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アラスカで徹底検証! 『α7S』は最強のオーロラ動画撮影デジカメか?

2015年01月02日 13時00分更新

 こんにちは。オーロラ生中継プロジェクト、Live!オーロラを主宰している古賀です。初日の素晴らしいオーロラ爆発との遭遇を満喫し、2日目は仲間とともにLive!オーロラのアラスカ観測所へ向かいました。

 Live!オーロラを始めたばかりの2006年頃、オーロラ中継イベントを全て自費で開催していた僕に、運営スタッフとしてグリオンFCの友人達が力を貸してくれました。その頃からとても大切な友人で恩人でもある彼らに、実際の観測所を見てもらうのは、僕の夢でもあります。

オーロラ撮影のコツ
(撮影:『NIKON D700』+『Sigma 8mm F3.5』SS5秒 ISO5000/古賀)

 観測所は、アラスカ大学・フェアバンクス校が有するポーカーフラット実験場にあります。フェアバンクス市内から車で1時間余り走った山麓の中にある、広大な敷地を有する実験場で、場内の設備を僕の会社が2006年から専用で借り上げているのです。

オーロラ撮影のコツ
↑アラスカ大学の他、NASAも同居する施設なので、観測所入り口は厳重なセキュリティゲートで囲まれています。(撮影:古賀2014年11月渡航時)
オーロラ撮影のコツ
↑広大な敷地内の山の頂上にある、観測所建屋。この建屋の一部がLive!オーロラ専用観測所です。

 観測所に到着し、夜を待つと、北の地平線からオーロラ・アーチが見えてきました。オーロラ帯の下で観測すると、多くの場合は北の地平線からオーロラが東西にアーチを描くように現われます(夕刻過ぎからオーロラが活発になるような日は、突然、上空や南の空に現れることもあります)。

オーロラ撮影のコツ
(撮影:『SONY α7s』+『Sigma15mm F2.8』+『Metabones SpeedBooster』SS2秒 ISO5000/古賀)

 ところで、上の写真には人が写っていますね。「オーロラを背景にして自分を撮影したい!」と誰もが思うものですが、この場合、ストロボは使ってはいけません。もとより、ストロボの使用はオーロラ撮影現場では他の撮影者の邪魔になるので厳禁なのです。

 そんなわけで高感度撮影を試すのですが、「撮影するから、動かないで!」と頼んでも、人はどうしても少し動いてしまうもの。大きくブレた写真にならないようにISO感度を高めに設定し、シャッタースピードをできるかぎり短めにして撮影するのがコツです。

 また、オーロラ観測に月明かりは邪魔な存在と思われがち。確かにその考えは正解ですが、月の明るさと位置によっては、その存在が、逆にありがたい時があります。

 例えば、下の写真は、南の地平線上にある満月前の月が人や草木を照らしているおかげで、月光が自然のストロボになってくれています。

オーロラ撮影のコツ
(撮影:『SONY α7s』+『Sigma15mm F2.8』+『Metabones SpeedBooster』SS20秒 ISO640/古賀 2014年11月末)
オーロラ撮影のコツ
(撮影:『NIKON D700』+『Nikkor10.5mm F2.8』SS15秒 ISO640/古賀 2014年11月末)

 当日の気温は2度くらいだったのですが、風が強めに吹いていたため、初めてアラスカに訪れたみんなは寒さに震えていました。ちなみに、11月末に僕がひとりで来たときはマイナス30度でしたので、その寒さは比較するまでもありません(笑)。

オーロラ撮影のコツ
(撮影:『SONY α7s』+『Sigma15mm F2.8』+『Metabones SpeedBooster』SS2秒 ISO5000/古賀)

 日が暮れ、いよいよ観測所の天頂までオーロラがやってきました。しかし寒さに参り始めたみんなは、「宿に帰りたい……」とゴネ始めています(苦笑)。「もうすぐで素晴らしい情景が見られるよ」と伝えていたころ、空が答えるかのように、前日よりずっと大きなオーロラが天頂から降り注いできたのです。

 アラスカで僕がよく言う格言があります。
 「撮るか観るかどちらかにしろ」(笑)

 おもしろいもので、この時の写真をみんなに見せてもらうと、見事なまでに手ブレや構図ミス、シャッターチャンスを逃しまくった写真ばかり。三脚の前に立っているのに、空に見とれて撮影を忘れたり、興奮しすぎて慌ててしまい、結局、撮影に失敗してしまうからです。それでも良いんですが、せっかく生で雄大なオーロラを観ているのですから、慌てて撮るくらいなら、肉眼で十分に楽しんだほうが良いですね。

