週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

Windows情報局ななふぉ出張所

千葉県だけで使えるSIMカードも実現? 法人向けMVNOの世界

2014年10月22日 17時00分更新

 最近世間を騒がせているSIMカードといえばiPad Air 2やiPad mini 3に同梱の“Apple SIM”ですが、パナソニックも10月14日に“企業向けMVNOサービスへの本格参入”という、地味に興味深い発表をしています。

 発表内容としては、最新の超軽量ノートPC『Let’snote RZ4』にSIMカードを同梱して販売するというもの。しかし今後の展開についての構想を聞いてみると、いろいろとおもしろいことが分かってきました。

“千葉県だけで使えるSIMカード”も実現? 法人向けMVNOの世界
↑ITpro EXPO 2014(10月15日~17日)に出展したパナソニック。最新Let’snoteやTOUGHPADを多数展示した。

 そもそもMVNOは、その名前に“Virtual”を含む通り、自社ではネットワークを持たず、NTTドコモなどの通信事業者(MNO)から帯域を購入して通信サービスを提供するのが特徴です。大手キャリアではなかなかカバーできないニッチな需要に応えることが売りのひとつとなっており、何らかの制限をかけることで低価格を実現したプランを中心に、人気を博しています。

 たとえば最近では月額2980円で3MbpsのLTE通信が使い放題になるという“ぷららモバイルLTE 定額無制限プラン”があり、筆者も個人的に契約してPCからのデータ通信などに活用しています。

 これに対して、パナソニックが本格参入することを発表したのは企業向けMVNOの市場です。最近は個人向け同様に、企業向けのMVNOも盛り上がっています。大量のSIMカードを一括導入したり、請求書払いに対応するのはもちろん、企業ユーザーが求めるさまざまなデータ通信の需要に対応しているのが特徴です。

■通信量や時間帯、地域などのカスタマイズも可能に

 今、企業ユーザーによるデータ通信の需要としては、どのようなものがあるのでしょうか。たとえばパナソニックはTOUGHPADシリーズとして、Windows Embedded 8.1 HandheldやAndroid 4.2.2を搭載した小型タブレットをこの秋に発売しました。

“千葉県だけで使えるSIMカード”も実現? 法人向けMVNOの世界
↑『FZ-E1』は、OSとしてWindows Embedded 8.1 Handheldを搭載する。本来は小売店での決済や倉庫での在庫管理などで用いるハンドヘルド端末を想定したOSだが、Windows Phoneのようにも使える。
“千葉県だけで使えるSIMカード”も実現? 法人向けMVNOの世界
↑FZ-E1と同じ筐体を用いたAndroid版が『FZ-X1』。MILスペック対応のタフネスモデルで、過酷な現場にも耐える業務用端末だ。

 これらの端末はバーコードリーダーを備えており、そのデータをLTEで送信するために端末台数分のSIMカードを購入しようとすると、毎月の通信料金が高額になってしまいます。しかしバーコードのデータ自体はとても小さく、通信量は1ヶ月でも数Mバイト程度、低速の通信で十分です。

 すでにNTTコミュニケーションズは、法人向けの“OCNモバイルONE for Business”において、月額540円で30MBまで使えるプラン(30MB以降は従量制)を提供しています。30MBで足りない場合は、200Kbpsで月間0.5GBの通信ができる月額864円のプランもあります。一般的なスマートフォンでの利用では明らかに容量が足りませんが、あらかじめデータ量を見積もりやすい業務用途にはピッタリといえます。

 パナソニックが想定する別の事例として、夜間のバッチ処理にLTEを使いたいという需要が高まっているとのこと。これまで、毎日の売上データを蓄積し、夜間にサーバーに送信するといった処理は、WiFiのある事業所や、有線LANが完備されたサーバールームで行われていました。

 しかし最近ではInternet of Things(IoT)により、車載端末や自販機、エレベーター、畑やビニールハウスなど、ありとあらゆる環境でデバイスが動作しており、センサーで収集したデータなどをサーバーに送っています。

 これに対してIIJの“モバイルM2Mアクセスサービス”では、夜22時から翌朝6時まで30MBの通信ができるプランを月額300円で提供。夜間だけ使えればよいという需要に応えるプランとなっています。かつてダイヤルアップ接続が主流だった頃、23時から朝8時まで通話料金が定額となる「テレホーダイ」を彷彿とさせるSIMカードといえます。

 パナソニックもまた、こうした需要に応えるプランを検討しているようです。深夜には電気料金が安くなるように、データ通信においても使用量が少ない夜間の時間帯を活用することで、通信料金を節約できる見込みがあるとのこと。

 また、技術的には基地局ごとに通信できるかどうかを制御できるため、ユーザーの需要があれば“千葉県でしか使えない”といった地域制限付きのSIMカードも実現できるとしています。その背景には、地域を限定することで、従業員が業務用のSIMカードをプライベートの通信に使うことを防ぎたい、といった要求があるようです。

■MVNOの細分化がおもしろい

 今後もIoTが進展することで、通信に関するさまざまな要求が生まれ、それに応じたSIMカードが続々と登場するものと思われます。パナソニックのおもしろいところは、Let'snoteシリーズや、TOUGHPADシリーズなど、自社でデバイスを持っているという点です。これらを組み合わせた展開が期待できます。

“千葉県だけで使えるSIMカード”も実現? 法人向けMVNOの世界
↑TOUGHPADシリーズもWindowsやAndroidを展開する。
“千葉県だけで使えるSIMカード”も実現? 法人向けMVNOの世界
↑すでにLet’snote向けには、SMSで制御する遠隔消去システムを提供している。SIMカードが抜かれると起動しなくなるなど、さまざまな設定も可能だ。

 MVNOといえば、最近ではKDDIのネットワークを使ったmineoがiOS 8以降での通信に対応できなくなるなど、MVNOリスクともいえる問題が出てきました。しかしニッチな需要に応えるMVNOには、法人だけでなく、個人ユーザーも大いに期待しているはず。容量や料金だけでなく、通信時間帯や地域制限を組み合わせた個人向けSIMカードが登場すれば、ますますおもしろくなりそうです。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう