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「今の若者は必ずしもリクナビで就職を決めていない」常見陽平氏が著書「リクルートという幻想」を語る

 今週の速水健朗氏対談『え、それってどういうこと?』にはコラムニスト常見陽平さんが登場。長く過ごしたリクルートという会社について、深く斬り込んだ著書について語ってもらった。

それってどういうこと

常見 陽平(つねみ ようへい)
評論家・コラムニスト。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。DJ 、デスメタルバンドけだものがかりのボーカルとしても活動中。2015年4月より、千葉商科大学に新設される国際教養学部の専任講師に就任予定。著書に『意識高い系という病 ソーシャル時代にはびこるバカヤロー』(ベストセラーズ刊)ほか。

リクルートにいた当時はクラスのはじにいる困ったやつって感じでした

速水:リクルートというと、ちょっと特殊な人が多い印象でしたけど。常見さんがいたころも、やっぱりちょっと変な人が多かったりしたんですか。

常見:そうですね。たしかに同期を眺めても、極端に合理的に考える人とか、モチベーションがやたらに高い人が多かったかな。

速水:そのなかで常見さんはどんなポジションだったんですか。

常見:クラスのはじにいる困ったやつみたいな感じでしたよ。

速水:昔は、よく研修の段階から自己啓発セミナー的なことをやらされるって言われていましたけど。ああいうのの経験は?

常見:ありますよ。僕のいた時代でいちばんイヤだった研修は、入社して半年くらいで自己啓発研修みたいなのがあって。たとえば「速水さんについて、みんなでサーベイをとりましょう」となって、「自分は仕事が早いと思う」とかいろいろな項目を自分でチェックしつつ、いっしょに働いている仲間たちも自分に対してそのサーベイをチェックしていくんですよ。その結果が折れ線グラフで出てくるんだけど、自分で思うグラフとまわりが思うグラフとを比較して「この点は3ポイント乖離してる。それはなぜか」みたいな感じで責められてね。

速水:こわいですねえ。

常見:入社して半年くらいだと、ちょうど自分のやりたい仕事と違うとか、人間関係に悩んだりとかいろいろなことがあるんだけれども。そんなことで問い詰められて、みんな泣いて帰るというような研修だった。僕は研修途中でいやになっちゃってね。懇親会みたいな場でウイスキーをボトルでラッパ飲みして、会場の壁にそのボトルを投げつけて、その反動で僕もばたーっと倒れて。気がついたら朝だった。

速水:はははは。そういうの、いまでもあるんですかね。

常見:いまもモチベーションアップ系の研修はあるみたいですけど、ここまで陰湿なのは、僕らの時代が最後くらいですかね。

それってどういうこと
常見陽平氏

いまの若者はかならずしもリクルートを通過しない?

速水:たとえば僕らは人生の節目節目でリクルートを避けては通れないですよね。就職のときには、いまだとリクナビに登録したり、資料が送られてきたりして。

常見:そうですね。

速水:そして、うちでも結婚するときには一定期間、『ゼクシィ』を買いましたし。あれって人生でその時期だけ買うものですよね。かつては『フロム・エー』とか『エイビーロード』とか、留学だ旅行だバイトだって時期ごとに買いましたし。クルマを買うときには『カーセンサー』。そうやって雑誌を通していちばん身近な自分のライフコースに現われてくるのがリクルートで。まあ、あれは雑誌という名の広告なんだけど。

常見:情報誌、ですね。

速水:常見さんは、ああいう媒体をつくっていた時代も?

常見:あります。僕は『とらばーゆ』と、『じゃらん』。『じゃらんnet』のほうをやってましたね。

速水:あ、そうか。ネットが出てきた時期でもあったから。

常見:うん。でもいま、速水さんが おっしゃったことって10年前、2000年代前半くらいまでのリクルートのことですよ。というのも、いま課題なのがそこで。だって現在の速水さんの場合はもうリクルートさんのお世話には、ほぼならないと思うんですよ。 

速水:うんうん。

常見:いろいろなライフイベントをすでに経験したあとだというのもあるけど。そもそもいまの若者も昔ほど、かならずリクナビで就職を決めているわけではない。最終的にリクナビで決まったぶんを何割か聞くと、もはやそんなにすごい数ではないですし。

速水:ほう。

常見:優秀な学生ほど、リクナビは登録はするけど使わないという現象が指摘されますしね。住宅にしたって、別にもうリクルートさんを通さなくても買えますし。その点、ゼクシィはそのなかではかなり盤石の地位になっているけど。カーセンサーなんて、いまや介在する価値があるのか。

速水:まだあれを見てクルマを買ってるのかな、みんな。

常見:まさにそこはマイルドヤンキー層なんでしょうけど。でもそういうネットの時代になっても、昔と変わらずにクライアントからお金をとって情報発信しているん ですよね。だって僕らにとってはホットペッパーに載っている料理の情報なんてもう、ゾクゾクしないじゃないですか。

速水:うんうん。

常見:安くもなく、なんともすごく中途半端なものばかりだし。そう思うと、いまはかならずしもリクルートを通過しないというのが、ひとつの課題だと思ってて。

速水:そうね。いまは、ひょっとしたら情弱の人しか見ていないのかもしれない。もしかしたら、いわゆるネットの部分も全部、リクルートが取っててもおかしくなかったのにそうならなかった。

常見:そこがこの本のひとつの結論でもあるんだけど、江副モデルとのジレンマというところでね。やっぱり江副さんのつくった、クライアントからお金をとってユーザーと結びつけるというモデルで、いまだに売り上げをあげているのも事実なので。

今回の聞き手
速水健朗(はやみずけんろう)
'73年11月9日生まれ、石川県出身。編集者・ライター。著書に『ラーメンと愛国』(講談社刊)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク刊)ほか。
http://www.hayamiz.jp/

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