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パズドラ山本P「僕、水泳を始めます」(後編):召喚★アプリ神

2014年06月19日 15時00分更新

 話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』が、週刊アスキー本誌で開始しました!週刊アスキープラスでは誌面では掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第1回目のゲストはこの人、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの『パズル&ドラゴンズ』プロデューサー、山本大介さんです。(前編中編後編

召喚★アプリ神

■ 何があってもつくり続けるのがクリエイター

安藤:会社の後輩に渡辺範明、ワタノリという男がいて、偶然この業界では山本さんといちばん仲がいいんです。『クロスゲート』や『コンチェルトゲート』のプロデューサーで、楽曲制作にあたってイトケンさんともお付き合いがあった。その流れもあってパズドラでイトケンさんが曲を書く流れができたわけですが、イトケンさんはスクウェア・エニックスの流れももちつつ、パズドラのコラボの時にバハムート戦の曲を書いたり、立ち位置としてはガンホーだけどでも、元スクウェアの人だし、みたいになっている。
 結局のところ、今はどんな立ち位置でも関係ないということになっていますよね。今主流になりつつあるコラボや、クリエイターどうしの協力体制、その源流を突き詰めていくと、そんなところに行き着くような気もします。

山本:ワタノリさんも今、ボードゲームをつくっていますよね。

安藤:すごいですよね、スクエニを辞めてボードゲームのプラットフォームをつくってしまった。ワタノリがやっていることって、デジタルからアナログに移行したけれども、ゲームプロデュースにほかならないですよね。
 横井軍平さんは、「遊びはそもそも映像に頼らなくても遊び」という考えをもっていらっしゃった。ワタノリって、横井軍平さんに似ているなと思っているんです。彼は、もともと画面を使って遊ぶゲームをつくっていたんですけど、映像をまったく必要としなくてもゲームをプロデュースしてしまう。いや、ちょっとほめすぎだな(笑)。

山本:僕とワタノリさんは仲が良くて家も近所なんですけど、この前公演をやるというので行ってみたんですよ。「ボードゲームゲームのつくり方」っていうゲームデザインのお話で。とてもピュアでいい話だったので、実はガンホーでも公演していただいたんです。参加人数が結構多くて、3回やっていただきました。

安藤:うちの会社にも来てほしいな。

山本:絶対にやってもらったほうがいいと思いますよ。ワタノリさんはゲームに携わる人にとって、純粋にモチベーションが上がるお話をしてくれるんです。

安藤:いいですね。僕はゲームづくりは、技術と友だちにならないといけないとは言ってはいますけど、もし何かしらの天変地異ですべての電気的なガジェット、電気というものすらなくなってしまっても、たぶん僕も山本さんもゲームをつくり続けますよね。

山本:つくり続けますね。紙と鉛筆とろうそくの明かりしかなくても、ゲームをつくり続けますよね。

安藤:ワタノリは、そういうクリエイターの本質からブレないから、今輝いているんですよ。そもそも今ってスマホのような新しいガジェットが前提になっていて、スマホが儲かるからゲームをつくっているという人も僕らと同じ土俵にいる。でも僕らは儲かろうが儲かるまいがつくるし、正直ゲームなんてそんなに当たるものではない。これだけ当てた山本さんも、ゲームなんて当たらないものだと思っているでしょう、本当のところは。

山本:本当に同じですね。

安藤:“千三つ”という言葉がありますけど、1000本つくって3本、もっと少ないかなというぐらい当たらない。ビジネス的な建前からするときっと言ってはいけないんでしょうけど、エンターテインメントの本質をわかっている人であれば、そのぐらい見返りがない世界で、頑張れば頑張っただけ報酬がもらえるような世界ではない。でも売れなくなったり、売れない時期が来たらゲームづくりをやめるかといったら、やめませんよね。

山本:やめないですね。パズドラもデッキ構築型のカードゲームを出したじゃないですか。ボードゲームもづくりたいし、地味にいろいろやっているんですけど、何であってもゲームをつくるのは楽しいですね。 ゲーム業界にはただ単純につくりたくて入ってきているので、極端な話、どんな媒体でつくろうが、給料もらえなかろうが、どうでもいいんです。

