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豊島七段の超速将棋が光った電王戦第三局詳細レポート

2014年04月04日 19時00分更新

序盤ほぼノータイムで指した豊島七段の超速将棋に惚れた

将棋電王戦第三局レポート

 第3回将棋電王戦第三局は、舞台を大阪へ移し、3月7日にオープンしたばかりの『あべのハルカス』で行なわれた。大阪マリオット都ホテルの55階インペリアルスイートに、これまでと同様、畳のセットを組んだ形だが、これまでのただっ広い会場でポツンと、ではない。窓から見える景色はまるで天空に浮かぶ城からみているかのようだ。

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↑やってきましたよ大阪まで。朝9時半からなので、前日入りです。

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↑天王寺駅前すぐにあべのハルカスはあります。展望台の入り口はここです。

 

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↑対局開始直後の記事に掲載した写真は曇り空でしたが、午後になって晴れ間が! 晴れのほうがきれいですね。

 今回も電王手くんは黙々と駒を並べていた。今までと違い下が絨毯でふかふかなため、多少改良を施している。また、前日に設置している段階で、夕方は西日が強く差し込み、画像認識には厳しい環境のようである。

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↑今日も元気に電王手くんは仕事をしています。ちょっとバージョンアップしてます。

 第三局の模様はこちら

 棋譜はこちら

 今回のこの対局場、実は調度品がすべて動かせず、取材陣にとってはかなり狭いスペースしかない。そのため、初手を指すときはごく一部の取材陣しか入れなかった。
 数手進んだあとに、やっと部屋には入れたが、対局が始まってからバタバタと入れ替わりで取材陣がなだれ込んだので、ちょっと指しにくかったのではないだろうか。
 豊島七段はスーツ姿で登場。初手は▲7六歩。2手目は△8四歩。そして3手目を指す前に豊島七段は上着を脱いでいた。▲2六歩と指したあとは、お互いほぼノータイムで指し豊島七段が横歩を取ったときに席を立った。YSSが少し考える。ここからは、YSSが一手一手考えたが、豊島七段はほぼノータイムで指す展開となった。

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↑豊島七段はスーツ姿でしたが、私が対局場に入ったときには、すでに上着を脱いでいました。

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↑今回の対局場は、大阪マリオット都ホテルの55階にあるインペリアルスイート(関連サイト)。ホテルのページにある写真をみてもらうとわかりますが、家具類はすべて別室に追いやられてます。

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↑インペリアルスイートにあるジャグジー。こんなところで風呂に入ってみたいですね。

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↑55階から下を見下ろした感じ。ちなみに、ホテルの客室階へはカードがないとエレベーターのボタンが押せない仕組みです。

 大盤解説はいつもの六本木ニコファーレではなく大阪の大正アゼリアで行なっていた。解説が久保利明九段と野月浩貴七段、聞き手は村田智穂女流二段。久保九段の話によると、3手目に注目だったようだ。豊島七段は▲9六歩と指す予定だったようだが、2手目が△8四歩となったため▲2六歩とした。これが△3四歩だったら相手の出方を見るために▲9六歩としていたようだ。豊島七段は相居飛車、相振り飛車を指したいという。

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↑大盤解説は大阪で行なわれていました。しっかり背面にはコメントが流れていて、ニコファーレのよう。

 そして、終局後のインタビューでも話題になっていた、22手目の△6二玉だ。「人間では指さない手」と船江五段もおっしゃったように、ふつうなら△5二玉や△4一玉とするところ。評価値は豊島七段が一気に上がって300を超えた。今回の評価値はponanzaが担当している。
 

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↑船江五段は今回の観戦記事担当。終局後にインタビューもしていました。

 YSSは結構守りの将棋でこの手が好きなようだ。それを事前の研究で知リ尽くしたかのように、豊島七段は攻める。ノータイムで▲3三角成り。YSSが△同桂としたところ、ここもノータイムで▲2一角打ち。ふつうだったら熟考するところだが、ズバッと切り込んでいる。△6二玉が来たらこの手を指すとすでに心に決めていたのかもしれない。
 ここまでで豊島七段はわずか3分しか使っていない。対するYSSは28分使っている。このときすでに豊島七段の指し手が早く、評価値も300超えということもあり、検討室はかなり盛り上がっていた。ちなみに、検討室は同ホテルの会議室で20階にある。20階でも周りに高い建物がないので、遠くまでよく見えた。

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↑左が20階からの眺め、右が55階からの眺め。20階からでもかなりの眺望だと思います。

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↑控え室の様子。朝から展開が早いため、今までののんびりムードとは違い、ちょっと慌ただしかった。

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↑今回の現地レポートは、香川女流王将が担当。現役女子大生であり才色兼備ですね。

 現地レポートに遠山五段が急遽登場。質問は途中、大盤解説場から野月七段がしていた。

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――今どうなっているのか説明してもらいますか?
遠山五段「いやぁ、激しくなりましたね」
野月七段「それはプロ棋士のコメントじゃない(笑)」
――この展開は予想されていたんですか?
遠山五段
「この△6二玉というのは、私が立会人を務めた電王トーナメントでYSSが実際指した手。なので豊島七段もこの手を考えていたと思います。先週(第二局)会場でお会いしたときにこの話をしたんですが、まさかその手になるとは思わなかったのでびっくりしましたね」

――かなり研究されていた局面なんですね。
遠山五段「そうですね、研究していて△6二玉はかなり手強い手だとおっしゃっていたので、これで勝だとは到底思っていないはずです。まぁ、こうなったらこうやろうと思っていたはずですね」

――早い展開で踏み込んでいって、楽に展開したいと思っているんですよね。
遠山五段「このまま一直線に行って勝てるとは思っていないですね。リベンジマッチで船江五段もこのように時間をいっぱい残してリードを保って勝つような展開を考えているのではないか」

――とは言え、一手微妙なミスが出たら決着してしまうこともあるので緊迫感はありますよね。
遠山五段
「豊島七段は中盤力をかなり警戒していたので、わりと終盤戦に一気に持ち込む展開がいいと思っているようです。先週ずいぶん話したので豊島七段はきっとこういうことを考えていたんだなと思いますね」

――勉強会のことを聞かせてもらえない?
遠山五段
「出場棋士の方に集まっていただき、いろいろ検討してもらい、コンピューター将棋に詳しい先生をお呼びして色々講義を聞く会。豊島七段は、2回とも参加していた。早い段階からいろいろと絞って考えていたようだ」

――コンピューターの思考の仕方とか、どう分析するかとか、自分でどういう将棋にもっていけば勝ちやすいのか、みんなで話しあったりするんですか。
遠山五段
「コンピューターの傾向を話しあっていたんですが、菅井さんがいちばん詳しくて、豊島さんもかなり詳しかったですね。久保九段が3手目に秘策があるとおっしゃってましたが、勉強会の早い時点ですでに豊島七段が言っていて、実際には違う手だったので出ませんでしたが」

――居飛車対振り飛車が指したくないっておっしゃってましたよね。△8四歩と指されたから、相居飛車になるとわかって指さなかったと。
遠山五段「そうですね、そのとおりだと思います」

――豊島七段の勝負に掛ける意気込みは、自分の成長や限界を出しつくしたいんでしょうか。
遠山五段「そのあたりは、船江五段にあとで伺うといいかもしれませんが、昨日も色々聞いていたんだけど、飲み過ぎて忘れてしまったそうです」

 このあと、大正アゼリアの大盤解説会場に吉本新喜劇座長でもあるお笑い芸人の小籔千豊氏が登場。大阪の福島にある将棋会館に通っていたことがあるぐらい、将棋が強いことで有名。37手目の▲1三竜や41手目の▲3九金を的中していた。解説していた野月七段や現地レポートに登場していた井上九段も感心するほど。小籔さんのトークはもちろん、指し手の読みも鋭く、この解説を聞いているだけでもおもしろかった。

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↑小籔千豊氏が登場し、大盤解説はかなり盛り上がってました。将棋も詳しいので、ここの中継は見てほしいですね。

 31手目の▲4八銀あたりから豊島七段もノータイムというわけには行かなくなり、一手一手考えている。この時点で評価値は豊島七段の480台だ。

 ここで、現地レポートになった。東和男常務理事と立会人・井上慶太九段が登場。

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――朝から対局室で対局するお二人に会っていたと思いますが、様子はどうでしたか。
井上九段
「そうですね。たくさんの報道陣の方がいてすごかったですね。電王手くんを初めて見ましたが、かわいらしいですね」

――電王手くんが駒を並べたりの動作はどうでした?
東常務理事「そうですね、愛嬌があって。豊島七段がどうかなと思いましたが、ぜんぜん動じていなかったですね」
井上九段「豊島七段は愛おしそうな目で見ていましたよ(笑)。僕にはそう見えました」

――豊島七段のペースが速いというのは。
東常務理事「弟子の稲葉七段とこの△6二玉についてかなり調べていたようだ」
井上九段「相当深く研究されているようですね。すごく思い切り良く指されていて、いい感じで進んでいると思います」
――形勢はどうですか?
東常務理事「先手のほうが駒得が大きいので。駒得は裏切らないと森下九段がおっしゃっているくらいなので。少し先手を持ちたいですね」
井上九段「私はだいぶ先手持ちです」

 午前中は横歩取りから超急戦の展開になったため、お互い自陣を固めることもなく、40手も進んだ。これまでの第一局、第二局のゆっくりとした展開とは全く違い、豊島七段は極力時間を使わない指し回しだった。この時点でponanza判断は豊島七段の評価値568。豊島七段が考慮中のまま12時となり、昼食休憩に入る。残りの持ち時間は豊島七段が4時間32分、YSSが3時間35分。

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↑恒例の昼食何にしたかは、海鮮丼でした。

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↑電王手くんにもしものことがあったら代打ちする折田翔吾三段が控え室に。

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↑第四戦の対局者である森下卓九段も控え室に登場。

 12時半ぐらいから豊島七段は対局室に入り考えている。対局再開し、すぐに▲3九金と指す。小籔さんの株が一気に上がった。

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↑天空で対局しているかのような風景。

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↑昼時点のYSSの画面。いままでとは見ている画面が違っていた。

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↑YSSの開発者山下宏氏。終始この体勢だったようだ。

 現地レポートでは糸谷哲郎六段が登場

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「YSSの△6二金が違和感のある手で、対して豊島七段の▲2一角が機敏な攻めという印象ですね。おそらく事前研究がだいぶ進んでいた局面だと思います」

 香川女流王将にイベントの告知を振られて、ちょっとタジタジ気味でした。

続いて電王手くんの開発陣が登場。

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↑左からデンソーウェーブ・澤田氏、マックシステムズ・岡田氏、松浦電弘社・北野氏、ポッカマシン・伊藤氏。

――各担当者をご紹介ください
澤田氏
「デンソーウェーブが全体の構想からレイアウト設計、ロボットのプログラムを担当しました」
岡田氏「主にソフトウェア、特に将棋ソフトとのやりとり、ロボットとのやりとり、そして全体のハードウエア、ロボットを含めたテストを担当しています」
北野氏「うちは画像処理ですね。画像でコマを取るシステムを開発しています」
伊藤氏「目に見えるもの、機械ですね。ロボットアームの先端に付いているものですとか、ロボットの架台の設計、制作、組付けまでやらせていただきました」

――この話がきたときはいかがでしたか?
岡田氏
「弊社が一番最初に相談をされたのですが、時期的には1月中旬ぐらいにお話をいただき、今回対局が3月ということで、まず時間がないということ。さらに将棋用のロボットということと、すべて場所を移動するということで、ほとんどが初めての経験でした。ですので最初はちょっと無理なんじゃないかというのが正直なところでした。でも澤田さんからお話をいろいろと聞くうちに、やってみようかなと思うようになりました」
北野氏「うちはカメラで補正するということなので、まずそれができるかどうか。それからカメラとレンズを選んで、距離を決め、それがうまく撮れるかどうか。精度も要求されるので、やってみてできると判断したので受けました」
伊藤氏「機械の設計なので、将棋を指すにあたって、本来人間なら手でやるところをロボットでやるわけなので、ひょっとして手をつくらなければならないのか、とかいろいろ想像してしまってすごく不安だった」

――始めてみてどうでしたか?
澤田氏
「まず将棋盤をいただいて、それを松浦電弘社さんへ将棋盤と駒を送って、まず画像認識できることを確認したので、気が楽になりました。また駒をポッカマシンに送って、駒をつかめるかどうかを同時に進めてました。2月中旬ぐらいには行けるかなと思いました」

――実際に指しているところを見て感想は?
澤田氏
「一手一手ほんとに緊張しますね。止まっちゃったらとか、センサーが仕掛けてあり棋士の頭が入ると止まるのですが、続きから動くのか不安だったり、ほんとに毎週辛いですね」

――会社での反応は?
北野氏「うちは変わったものをやることが多く、会社へ行くと電王手くん止まってねとか言われて。でも一番うれしかったのは、息子がこんなことやっていたのとか言われると、認めてもらった感じでうれしかったですね」

――短期間で完成させた秘訣は?
岡田氏
「複数の会社で実現したことですが、それぞれの会社が自分たちの持ち分を全うすることが完成の近道だと思います。また、それぞれの関わった人たちが、自分たち以外の人たちを信頼していることが、失敗せずにここまでやってこれた要因だと思います」

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↑ユーザーが描いた電王手ちゃんのイメージ図が登場。高度な教育というのがデンソーっぽいとか。

 今回、動作を早くしようと、チューンナップしていることがわかった。従来は、駒台にスイッチがあったのだが、これをなくし、ロボットアームの位置を判断することにして代用するよう、プログラムを組み直している。

 その後△1九竜、▲2九金打ち、△同竜、▲同金、△1三歩と進み、評価値は豊島七段の990にまで上がる。終盤なら価値を意識していいぐらいの差だ。

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↑この時間で評価値の差は800以上に。

 ここで豊島七段は初めてといっていいほどの長考に入る。14時過ぎに▲1竜と引いたのだが、評価値は800台に若干落ちた。しかし、このあと52手目の△1四金打ちがこれまでにない悪手。谷川会長がちょうどインタビューを受けていたが、この手を見て「コンピューターがこのような手はは久しぶりに見たという感じがしますね」と固まっていた。一気にponanzaの評価値が2000を超えた。

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↑現地からの中継では、香川女流大将が控室にいる斎藤慎太郎五段や宮本広志四段、千田翔太四段に形勢判断をしてもらっていました。

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↑YSSの手に固まってしまった谷川会長。谷川会長は朝はニコ生で観戦していたら、展開が早そうだったので、早めに来たとのこと。

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↑船江五段は「前回私は出されてもらったので、他の人がかけない観戦記をかけたらと思っています。△1四金でさすがにこの将棋は豊島七段が勝てると思います」

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↑その後、現地レポートに浦野真彦八段が登場。おやつ休憩は今回プレミアムマカロンとどら焼きだったのだが、どら焼きは残念ながら控室では配られなかった。

 このあとは、差は広がる一方で69手目▲4二竜上の時点で評価値は3000超え。残り時間はYSS2時間、豊島七段が3時間のときに豊島七段は上着を着た。終局間近だと感じたからだろうか。
 今日の対局は、最初から豊島七段がリードを奪っていたので、控室は終始和やかなムード。ただ、山本氏や一丸氏、竹内氏といった開発陣が来ていないため、それぞれのソフトでの読み筋が見られない状況だった。
 そして16時41分に投了となった。大盤解説では「びっくりの投了でしたね」とのこと。後手に勝ち目はないと思われるが、まだ詰みは見えない状態だった。

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↑豊島七段はすでに飛車角4枚持っており、終局も間近とささやかれ始めていた。

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↑投了したときの電王手くんは、手をつく仕草をした後お辞儀をしていました。

終局直後のインタビュー

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――待望の棋士側が一勝を挙げました。まずはご感想を。
豊島七段
「そうですね、プレッシャーがかかっていたので勝ててホッとしています」

――横歩取りでしたが作戦通りだったでしょうか?
豊島七段「なる可能性は30%ぐらいかなと思っていた」

――ほかの戦型になる確率は?
豊島七段
「2手目の時点で△8四歩か△3四歩が多く、だいたい1:2の割合だったので、少ない方の手順でしたね」

――22手目△6二玉は、控室ではとがめる手と評判でしたが、どう思われましたか?
豊島七段
「練習ではいちばん多く出ていた手ですね。もちろんほかの手も出ていましたが」

――どの程度まで想定内の局面だったのか?
豊島七段
「25手目▲2一角のあとの△3一銀が珍しい手でした。△4四角がほとんどだったので、△3一銀はそこまで深く研究していた手ではなかったです」

――序盤は手が早かった印象だったのですが。
豊島七段
「銀を引かれたら、こちらの手はこうやるしかないという手が続いたので、あまり予想はしていなかったが、時間を残そうと思っていたので、とりあえず指して相手の手を見てから考えようと思いました」

――どのくらい練習対局をしたのでしょうか?
豊島七段
「3月に入ってからは、研究会の日以外は1日の時間のほとんどをソフトと指していた。研究会は週1回で、対局も週1回ぐらいあって、それ以外の日はやってました。時間でいうと10時間ぐらいですね。数えていないのですが、1000局まではいかないまでも3桁台だとは思います。序盤だけ指して途中でやめることもあり、そういうのを合わせれば多かったと思います」

――団体戦としてみたら、1勝返して1勝2敗となりましたが、団体戦の星についてはいかがですか?
豊島七段
「人間側が1回も勝っていない状況だったので、勝ちたいという気持ちが強かったです」

――プレッシャーもあるとおっしゃってましたが、どういうふうに克服したのでしょう。
豊島七段
「克服というかプレッシャーはあったんですけど、残り10日くらいになったときに持ち時間5時間で3局やって、たまたま全て勝ったので、気持ちが楽になった」

――残り二人の棋士になにかコメントを
豊島七段
「普段と違う環境で自分の力を発揮するのは難しいと思いますが、全力を出せるようにしてほしい」

――電王手くんとの対局はいかがでしたか?
「やりにくさは特になくて、人間と指すのと変わらなかった」

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――残念ながら敗戦となりましたがどうでしたか。
YSS開発者・山下氏
「相手が豊島七段だったので、始まる前から厳しい戦いだろうと予想していました。YSSの定跡が終わった瞬間に豊島七段が立たれたので、これは勝てないかもしれないと思いました」

――今回は横歩取りでしたが、本局を振り返っていかがでしたか?
山下氏
「本局は一度も評価値がプラスにならなかったのが印象的でした。あと52手目の△1四金と指してしまったあと、急激に評価値が下がってしまった。地平線効果の定理で▲7九とに△6五桂と受けてそのあと跳ねると読んでいたみたいで、どんどん評価値が下がっていってしまった」

――団体戦について、ソフト側が2連勝で勝てばソフト側の勝ち越しでしたがその点はいかがでしょう。
山下氏
「立場としては気楽だったんですが、ここで勝ち越しを決めたいと思っていましたが負けてしまい残念でした」

――残り2試合の開発者へメッセージを。
山下氏
「いい将棋になってくれればと思います」

 ここで、船江五段が質問をした。

――不安な局面はどのあたりでしたか?
豊島七段
「32手目△4四角と打たずに△4五桂と跳ねて、▲1一竜△2四飛とやられて▲1三竜△2九飛成り▲1四竜△3八角でそれで負けてしまったら悔しかった。△4四角打ち▲1一竜のあと△4五桂と跳ねる将棋は1度指したことがあって、それは先手が良かったので。昼食休憩前の40手目△8八歩を△1九竜とされたら難しいかと思ったが、こちらが悪いことにはないだろうと思っていました」

――休憩以降は割と自分のペースで?
豊島七段
「そうですね。竜が取れていいのだろうと思っていました」

――YSSとたくさん指されたようですが、豊島七段が変わったところはありますか?
豊島七段
「中終盤をすごく重視するようになった」

――逆転負けが練習で多かった。
豊島七段
「そうですね」

――第4回があれば出場したいですか?
豊島七段
「ソフトと指してみたい気持ちはありますが、どうなるかわからない」
山下氏「機会があればやりたいです」

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↑終局後のYSSの画面。テキストに読んだ局面を出力して確認していました。

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↑遠く海の方まで見える。夕方に終局を迎えるのはちょっと予想外でした。

終局後の記者会見

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豊島将之七段
「ふだんの対局とは違う緊張感のある中での対局だったので、いまは終わってホッとしています。YSSを4ヵ月ほど前から貸し出していただき、練習させていただいていくうちに、自分がいい方向へ変わっているような実感があったので、YSSの作者の山下さんに感謝しています。また、このような場を設けていただいたドランゴを始め主催者の方々に感謝しています」

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YSS開発者・山下宏氏
「今日は対局は負けはしましたが、ソフトもハードも最後まで無事に動いてくれたのでホッとしています。豊島さんに何度も練習していただき、少しでもお役に立てたのであれば、うれしく思います。このような素晴らしい対局場を設定していただきたドワンゴさん、日本将棋連盟さんスポンサーの方々に感謝いたします」

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立会人・井上慶太九段
「立会人というのは、本来公平な立場でいなくてはいけないのですが、今日は棋士の立場として何としてでも豊島七段に勝ってもらえたらなと思っておりました。本局は序盤から激しい戦いで、YSSの思考に対しても豊島七段が想定していたということに驚きました。本局を振り返って、豊島七段がほんとにプレッシャーのかかる中、いい対局だったと思いますが、それに負けず堂々と戦われて立派な勝利だったと思います。また、いろいろな想定をされていて、広くまた浅くならず深く研究されていたことに感服しました。今回はYSSのちからはこんなものではないと思いますが、力を出させなかったのが勝因だと思います。私、画面を見ていまして、山下さんも今回終始、対局姿勢というか操作姿勢が立派といいますが、美しい姿勢だったので感服いたしました」

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日本将棋連盟・谷川浩司会長
「まずはYSS開発者の山下さん、対局者の豊島七段はお疲れさまでした。また関係者の皆さんもありがとうございました。主催のドワンゴさんご協賛の皆様にも厚く御礼申し上げます。本日は午前中はニコ生を見ていましたが、横歩取りから△6二玉というYSSの一手ですが、コンピューターはときどき指しているようですけど、私は初めて見た手で、指されてみると、まぁ一理ある指し方だと思い、将棋もまだまだいろんな指し方があるのだなと感じました。それに対して豊島七段が角を交換して▲2一角と打ったのですが、この手に関しては成立しているのかどうかは微妙で、精査してみないとわからないと思います。本局では、非常に積極性があって功を奏したのですが、豊島七段ほどのトップ棋士でもきちんと準備研究をして、本局のような踏み込んでいかないと勝てないぐらい、コンピューターのレベルは上がっていると改めて感じました。2連敗のあとの勝利で、私の立場としてはホッとしているというのが正直なところです。今日の将棋はコンピューター側に残念な手がありまして、山下さんも豊島七段も同じ思いで、またご覧のファンの方々も同様だったかと思います。これを機会に、開発者の皆様方には、より強いソフトの開発をしていだければと思います」

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森下卓九段
「豊島七段が深く研究されていることに非常に驚きました。またYSS開発者の山下さんとしましては、本来のソフトの力を発揮できなかったことが、残念だったと思います。豊島七段の研究の深さを褒めるべきではないでしょうか。私も第四局で対局しますが、昨年の秋口からソフトをお借りし、対コンピューターの研究というより、自分自身の将棋トレーニングとして大いに活用させていただきいしての、ここ数年来では内容も結果も一番良いので、トレーニングさせてもらったなというのが正直な気持ちです。対コンピューターとの戦いは、今日の豊島七段のような作戦もないので、結局力と力の戦いでやっていくしかないかなと思っております。作戦もいろいろとアドバイスを受けたりしていますが、なかなかうまく行かないので、ミスやポカが出ないよう一生懸命頑張っていきます」

質疑応答

――人間2連敗で回ってきましたが。
豊島七段「一番プレッシャーのかかる状態で回ってきたなと思いました」

――どんなふうにプレッシャーを乗り越えたのか。
豊島七段
「結局、自分がわからないところに最後は踏み込んで行かなければならないと思っていました。仕掛けた手もはっきり自分がよいとは思っていなかった。ほかの棋士の方々が、自分がすごく研究をしていてと言われていましたが、確かに▲2一確の局面はたくさん指し、研究しましたが、その次の手で△3一銀と引かれてその時点で一度しか指したことのない手順だった。さらに△9九角成りの時点で一度も指したことのない手だった。自分しか知らない情報だと思うので言っておきます」

――全体を振り返ってどうだったか。
豊島七段
「私の方は序盤・中盤・終盤とミスなくさせたと思います。わからないところもありましたが、踏み込みよく指せたのではないか。46手目△1三歩と打たれ▲1五竜から▲4二飛と指したところとか、もっとゆっくり指す手もあったのですが、いちばん強く指したいところで、その通り指せたと思います」

――△1四金と指されたあと席を立たれましたが。
豊島七段
「それまでもこちらが有利だとは思っていたのですが、まだはっきりとはわかっていなくて、△1四金の代わりに△7九と▲6五桂としたとき、こちらの方がいいとは思っていた。ただ、後手にほかにいい手があればガラッと形勢が変わる局面でもあったのでちょっと不安もあった。ただ△1四金を見たときはっきり勝ちだと思いました。あと一直線で踏み込んで行って、ぎりぎりのところですがこちらが勝ちになっている局面だと、コンピューターはほかの手を指してしまうことが、練習中もよくあったので、そういう状態なのかなと思いました」

――これまでの対局はコンピューターが強いと感じたのですが、今回は棋士側が快勝できたのはなぜか。
豊島七段「練習しているときは何回もコンピューターが力を発揮する将棋があって、何回も負けています。たくさん指していくうちに、自分の勝てるようなパターンというか、ハッキリとではないですが、序盤がものすごく長い将棋か、中盤を通り越してすぐ終盤に持ち込む将棋が勝てる可能性が高いのかなと思っていて。本局では△3一銀と指したことのない展開になったものの、一気に中盤を通り越して終盤に持ち込めたので、自分が勝つ可能性があるパターンになっているのかなと思って指していました」

――YSSと指していい方向に向かったのはどのあたりが。
豊島七段
「これまでは序盤でいろいろ細かいことを気にして指していて、それはそれでよいかもしれませんが、YSSを始めコンピューターは中盤が強いと感じていて、中終盤でうまく指されることが多かったので、序盤よりも中終盤でうまく指せば勝てるゲームでもあるので、今までより中終盤を重視するようになった。また中終盤で指していく上で、自分は形にこだわりすぎていた部分がままあり、形にとらわれない手を指せるようになってきたかなと思います」

――どんな棋士がコンピューター相手に向いているのか。
豊島七段
「コンピューターの特徴をつかむことは大切だと思います。自分は攻め将棋ですが、受けが強い人も向いていると思います。結構先に攻めてくるソフトが多いので」

――最後、投了はどのように判断したのでしょうか?
山下氏
「今回の投了は作者判断でさせていただきました。最後の10手ほどは-3000以上で、いつ投げてもおかしくなかったのですが、最後どれがキレイな投了図かなと判断して決めました」

――棋士側2連敗で迎えた本局はどんな心境でしたか。
谷川会長
「豊島七段は将来のタイトル候補だと思っていますので、大変な状況の中で力を出し切って、踏み込んで、決断をして勝ち切ってくれたと思います。自分が指しているかのような心境で、コンピューターの中終盤の強さというのはよくわかっていますから、どんなに優勢になってもなかなか安心できないという感じで見ていました」

