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Apple Pay、Google Walletを試して比較:米国のモバイル決済最新事情2014冬

 モバイル決済なら日本がリード、という定説が変化しつつあるのか――スマートフォンでカード決済を可能にしたSquare、10月末にスタートしたAppleのNFCサービス“Apple Pay”と、米国でモバイルを利用した決済市場が盛り上がりつつあるようだ。2014年11月10日から1週間、米国サンフランシスコに行く機会があったので、いくつかのサービスを実際に体験してみた。Squareのジャック・ドーシー氏へのインタビューや、そこで聞いたことや体験したことを数回に分けてお届けしたい。

 米国でスマートフォンを利用した決済分野に注目が集まっている。起爆剤として注目されているのは、10月から米国で利用できるようになったAppleのNFC決済“Apple Pay”だ。だが米国では3年前から同じ仕組みをGoogleが提供しているし、NFCではなくQRコードやバーコードによる決済サービスも生まれている。さらには、スマートフォンに専用リーダーを装着することでカード決済を可能にするSquareなど、売る側からのアプローチもある。11月、Apple Payがはじまったばかりの米国でモバイル決済の動向を探ってみた。

■スマートフォンで支払うApple Pay効果によりNFC決済の利用が増加中
 Apple Payは端末側のType-A/B方式のNFCチップと読み取り機がやり取りすることで決済を行なうもので、米国でも新しいものではない(なお、日本のおサイフケータイが利用するFeliCaはType-F)。3年前の2011年9月にGoogleが“Google Wallet”を開始しており、Apple PayもGoogle Walletも同じメカニズムとなる。

 Apple Payはまず、クレジットカード情報の入力は写真撮影でオーケー、裏にある3桁のセキュリティコードを入力すれば準備完了だ。ショップでの決済では、端末をかざして“Touch ID”による指紋認証を行なうだけ。Google Walletのようにアプリを開く必要がないという点は、小さいようで大きな違いかもしれない。

 だが、制限はある。Apple Payが利用できるクレジットとデビットカードは、Bank of America、Capital One、Chase、Citi、Wells Fargoなどから発行されるVisa、MasterCard、American Expressとなっている。たとえば米国でよく利用されているDiscover Cardは、現時点では利用できない(ただし、DiscoverCardはApple Pay対応を表明している)。

米国のモバイル決済最新事情2014
米国のモバイル決済最新事情2014

↑iPhone 6でクレジットカードの写真をとって、カードを登録(なお対応していない日本のクレジットカードを登録しようとしたが、識別されなかった)。

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↑利用は端末をかざして指紋認証をするだけ。

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↑クレジットカードは複数のカードを登録できる。指定しない限りはデフォルトが利用される。

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↑Apple Payはオンラインショッピングでも利用できる。

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↑ほとんどのApple Pay/Google Wallet対応ショップはVerifoneの一体型読み取り端末を利用していた。

 先行したGoogle WalletはVisa、MasterCard、American Express、Discoverなどの主要クレジット、デビットカードをサポートしており、キャリアはSprintと組んでいる。クレジットカードの登録は簡単で、端末のカメラで写真を撮ればよい。利用も簡単で、レジにある対応リーダーにかざすだけ。だが、その前に端末のロック解除をして、Google Walletのピンコードを入力しておく必要がある(なお、Walletのロックを解除したままにしておくこともできる)。

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↑サムスンの『Galaxy Note4』でGoogle Walletを利用。

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↑Google WalletのPINを入力してアプリを開く。

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↑端末をリーダーにかざす。

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↑利用後、通知エリアにGoogle Walletで1.39ドルをWalgreen’sで支払った履歴が残った。

 Google Walletは友人間の送金、メンバーポイントカードの管理などの機能もあり、NFC対応のない端末でもアプリをダウンロードして一部機能を利用できる。

 Apple Pay、Google Walletだけではない。同じようにNFCを利用する決済機能は、Softcard(旧名称ISIS)からも提供されている。SoftcardはGoogleがGoogle WalletでSprintと組んだのに対抗すべく、米国の4大キャリアのうち残るVerizon Wireless、AT&T Mobility、T-Mobile USAが立ち上げた組織。開始予定を数回延期したのち、2013年秋にサービスインとなった。AndroidとiPhone向けにアプリを提供しており、モバイルでのNFC決済のほかロイヤリティカード管理などの機能も備える。Google Walletと同じようなサービスと見てよさそうだ。Softcardのミシェル・アボットCEOは2014年2月末のMobile World Congressで、11月の開始以来毎月50%増で利用が増えていると述べていた。

 Apple PayとGoogle Walletを試したのは、ドラッグストアのWalgreens、高級スーパーWhole Foods Market、ベーカリーレストランのPanera Bread。すべての店で両サービスともスムーズに利用できた。読み取り機が反応しないなどのトラブルは一切なかった。中でも、NFCの読み取り端末が別に用意されているのではなくクレジットカード読み取り端末とセットになっていたので、日本で電子マネーを利用するときに別の端末が用意される仰々しさのようなものがない点は体験としてよいと思う。店員との間でも行き違いはなかった。日本ほど店員の教育が行き届かないのではと予想していたのだが、決済時に「Apple Payで」「Google Walletで」と言っても、「何それ?」という反応はなかった。

米国のモバイル決済最新事情2014

 実際の利用はどのぐらいなのだろう? Walgreensの店員は、Apple Pay、Google Walletともによく利用されていると述べた。ある店員は、自身もiPhone6ユーザーで、Apple Payを利用していると私用端末を取り出して自慢げに見せてくれた。それに対して、Softcardについては認知が低いようで、「知らないなあ」とのこと。Panera Breadの店員も同じような意見だったが、「どこをタップするの?と聞かれたことがあるぐらい」とのこと。WalgreensやPaneraと比較すると購入単価が高いアパレルのAmerican Eagle Outfittersの店員も、「何度かApple Payでの決済を処理したよ」と言う。Google Walletについては、「利用しているのはGoogle社員だけじゃないの?」との返事が帰ってきた。

 Whole Foods Marketでは直接コメントは得られなかったが、同社のジェイソン・ブチルCIOは11月6日付けのWall Street Journalの記事で、10月20日にApple Payがスタートしてから同社の約390店舗で15万件の利用があったと述べている。Whole Foodsの客層はAppleの端末を持ち歩く層でもあり、これも大きいように思う。先のWalgreensも、米報道によるとApple Pay開始以来、モバイル決済の利用が2倍増加したとのことだ。

 このような状況から、やはりNFC決済についてはApple Pay効果があるとみてよさそうだ。Appleによると、Apple Payは最初の72時間で100万件以上のアクティベーションがあったという。さらには、Apple Payがスタートした後、Google Walletの利用も50%増で増えたという情報をArstechnicaが得ている。

 なお、Appleが巧妙だった点として、タイミングを挙げておきたい。米国では現在、ICチップ対応カードに対応できる国際デフォルトスタンダートの“EMV”の読み取り機の導入が始まっており、店舗側のクレジットカード読み取り機のアップグレード時期と重なっている。カード会社はICチップ搭載カードの発行を進めており、同時にショップ側にEMV対応端末に移行するよう求めている。NFC決済の普及には端末だけでなく読み取り機などインフラ整備が重要となるが、この際NFCも対応しようという機運のようだ。

 しかし、この状況を広い米国すべてに当てはめるわけにはいかないようだ。今回Apple PayとGoogle Walletの実験に付き合ってもらった地元のジャーナリスト2人によると、「ここは(先進ユーザーが多い)サンフランシスコだから特別」とのことだった。

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