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“フレームレス”スマホ AQUOSへのこだわりを5名の開発者にきいてきた

2014年09月02日 08時30分更新

 シャープが送り出した『AQUOS CRYSTAL』は、ふたつの側面で“初”を実現している端末だ。端末としては、初のフレームレスディスプレーを採用。ディスプレーが周囲の光景に溶け込み、あたかも一体となっているように見える。ハーマン社の技術を採用し、サウンドにこだわった点もこのモデルの特徴だ。

 もうひとつの初がビジネス面。AQUOS CRYSTALは、ソフトバンクが傘下のスプリント社と共同調達で開発した初のモデルでもある。端末は日本だけでなく、米国でも発売予定。スプリントのほか、同社の回線を使うMVNOでも取り扱われる。ソフトバンクにとってだけでなく、シャープとしても、海外市場で再起を狙うための戦略モデルと言えるだろう。このモデルの開発陣にインタビューし、開発の狙いや端末の特徴をきいた。

『AQUOS CRYSTAL』
↑パーソナル通信第三事業部商品企画室室長澤近京一郎氏。

――まず、この端末を開発したきっかけを教えてください。

澤近氏
「シャープ独自のデザインとして、差別化もあって“EDGEST”という名前の狭額縁構造を採用した商品をこれまで投入してきました。画面だけを持つ感覚を商品化したいということで、これは304SH、305SHと進化を続けてきています。一方で、狭額縁ではなく、フレームをなくしたモデルの検討も進めてきました。
 要素技術として、数年前から技術展示というかたちで皆さんにも紹介していたものです。これを今後、もっと差別化する中で商品化したいと提案し、協議の結果、ソフトバンクさんにもかなり気に入ってもらえました。国内だけでなく、共同調達で海外向けに採用を進めたいとなったのも、そのためです」

――一方で、今までシャープさんが日本に投入してきた端末に比べるとスペックは抑え目ですね。

澤近氏
「フレームレス構造を採用することが現実的になってきて、それをいち早く採用したいというのがありました。これは見た瞬間に感動するものです。それをお買い求めやすい価格で提供したいというのがありました。そのため、まずはフレームレスを前面に押し出したものとして開発しています。それとは別に、日本仕様がほしい方のために、『AQUOS CRYSTAL X』という、より画面サイズを大きくした端末も商品化する予定です」

――お買い求めやすい価格とおっしゃった点ですが、日本ではさておき、米国では250ドル以下ですからね。ここは当初から意識的に狙っていたのでしょうか。

澤近氏
「シャープだと、どうしても米国では後発で、ブランド認知度が低いところでの投入になります。ただ、パッと見ていいねという商品にはしました。それをお求めやすい価格で買えるということころは、狙った部分もあります」

――米国でもテレビのAQUOSはそれなりにシェアを取れていると聞きますが、それでもブランドはないですか。

澤近氏
「確かにおっしゃるようにAQUOSの名前はある程度通っていますが、「スマートフォンのシャープ」という認識がないのを心配していました。そうした中で商品発表をしたところ、想定以上に反響が大きく、こちらもビックリしています。やはりフレームレスのインパクトは大きかった。日本だから受けたというのではなく、アメリカでも感動を与えることができることがわかりました」

――ただ、日本のユーザーにとっては、せめて防水やおサイフケータイがひとつぐらい入っていてもよかったのではないでしょうか。

澤近氏
「どこまで仕様を入れて、どこまで割り切るかの協議は相当してきました。ただ、この端末は、まずフレームレスのよさを訴求したいということで、そこに特化しています。ほかをそぎ落として、ほかにはない形を提案したいという思いがありました」

『AQUOS CRYSTAL』
↑要素技術開発センターシステム開発センターシステム開発部主任研究員前田健次氏。

――技術的には、どのような形でフレームレスを実現したのでしょうか。

前田氏
「フレームレスを実現できた要素はふたつあります。ひとつは液晶の額縁を今までより狭くしたというところです。
 液晶の周囲には、画面の表示に寄与していない部分があります。この部分をできるだけ狭くしました。ここに入っているものの正体は液晶を駆動させる部品です。液晶はラインを駆動させて表示のオン・オフを切り替えますが、それを駆動させる回路が入っています。ここを技術の進化で縮めました。従来比でいうと60%ぐらいにすることができています。
 ポイントはもうひとつあって、タッチパネルやバックライトといったスマートフォンのディスプレーに必要な部品も、今までの額縁が広い液晶を前提に作られています。こうした構成部材にも、すべて見直しをかけました」

『AQUOS CRYSTAL』
↑A1284プロジェクトチーム主事清水寛幸氏。

清水氏
「そして、あと少し残った部分をないように見せるのがレンズ技術です」

『AQUOS CRYSTAL』
↑デザインセンター通信デザインセンター所長小山啓一氏。

――というのは?