 そんな中、良いアングルで最高の瞬間を写真に収めていたのは、僕らと見ていたミムラさんと、体調を崩したため数キロ離れた宿で待機していたガッキーでした。オーロラは上空100km以上で輝くので、数km程度の距離であれば、同じようなアングルで観ることができるのです。

オーロラ撮影のコツ
(撮影:『NIKON D5000』10mm F3.5 SS10秒 ISO3200/ミムラさん)
オーロラ撮影のコツ
(撮影:『SONY NEX5N』+『16mm F2.8』+『VCL-ECF1』SS6秒 ISO1600/ガッキー)

 ここでひとつ、オーロラを撮る際のコツを伝授したいと思います。

 まず、ホワイトバランスは、できるだけ色温度で設定しましょう。2900~4000Kの間で、“肉眼色に近い値”を見つけると良いですね。ただし、月明かりや日の出や日の入り近くの薄明光によっては、撮影時のオーロラの色合いが変わります。オーロラ光はもともと緑色の波長を多く持っており、デジタルカメラのイメージセンサーも人間の目と同じように緑色を多く撮るよう設定されているので、あまりに肉眼色に近づけ過ぎると、彩度が落ちて地味な色合いの映像なったり、高感度ノイズが目立つようになります。そこは、実際に現地で試し撮りしながら設定値を探していくといいでしょう。

 また、オーロラ撮影で重要なのが、フォーカス合わせです。オーロラは巨大なものだと雲と同じくらいの高さで揺れているように見えますが、光のカーテン下端が上空100kmほど、可視光の上端が300~500kmと、ほぼ宇宙空間で輝いています。そのため、明るい星をみつけてマニュアルでフォーカスを合わせるといいでしょう。

 気をつけるべき点は、“オートフォーカスにしない”こと。そして、一旦フォーカスを合わせたらテープなどで“ピントリングを固定する”ことをお勧めします。暗視環境で撮影する際、ピントリングを触ってしまってフォーカスが狂うことが多いからです。ただ、テープの糊が氷点下で凍ってしまって剥がれることもあるので、カメラを移動させた時などは、LVで星を拡大してフォーカスの確認をした方が良いと思います。

オーロラ撮影のコツ
↑写真は2014年11月末、マイナス30℃下の観測所屋外でテストをする筆者。設定値がシームレスに反映されるLVは、オーロラ撮影にとって、もはや必須かも。

 さて、この時に僕は何をしていたのかと言えば、動画でのオーロラ撮影を続けていました。

 照度0.01-1ux程度の暗い光源であるオーロラをカラーで動画撮影するには、実は、相当な高感度特性を持つビデオカメラが必要です。10年ほど前までは、冷却CCDビデオカメラにI.I(イメージインテンシファイア)と言われる電子増倍管装置を装着したり、ハープ管のような特殊な撮像素子を持った特殊なビデオカメラを使う必要があり、4K動画撮影は夢みたいなものでした。

 苦労を重ねた結果、2006年に僕らがNECと共同開発したスーパー超高感度テレビカメラによって、常時動画生中継を実現するに至ったのですが、このカメラも一般の人が購入できるような代物ではありませんでした。だって、レンズだけで市販価格が100万円以上するからです(汗)。

オーロラ撮影のコツ
↑2006年からアラスカ観測所屋上のドームに設置してある、生中継用のスーパー超高感度テレビカメラ。

 2008年にようやくCANONから高感度特性と動画撮影機能を両立させた『5Dmark2』が登場し、明るめのオーロラならギリギリ動画撮影が可能になりました。さらに2013年の『CANON CinemaEOS』シリーズ、2014年の『NIKON D4S』、そして『SONY α7S』と、超高感度タイプでのデジタルカメラが次々市場に現われたことで、オーロラの動画撮影はぐっと身近になってきた感があります。

 とはいうものの、写真撮影のような長時間露光やレタッチによる“綺麗なキャンバス化”は、まだ簡単ではありません。むしろ、せっかく動画撮影するのであれば、より肉眼視に近いリアルな映像を捉えるようにしたい。

 今回、日本から持参した動画撮影用のミラーレス一眼カメラは、『Panasonic GH4』と『SONY α7S』です。GH4は拡張性や長時間撮影の耐久性などから4K動画撮影カメラとしても人気を誇っていますが、マイクロフォーサーズという点から、高感度撮影の分野ではあまり注目されているとは言えません。α7Sは登場直後から、星景写真家さんたちからも大注目を浴びたカメラです。

