名でイクシーを設立。東京大学発明コンテスト奨励賞、東京大学大学院工学系研究科長賞などを受賞。

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