小山氏
「液晶に対してアクリルのパネルを斜めにカットすると、まっすぐと斜めに映像が出てくるところがあります。そうすると、塊のようなところから映像が浮かび上がるように見える。クリスタルの中に映像が封じ込められているように見えるんです」

『AQUOS CRYSTAL』
『AQUOS CRYSTAL』

小山氏
「このレンズ効果を出すために、最初はもっと厚いアクリルを使っていました。今採用しているのは1.5mmですが、開発当初は2mm以上でした。ただ、デザインの部分でボテボテになってしまったら商品になりません。この部分はプーレンにがんばってもらいました」

『AQUOS CRYSTAL』
↑デザインセンターグローバルデザイン開発室係長プーレンフィリップ氏。

プーレン氏
「カットの光や影をできるだけ薄く見えるように工夫しました。また、トップガラスのクリスタルカットの光に合う、エレガントでシンプル、精度の高いデザインにしています。背面も手に取って気持ちのいいパターンを考えました」

『AQUOS CRYSTAL』

小山氏
「背面のサンプルにはいろいろなパターンがありました。より未来感があるものということで、このドットパターンを選んでいます。ドットはひとつひとつの穴の大きさと深さのバランスを取っています。プーレンが精度の高いと言ったのは、そういう意味です」

――普通のスマートフォンだと、液晶にはガラスを使っていますよね。なぜ、アクリルを採用したのでしょうか。また、強度面の問題はなかったのでしょうか。

前田氏
「ガラスだと成形が難しく、使うことは不可能ではありませんがアクリルのような感動が実現できませんでした。ご心配の強度も、コーティング技術で今までより高めることができています。擦り傷に対しても今までよりは強くなっています。
 見え方も、ちょっとした違いで輝きや奥行きが違ってきます。それと、少しでも薄くしたいということで、ものすごい数のサンプルを作りカットの美しさや感動感を検討しました」

――シャープがプッシュしているIGZOを採用しなかった理由も、このフレームレスが関係しているのでしょうか。

前田氏
「IGZOでもできないことはないと思います。ただ、この商品をできるだけ早く市場に投入したかった。トレードオフやバランスを含め、タイムリーに市場投入しようとするとCGシリコンの方がいいという結論になりました」

――もうひとつ、この端末はサウンドも売りにしていますね。

清水氏
「透き通る一体感を表現したいとういのが根っこにあります。一体感には、視覚的な一体感もあれば、聴覚的な一体感もあります。それを表現するために、今質にもこだわろうということで、今回はHarman/Kardonの技術を採用しています。
 具体的には“クラリファイ”と“ライブステージ”という2つの技術を採用しています。クラリファイはデジタル化する際にデータが圧縮されてしまいますが、その失われた音を復元するための技術です。低音域や高音域を一律で上げるというのではなく、ひとつひとつの楽曲を分析して復元しているのが特徴です。
 もうひとつのライブステージは、ヘッドホンを使って聞くときに有効なもので、オンにすると音に広がりが出ます。豊かな臨場感がさらに増すという技術ですね」

――そこまではわかるのですが、個人的にはスピーカーが付属するのはちょっとやりすぎな気も……。ソフトバンクの売り方なので、シャープさんに言ってもしょうがないのですが。

澤近氏
「(インタビューした発売日前日には)ソフトバンクさんからは予約のネタになっていると言われています。ただ、実際にこれから販売するときにどうなるかは、注視していきたいと思っています。
 また、今回クリスタルサウンドという形でハーマンの技術を搭載するのは訴求になります。それをすぐに体感いただける手段にはなると思っています」

――ソフト面では、何かフレームレスを生かす工夫はありますか。

清水氏
「“クリップナウ”という機能で、画面の上をなぞるとスクリーンショットが撮れるようになりました。これは、持った画面を切り取ることを表現しています。
 また、背景にはスクリーンショットの利用率がかなり増えているというのがあります。ゲームをしていてハイスコアやレアカードを取ったというときに、それを保存したり、画面のメモとして使う。そういうことがすごく増えています。今のスクリーンショットはボタンを2つ同時に押さなければならず、失敗もします。そのもっと簡単に撮りたいという課題と、フレームレス構造を組み合わせたのがこの機能です。
 ワンタッチで撮れるだけでなく、保存したURLにすぐにアクセスできるので、メモとしての使い方も広がります」

――UIもいつもよりシンプルですね。

清水氏
「アプリシートとデスクトップシートの2面はこれまでと同じですが、今回はとことんシンプルにしました。アプリがズラーっと並んでいたところを2ページだけにして、よく使うアプリを1ページ目に、その他は2ページ目にしてすべてフォルダーに入れています。デスクトップシートについても、今回はYahoo!のウィジェットが1個張り付いているだけです。せっかくフレームレスになったので、その(アイコンではなく映像が美しく見えるような)すごさを伝えたいですからね」

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