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【私のハマった3冊】ネット炎上、ブラック企業 世知辛い現代日本を反映する3冊

2014年11月21日 16時00分更新

1003BOOK

天網炎上カグツチ
著 砂義出雲、イラスト Artumph
ガガガ文庫
640円

不戦無敵の影殺師
著 森田季節、イラスト にぃと
ガガガ文庫
637円

星降る夜は社畜を殴れ
著 高橋祐一、イラスト 霜月えいと
角川スニーカー文庫
648円
 

 度重なる増税、拡大する格差。昨今の閉塞感はオタク文化にも及んでいる。今回は、現代日本の世知辛さを味わえる3冊をライトノベルから紹介したい。

 かつては“自由な言論の場”として期待されたネットだが、今では万人が万人を監視し合い、1ミス即炎上の言論リンチの場となってしまった気がする。そんな時代の新たなヒーローを描くのが砂義出雲『天網炎上カグツチ』。ネットの感情を動力にしたパワードスーツの搭乗者となった炎上体質の少年・匂坂焔は、悪の組織と戦いながら常時ツイッターを更新。あの手この手でネットを炎上させ、みずからに突き刺さる言葉のナイフをエネルギーに戦っていく。ああ、ネットってなんでこんな世界になっちゃったのか……。

 だが高校生ヒーローは衣食住が保証されてるだけマシ。森田季節『不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)』は、異能力者が規制され、ショーでしか活躍できなくなった世界が舞台。最強暗殺者なのに「売れないラノベみたい」に地味なせいで仕事がない冬川朱雀は、非正規労働者として極貧生活を続ける中、正義の味方としての情熱を失い、犯罪の誘惑に屈してしまう。果たして彼の運命は……。

 やはりサラリーマンが安定? だがそこにはブラック企業が待っている。高橋祐一『星降る夜は社畜を殴れ』は“法令破り(コンプライアンス・ブレイカー)“、“働き過ぎの超越者(オーヴァーロードゥ)”などの異名をもつ社畜たちと、定時退社をめざす17歳の会社員・立花アキトが反社畜スキルで戦う現代社内異能バトル・コメディー。異能をもたぬ一般労働者諸兄は、せめて作中で解説される労働法知識だけでも身に付けていただきたい。

 自分らしさを求めれば非正規労働者として生活苦にあえぎ、自分を殺して就職すればブラック企業に潰される。どうしようもない鬱憤をネットにぶちまければ即炎上……そんな逃げ場なき現代社会を生き抜くヒントは、きっとこの3冊の中に隠されて……いるといいなぁ。
 

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か』(星海社文庫)がある。

※本記事は週刊アスキー11/18号(11月4日発売)の記事を転載したものです。

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