10月1日より配布が始まった『Windows 10テクニカルプレビュー』。すでに試してみた方も少なくないと思います。米マイクロソフトによれば、このプログラムには100万人が登録し、すでに20万件のフィードバックを得たとのこと。
これらのフィードバックは、Windows 10のスタートメニューに登録されている『Windows Feedback』アプリから確認できます。気に入ったフィードバックがあれば、“Me too”ボタンを押すことで投票することも可能です。
テクニカルプレビューはまだ日本語版がリリースされていないものの、日本語の要望も増えつつあります。たとえば「コントロールパネルかPC設定か、どちらかに統一してほしい」、「クラシックテーマを復活してほしい」、「Microsoftアカウントなしでセットアップしたい」といった機能改善の要望があります。
また、Windows 10の新機能についても「デスクトップ画面ごとに別の壁紙を設定したい」、「電源ボタンをスタートメニューの下部に置いてほしい」といった要望が上がっています。「日本語フォントのレンダリングの改善を」といった、Windowsの基本的な日本語環境に関するフィードバックもあります。
おもしろいのは、「フィードバックアプリを製品版にも入れてほしい」という要望です。ユーザーから集まったフィードバックを可視化し、投票できる仕組みをOS標準で持つというのは新たな試みになりそうです。もっとも、フィードバックするユーザーの層が広がれば、的外れなフィードバックが注目を集める可能性もあります。現在のポジティブな投票だけでなく、ネガティブな投票を受け付ける仕組みも必要になるでしょう。
■OSの劇的なアップデートはもういらない?
Windows 8の何が問題だったのかといえば、新しく導入した全画面表示のスタート画面やWindowsストアアプリを、すべてのユーザーに強制してしまった、という点に尽きるのではないでしょうか。
この問題は、Windows 8のプレビューを体験した多くのメディアが指摘していた点でもあります。当時は「さすがに製品版やEnterprise版ではオプションが付くのでは?」と思っていたものの、マイクロソフトは発売を強行。その後のアップデートで軌道修正を図ったものの、Windows 8には“使いづらいOS”という烙印が押されてしまいました。
もちろんWindowsユーザーが、Windowsの進化を求めていないというわけではありません。むしろOSのレガシーな部分を見直すことで起動時間を高速化したり、省電力なプロセッサーと連携してバッテリー駆動時間を長くしたり、高解像度のディスプレーをサポートしたりといった改善なら、誰もが歓迎するところです。
その一方で、ユーザーインターフェース(UI)の劇的な変更というのは、もはや求められていないともいえます。タブレット向けのUIが必要だとしても、それはデスクトップPCやノートPCといった伝統的なPCを使っているユーザーにとって関係のない話です。そして現在では、後発であるiOSやAndroidでさえ、基本的なUIは固まりつつあります。
それでもOSを有料で販売することが当たり前だった時代には、目玉となる新機能が求められていたことも事実です。数千円、ときに数万円ものお金を出してソフトウェアを購入するからには、その金額に見合うような大きなアップデートが欲しいところです。
しかし今日のユーザーが期待するのは、OSの使いづらい部分が改善されること、新しいハードウェアをサポートすること、安全な環境が維持されること、そして何より無料であることが挙げられます。そういう意味では、Windows 10へのアップデートが無料になるのではないか、との予測が出てきたのは興味深いところです。
■Windows 10より重要なのは“真の”マルチプラットフォーム対応
今回のテクニカルプレビューでは、”法人向け機能”や”Windows 7ユーザー向けの機能”という観点が強調されています。Windows 7を使い続ける法人ユーザーに、Windows 10に乗り換えてもらうにはどうすればよいか? それを明らかにすることが、マイクロソフトにとって重要な課題になっていることがうかがえます。
年明けにはコンシューマー向けの新機能や、Windows Phoneの後継となるモバイルデバイス向けのWindows 10も登場することが期待されます。ただ重要なのは、Windows 10はマイクロソフトの社運を賭けた新製品というよりも、その”一部”になりつつあるという点です。
たとえば日本で10月17日より展開する新しいOfficeや、企業向けに展開する管理ソリューション『Enterprise Mobility Suite』(EMS)の説明会においても、マイクロソフトはiPadを用いたデモを中心に据えています。
実際に法人営業の現場では、日本マイクロソフトに対して「Windows Phoneを発売しないのか?」との声が多数寄せられているとのこと。しかし最近はそれ以上に、「iOSやAndroid向けのOfficeを、どれくらい本気で提供していくのか」という関心が、急激に高まっている印象を受けます。
かつてのマイクロソフトであれば、Windows 10を搭載したモバイルデバイスでiOSやAndroidに対抗するという、わかりやすい基本戦略を打ち出していたことでしょう。しかし2012年のWindows 8発売以降、2015年に期待されるWindows 10までの“失われた3年”を取り戻すことは容易ではありません。その間にライバルにはさらなる進化を許してしまい、ますます窮地に追い込まれる––そんなシナリオが見え隠れしていました。
しかし新CEOであるサティア・ナデラ氏のもとで、マイクロソフトの戦略は劇的に変わっているとのこと。今後はこれまでの中途半端な“マルチプラットフォーム対応”とは全く異なる勢いで、マイクロソフトのクラウド製品をあらゆるデバイスに展開していくことになりそうです。この“Windows以外も本気でサポートする”という考え方の変化こそが、新生マイクロソフトの決定的な強みになっていくのではないかと筆者は感じています。
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