安藤:どうでもいいです。僕は今日の対談もゲームにならないかなと思って話しているところがあります(笑)。平たく言うと、何でもゲームにならないかなと常に思っているわけです。

山本:思っちゃいますよね、生理的に何か考えちゃいますよね。思いつくとたぶん、対談中でも無視して考え始めてしまいますよね。
 さっきの話に戻るんですけど、ゲームを一所懸命つくるなんて当たり前じゃないですか。全員一所懸命につくっているので、あとは運とタイミングだと思うんです。

安藤:あとはしつこくつくり続けることですよね。一瞬だけゲームをつくっていて、そのあと本業のDJに戻りました、なんていう人はいない。売れている人の共通点を探すと、たぶんずーっとつくり続けている人ということになると思うんですね。一所懸命やることと、しつこくつくり続けることは、この業界では息をするぐらい当たり前のことですよね。

山本:そうなんですよね。人生を賭けるしかないですよね、もうね。当たるまで。

安藤健康寿命という物理的な制限も、それすらゲームですよね。残りどれぐらいあるかわからないけど、そのなかでいっぱいやりたいことがあるわけでしょう。

山本:そうなんですよね。

安藤:次に何をつくるか結構悩みませんか?このゲームに人生をかけていいのかって。例えばFFクラスのプロダクション規模のスタッフはそう思うだろうな。いったん制作に入ると、完成するのは5年後ぐらいになるわけだから。自分で3年以上かかったプロジェクトを経験したときにすら思いましたし。

山本:それはやっぱり重いですよね。……ごめんなさい、思い出しました。今日言おうと思っていたことがあるんです。僕ね、水泳を始めます。

召喚★アプリ神
↑スクウェア・エニックス安藤武博氏。

■ ゲームクリエイターの今後のテーマは健康?

安藤:ん!?なんでですか?突然きましたね。

山本:先日、あるゲームクリエイターの大御所の方とお話しする機会があって、その方は60歳を越えてらっしゃるんです。趣味はおもちなんですかと聞いたら、無趣味ですけど水泳をやっているんですって。
 ちょうど僕と同じ30代後半から始めたらしいんですけど、60代でも現役でゲームをつくるとなると体力が必要ですよね。なので僕もマジメに始めようかなと。しっかり続けて20年後ぐらいに、若手スタッフに「君はスポーツはやるのかい」って。「50代60代になっても現役でつくりたいのなら水泳やらなきゃだめだよ」って言いたいです(笑)。

安藤:それ、いいですね!僕もやろうかな。

山本:やらざるを得ないですよね。

安藤:フィットネスクラブが近くにあるから、泳いでから出社しようかな。

山本:その時に大御所の方から教えてもらったんですけど、ジムにいって自己トレーニングが中心になると、人間ってさぼりがちになることが多いんですね。じゃあどうするかといったら、やっぱりスイミングクラブに通う。泳いでいるとあとからほかの人が泳いでくるから、のんびりやっているとつっかえてしまう。だからどんどん泳がざるを得ない、というところまで教わったんです。

安藤:どうやったら続けられるかを考えて水泳をやられているところがすごいですよね。どうやってプレイヤーに続けてもらうかみたいな、心理的なことをきちんとデザインできる人ならではの考え方ですよね。その方は、ほかの人がつくったゲームを一切やらないと聞いたことがありますけど、ゲーム以外のことから刺激を受けてアイデアを生み出しているんですね。
 それにしても、健康寿命のことは、お互いそろそろ考えますよね。

山本:そうですね。仮に50歳まで現役だったとして、あと14年ぐらいしかない。1年に1本つくるとしても14本しかつくれない。残りの人生で何をつくるか真剣に考えないといけない歳になっているし、そもそも体力をつけないと残業や徹夜がきつくなってきている。これからはやっぱり、体力づくりがゲーム業界のテーマじゃないかと思いますね。