オーロラ撮影のコツ

 遠隔操作で生中継をしながらオーロラの動画撮影を続け、ついに累計5万時間を超えた僕にとってみれば、オーロラの活動度や変化、天候や月明かりによる撮影ノウハウがたっぷりあります。実際、動画撮影時のISO感度が上限値6400のGH4でも、条件が整えばマイクロフォーサーズ機であっても、オーロラ撮影ができることはわかっていました。α7Sにおいても、HDMI出力経由であれば、4K撮影すら可能なのです。

 さて。今回の大きな目的は、Live!オーロラ生中継システムへの導入実地テスト。ISO感度値やシャッタースピード、F値と撮影された映像に発生するノイズ特性の関係。また、イメージセンサーや画像処理エンジンにより変わるであろう、オーロラの撮影色の特性も判断したいところです。

 まず、GH4には、LEICA DG SUMMILUX 15mm/F1.7 ASPHに0.7倍のワイドコンバーションレンズを装着し、α7SにはNikon FマウントのSigma15mmF2.8 EX DG FishEyeを、マウントアダプター経由で装着しました。マウントアダプターは、レデューサーレンズ機能も持つMetabones社のSpeedBoosterを採用。これでレンズは実質F2.0相当の明るさになります(ちなみにFマウントを選んだ理由は、Live!オーロラのタイムラプス中継を行なうカメラの多くがNikon製なので、レンズの有効利用を考えた結果です)。

オーロラ撮影のコツ

 このアダプターをα7sに付けると、APS-Cクロップモードになります。オーロラを動画撮影する場合、気になるほどの解像感の劣化はないものの、高感度ノイズが若干、浮き上がるようですね。それでも超広角撮影をF2.0で行なえることを考えれば、ISO値を下げられるので採用するメリットはあります。超広角撮影をする必要がなければ、F1.4などの明るいレンズを使えば、よりクリアに撮影できますし。

オーロラ撮影のコツ
↑『SONY α7S』F2.0 SS 1/30 ISO25600で撮影したオーロラ動画撮影から切り出したもの。
オーロラ撮影のコツ
↑『Panasonic GH4』F1.7 SS 1/8 ISO6400で撮影したオーロラ動画撮影から切り出したもの。
オーロラ撮影のコツ
↑GH4(ISO6400 SS1/8 F1.7)の4K動画撮影から切り出し。スローシャッターだが、肉眼では薄っすらしか見えない暗いオーロラも捉えている。
オーロラ撮影のコツ
↑α7S(ISO80000 1/30 F2.0)による動画撮影から切り出し。人とオーロラを同時に動画で捉えられる。

 結果はどちらも“オーロラの動画撮影”に成功しました。GH4でも肉眼で見える明るさのオーロラであれば、揺れ動く姿を撮ることができます。しかし、さすがにISO上限値が6400ということで、シャッタースピードをスローに設定しなければなりません。これは、撮影する目的により判断が別れるところですが、ISO6400でのノイズ量は思っていたよりずっと少なく、予想以上にGH4の高感度特性は良いと思います。

 α7Sは、期待通り。ISO80000を超えたあたりから気になる程度のノイズが目立ち始めますが、これまで採用していたEM-CCDの超高感度テレビカメラや長時間露光のスチル撮影でしか捉えられなかった暗いオーロラ、赤いオーロラ、光の筋が無数に揺れ動くオーロラ爆発の様子を高速シャッターで動画撮影できました

 何度も繰り返した結果、α7Sはどんなオーロラでも確実に捉えることができる、規格外の超高感度カメラだと確信しました。デジタル一眼ということでレンズの選択の幅が広いことも、ユーザーにとっては嬉しい事です。超高感度野郎の僕らからすると、革命的な逸品であることは間違いありません。

 GH4で驚かされたのは、バッテリー耐性の高さ! 一晩の間に数時間4K撮影を続けても、バッテリーの交換は1度行なえば十分でした。NoktonやSLR Magicなどから出始めている広角で明るいレンズのラインアップのさらなる充実を期待したいところです。

 さて、続く1月3日はLive!オーロラプロジェクト開始以来の、大幅なシステム変更をした観測所の様子をお伝えしたいと思います! また明日、『週アスプラス』でお会いしましょう!

■関連サイト
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