週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

「絵コンテはiPadで描いています」アニメ制作現場のデジタル事情を「遊☆戯☆王ARC-V」の監督にきいてみた

2014年11月30日 09時00分更新

 現在、日本のアニメの色塗り作業や編集作業はデジタル化され、かつてのような手書きのセル画は不要となりました。それでも、アニメーションの原画や動きを指示する絵コンテは手描きで描かれることが多いですが、最近では絵コンテもデジタル化しつつあるそう。

 大人気アニメシリーズ『遊☆戯☆王ARC-V』の監督である小野勝巳氏は絵コンテをデジタルで、しかもPCではなくiPadで描いています。iPadでアニメの制作作業ができるっていったい? お話を伺ってみました。

遊戯王ARC-V

小野 勝巳(おの かつみ)
アニメーションの監督、演出を手掛ける。遊☆戯☆王シリーズでは前々作『遊☆戯☆王5D's』と『遊☆戯☆王ARC-V』の監督を務める。ほか監督を務めた作品は『働きマン』など。

――さっそくですがiPadで絵コンテはどのようにして描くのでしょうか!?

 iPad Airとワコムの筆圧感知式のスタイラスを使います。ワコムの『Intuos Creative Stylus』は最近出た2も買いました。アプリは『SketchBook』のiPad版です。

遊戯王ARC-V

 まず、線画で下絵を描いて、レイヤーを重ねていきます
 拡大ができるので細かく描き込みができるのがいいですね。3000倍くらいまでいけます。最近はテレビが大きくなったので、大画面を前提にアニメも引きのカットが増えてきたのですが、拡大ができると細かい描き込みができるのが助かります。ペンも0.2ミリの細いペン先を選べるので。

遊戯王ARC-V
遊戯王ARC-V

 仕上げに筆ペンを使って立体感を出したりしています。レイヤーで下絵をいっきに消せるので、余計な線がなくなって見やすくなります。

遊戯王ARC-V

 iPadで作業しているのは実を言うとここまでです。
 絵をiPadで描いたら、自宅のパソコンのソフトに読み込ませてセリフを入れこんだりしています。使っているソフトは『CLIP STUDIO PAINT』なんですが、ページで管理するようにしています。
 絵コンテってコマの右側に動きに対応するセリフを入れていかなくてはいけないのですが、手書きの場合は手作業でシナリオを書き写していました。お見せしているのはOPのコンテなので、手で書いちゃいましたが、デジタルでコンテを描けるようになってからは、基本的にここはシナリオをコピペして貼り付けています。これでかなり書き込む作業が楽になりましたね。
 あと、尺入れといってセリフを読むのにかかる時間を入れていく作業があるのですが、前は本当にストップウォッチを手に持って測っていたのですが、これはPC上にストップウォッチを出して書き込むようになりました。

――iPadで描くようになる前は、普通に紙に鉛筆で絵コンテを描いたということですが、iPadにしてどのような点が便利になりましたか?

 レイヤーごとに保存できるので、下書きや不要な線をあとから消せることですかね。書き込みするにも便利です。なんといっても、そういうふうに描いたり消したりしても消しカスが出ない点がうれしいです(笑)。
 それとデジタル化することで、データの持ち歩きや共有がとても便利になりました。仕事は外出がけっこうあるので、絵コンテだけに限らず、設定のチェックやシナリオを出先でチェックすることが多いです。

遊戯王ARC-V

 正直、デジタル化しても作業の全体の時間はあまり変わっていないんですよ。描いた絵コンテを保存するのに時間がかかったりするので。それでもさっき言ったように、シナリオのコピぺができたり作業自体が楽になりました。それと、デジタルなので外での作業が便利になったのが自分的としては助かりました。

――そもそも、どういうきっかけで絵コンテをiPadで描くようになったのですか?

 作業をデジタル化にしたいとはなんとなく思っていたのですが、家のPCではなかなかうまくいかなかったんです。iPad Airを買ってみて、あとはワコムの筆圧感知のスタイラスに飛びついて始めてみたらうまくいったので。『Intuos Creative Stylus』を知ったときはiPad用の筆圧感知のスタイラスがあるんだとびっくりしました。これがなければ今は仕事ができえません(笑)。

遊戯王ARC-V
愛用のワコム『Intuos Creative Stylus』、『『Intuos Creative Stylus 2』

 それとあとアプリ。『SketchBook』を使っていますが、鉛筆を細かく設定して自分用につくれるのがいいですね。やっぱり自分に合ったアプリを見つけられたのが良かったと思います。

――トラブルはありませんでしたか?

 自分の場合は特になかったです。わりと問題なくデジタルに移行できました。
 ただ、聞いた話によると、たとえば自分は絵コンテをデジタルにしたくても、チェックする立場の人が手描きスタイルの人だと、「消しゴムで直せないからダメ」ってNGになることがああるそうです(笑)。なので、絵コンテをデジタルにするにはまわりにも断りを入れなくてはいけないですね。

――アニメ業界ってなんだかんだ紙文化が根強いイメージがありますが、どうなんでしょう!?

 そうですね。たしかに、自分みたいにデジタルで絵コンテを描く人は少数だし、まだ紙が強いという面はあると思います。でも、新しい世代はどんどん入ってきているので考え方も若くなってきていますよ。
 僕自身、もともとデジタルにすごい強いってわけではなかったんですよ。ただ、こういうのおもしろそうだなって思って。アニメーターの人ってそういう人多いんじゃないかなと思います。新しい製品とかサービスがおもしろそうだとワクワクしちゃう。おもちゃのような感覚なんですよね。だからそういいう意味で、これからも変わっていくと思います。 

遊戯王ARC-V

 以上、デジタル化が進むアニメ制作現場の“今”の話がきけました。小野監督、ありがとうございました。
 小野勝巳氏が監督を手掛ける『遊☆戯☆王ARC-V』はテレビ東京系列にて毎週日曜夕方5時30分より好評放送中です!

■関連サイト
テレビ東京・あにてれ 遊☆戯☆王ARC-V

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう