速度計測だけではわからない、各社が実施するLTEネットワークの工夫や今後の方針などを担当者に直接インタビュー。第1回となる今回はドコモの平本氏にお話をうかがいました。
ドコモは、ネットワーク構築に4つの周波数帯域を利用している。800MHz、1.5GHz、1.7GHz、2GHzの各帯域で、“クアッドバンドLTE”としてアピールする。周波数の特性から、大きく分けると“800MHz帯とそれ以外”に分類でき、800MHz帯は電波が遠くまで届きやすいため、郊外や山間部などの農産層地域を中心に拡大。こうしたエリアはトラフィックもそれほど大きくはないため、ひとつの基地局で広いエリアをカバーしても問題が起きにくい。
クアッドバンドLTE
これに対して、都市部で800MHz帯は「飛びすぎる」(平本氏)。トラフィックの多い地域では特に基地局の間隔が狭いため、飛びすぎるとほかの基地局と干渉を起こしてしまい、品質が劣化する。このため、都市部では2GHz帯をベースにエリアを構築している。
↑ドコモ 無線アクセスネットワーク部 無線企画部門担当部長の平本義貴氏。
このふたつの周波数帯で“面”をカバーしつつ、トラフィックの高いエリアではベースとなる2GHz帯に1.5GHz帯、1.7GHz帯および800MHz帯を重ねることで、通信速度の向上を図る、というのが基本的なやり方になっている。
1.7GHz帯は2013年9月からLTEサービスを開始した周波数帯で、エリアは順次拡大。20MHz幅の帯域が新たにLTEとして利用可能になったことで、1.7GHz帯が導入されたエリアでは速度向上が見込める。
これに加えて今年4月からは、東名阪で1.5GHz帯の15MHz幅の利用が開始された。これまで5MHz幅でしか利用できなかった帯域が4月から15MHz幅への拡大が可能となったことで、さらに帯域に余裕ができた。ドコモでは、これまで1.5GHz帯は東名阪では5MHz幅で提供していたが、基地局自体は15MHz幅を想定して設置しており、免許の申請が通った順に15MHz幅での運用を開始する。「軽微な工事が伴う基地局もあるが、だいたいは設定を変更するだけ」(同)なので、一気に帯域拡大を行っていく計画だ。
新しいLTEの周波数帯は、最新モデルでも一部のAndroid端末で1.7GHz帯に非対応なほか、iPhone5s/cは1.5GHz帯には非対応となっている。ただ、ほかの端末が1.7/1.5GHz帯で通信することによって既存の帯域のトラフィックが減れば、iPhone5s/cなどにも恩恵があり、順次効果が現れてくると見られる。
もともとドコモは3GエリアのLTE化が比較的慎重で、トラフィックの多い都市部を中心にLTE化を進めてきた。LTEのパフォーマンスがちゃんと出るような設計を目指していたようだが、急激なスマートフォンシフトに対して、利用できる帯域が限られていたことが、当初の苦戦に繋がっていたと言える。
ただ、周波数も帯域も増えたことで、最近は多くの場所で改善が見られるようになってきている印象だ。エリア拡大も、面展開を加速して、これまでLTE化されていなかった場所も「なるべく早くLTE化する」(同)という。
とはいえ、朝8時台、夕方6時台の駅や駅周辺、住宅街の23時ごろなど、トラフィックが急増する時間帯・場所では、いわゆる“パケ詰まり”のような現象が発生する。こうした対策はやはり「難しい」と平本氏は語る。
単純には「基地局を増やす」のが対策となるが、都市部の駅になると、基地局を設置する場所を確保するのも難しくなっている。そのため、ドコモでは6セクタの基地局を展開。一般的な基地局は3セクタが多いが、これを倍の6セクタにすることで容量を確保している。
6セクタ基地局
さらに、電波を発射する角度を変えることでエリアの拡大縮小を行う、という対策も実施している。ひとつの基地局のエリアが混雑していて、隣接する基地局が比較的空いている場合、混雑基地局のエリアを狭くして隣接局のエリアを拡大すれば、混雑基地局のユーザーが減り、トラフィックが減少するので、パケ詰まりの解消が可能になる、というわけだ。トラフィックの状況を見ながら随時遠隔からの制御でエリアの広さを変更できるというのがメリットで、「トラフィックを3割減らせれば、1.5倍にスループットがあげられる」(同)。
また、基地局の制御ソフトウェアのチューニングによる対策も行なっている。ドコモは複数のベンダーから基地局を購入しているが、制御ソフトは同じものを導入している。このソフトのチューニングによって基地局の容量がアップすることもあるそうだ。このチューニングは「毎月のようにやっている」(同)とのことで、1回のチューニングでの効果は数割から数倍の向上と幅があるが、それらを積み重ねることで大きな効果が得られるという。
こうした対策を続けていくことで増え続けるトラフィックの上昇に対応しつつ、今後のさらなる品質向上のために、新たな技術の導入も進める。
音声のVoLTEは、従来の回線交換に比べて周波数利用効率が高いため、トラフィック増対策としても有効な対策の一つだ。ドコモでは2014年夏ごろの導入を目指している。
VoLTE導入は2014年夏ごろ
2015年度には、LTE-Advancedも導入する。次世代の通信サービスとして通信速度の向上が図れるほか、トラフィック対策としても有効な技術になっている。たとえば数十メートルの半径をカバーするアドオンセルをビルの壁面などに設置して容量を確保する、といったことが可能になる。
とはいえ、単純に小セルを作るとハンドオーバーが頻発して「品質の維持が難しい」(同)。LTE-Advancedでは、ふたつの周波数と同時通信ができるため、より広い範囲をカバーする1波で安定的な通信をしつつ、小セル内に入ったらそちらとも同時に接続する、という動作が可能になるので、「安定的な通信をしつつ、スループットが向上できる」(同)という。
ドコモは、4つの周波数帯域による“クアッドバンドLTE”をベースに、6セクタ基地局、電波のチルト角の調整、基地局のチューニングといった対策を行いつつ、新技術の導入でさらにネットワークの快適性を高め、「ドコモのLTEはすごい、という評判を上げていきたい」(同)としている。
●関連サイト
ドコモ LTE Xi特設ページ
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