安藤:本当にテーマにしないといけないですよね。手塚治虫さんや石ノ森章太郎さん、藤子・F・不二雄さんは60歳ぐらいで亡くなられているじゃないですか。もし生きていたら現在もとんでもない作品がいっぱい出ているわけですよ。でも健康寿命がそれを止めてしまった。であれば、ものをつくる人は健康寿命と戦わないとダメだっていう話になり、したがって水泳をやらないとダメという話になりますよね。

山本:ただひとつだけ言いたいのは、20代の人たちはいっぱい徹夜をしたほうがいいということですね。なぜかというと経験も少ないですし、歳を取っても徹夜をしなければいけないタイミングがくるんです。例えばゲームをつくっていて納期が近くなった。最後にクオリティーを上げようと思ったときに、間に合わせるためには睡眠時間を削るしかないんです。
 それを若いうちにわかっておいてもらいたいんです。自分の身体のためだからといって、18時とか19時にゆるゆる退社していたのでは、いいゲームがつくれなくなってしまいますよね。

安藤:自分という自動車は排気量何ccで、最高時速度が何キロ出るのかというベンチマークをもっておいたほうがいいですね。3日徹夜するとエンジンブローを起こす、とかね。

山本:大切ですよね。それ以上やるとクオリティーが下がりますし、そこをわかっていれば、ギリギリのときであっても最低限これぐらい休みを取ろうとか、自己管理ができるようになりますよね。

安藤:若いときにアクセルをベタ踏みして、思いっきりコースアウトして、「俺というクルマのスペックだと、この速度でコーナーに進入したらスピンする」という限界をまず知らないと、ベストラップを刻むことができないですよね。

山本:そうですね。

安藤:限界を知れば乗りこなせるし、乗りこなしていればテクニックも老獪になる。そうなると30代以降に、最速で走れるようになります。20代の頃は、一度寝たら元に戻るという都合のいい身体をもっていますしね。

山本:あの回復力にはびっくりしますよね。

安藤:もうすっかりなくなりましたけどね(笑)。でも健康寿命という制限があるから、次に何をつくるかという選択に重みが出てきますよね。

山本:長くつくりたいけど制限があるからというのは、確かにありますね。そういう意味でも、やっぱり水泳は必要だなと思いますね。

安藤:ちょっとした水泳ブームがゲームクリエーターにくるかもしれませんよ。もしかしたら、ゲームクリエイターだらけの水泳大会」とかも(笑)。絵ヅラは最悪ですけど。

山本:あまり見たくないですが、いいですね(笑)。

安藤:健康寿命が続く限り、ゲームをつくり続けていきたいなというモードにいよいよ突入した感じです。健康はこれからのゲーム業界全体の課題になりそうですね。もうすぐ『ドラクエ』も『FF』も30周年になりますし。

山本:つい最近『マリオ』が30周年だと思っていたら、そうなんですね。

安藤:FFが30周年を迎えるときは、『FFVII』からはちょうど20周年になるはずなんですよ。

山本:逆にFFからFFVIIまでは10年なんですね。FFVIIの時代から、ゲームを1本つくるのにいかに時間がかかりだしたのかがよくわかりますね。

安藤:つくっている人も遊んでいる人もどんどん歳をとってきますよね。だから遊ぶほうもつくるほうにとっても、健康って共通のテーマかもしれません。水泳して体力つけないとゲームも遊べなくなる(笑)。

山本:そうですね。今後もゲームを盛り上げるためにイベントをやっていきますけど、健康のこともちょっと考えてつくらないといけないですね。

安藤:本当にそういう領域になりつつあるぐらい、これからもお互いに長くゲームをつくっていきたいですね。
 山本さんとお会いしてから2年が経ちましたけど、ゲーム自体も、山本さんとの関係も、お互いのゲームクリエーター人生も、これは結構続いていくぞと、この対談で改めて認識しました。それこそ、20年後ぐらいにお互いに腹筋が割れた状態でまた対談したいですね。

山本:逆三角形になりたいですよね。

安藤:健康寿命が続く限りお互い共闘したり、いい意味で刺激しあいながら面白いゲームをつくっていければと思いますので、これからもよろしくお願いします。

山本:よろしくお願いします。ありがとうございました!

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