――人間の能力にまだ勝てない部分は感じましたか?
山下氏
「今日のの対局で、豊島七段がYSSの読み筋と違う手を指すことが多くて、読み筋から外れたからその瞬間は評価値が上がるのですが、すぐに元に戻り、さらに下がっていってしまう。それを見ていると(棋士の)大局観と(コンピューターの)読みの力とで、読み負けていた気がしました」

――今後への課題は見つかりましたか?
山下氏
「序盤△6二玉と指してしまうあたりは、プロの棋譜をまだしっかり学習していない点なので、修正する必要がある」

――それを修正するのは難しいものなのか。
山下氏
「そうですね、評価する項目が少なすぎるからだと思います。単純な評価だと簡単に美濃囲いができるから判断してしまうから寄ってしまうのですが、評価する要素がいろいろあれば、たとえば中座りにするなどができるかと思います」

――△1四金についてはいかがでしょう。
山下氏
「ログをざっと見た感じですが、△1四金の一手では-700ぐらいの評価で、次の手で-1700に、さらに次の手で-2500ほどになったため、1000単位で評価値が下がることはめったにないので、すごい悪い変化があってそれを嫌がって嫌がってその場しのぎで指してしまったのかと思います。コンピューター用語で地平線効果とか水平線効果とかいわれることで、自分の嫌なことを地平線の先へ追いやってしまう手なんです」

――解決するには難しいのでしょうか?
山下氏
「読みの深いところで起こっている問題なので、よみを深くしていけば解決するとは思いますが、簡単には解決しないのではないかと思います」

――電王手くんの印象はいかがでしょう。
豊島七段「もうちょっと気になるかと思いましたが、意外と気にならず普通に指せました」
山下氏「実際に電王手くんを動かしているスポンサーの方々の作業を見せていただいたのですが、将棋の駒をあんなに器用に動かして正確にコントロールできるできるのはスゴイと思いました。また安全計算もしっかりされていて、日本のロボット技術の最先端はすばらしいと感じました。それを間近で見ると迫力もあり、光栄でした」

――対局時と練習時とでソフトの性能が変わるようなことがあったらどういう戦いにしてましたか?
豊島七段
「本局のような一気に激しくなるような戦いにするのではなく、序盤を長くして点差を築く戦いにしたと思います。勝率は貸し出ししていただいたことによって、かなり上がったかと思います」

――事前研究を防ぐような手段として何か考えられますか?
山下氏
「豊島七段の棋譜をたくさん集めて、苦手な戦型に持ち込めるような調整はしたかと思います」

――あべのハルカスで対局した印象は?
豊島七段
「前日から泊まらせていただいて、眺めもよく日常とは違う世界だったので、楽しくさせたと思います」

将棋電王戦第三局レポート

 ということで、これまでのようなどんよりした雰囲気ではなく、会見も控室も終始和やかなムード。今回の結果は豊島七段の研究熱心さの賜物といえよう。
 すべてのソフトに対して同じとは言えないが、序盤にあまり時間を使わないように指して、一気に終盤へもっていく戦法は、一歩間違えばトン死する可能性はあるものの、人間側が勝つ可能性として残された一筋の光なのではなかろうか。もちろん、今回のようにノータイムで指し続けるには、相当な研究が必要だと思うが、中終盤をしっかり読むためにも、持ち時間を出来る限り消費したくない。豊島七段は、もし事前研究と違うバージョンのソフトなら、序盤をゆっくり指して差を広げるとおっしゃっていたが、これは攻められてしっかり守っていく展開ならまだしも、第二局のようになかなか駒が当たらない展開でズルズルと時間が消費されていってしまうと、なかなか難しいのではないだろうか。
 また、今後は人間だとあまり指さないコンピューターの指し手で有効なものは積極的に取り入れる勉強が必要になってくるだろう。人間では読みきれない部分を“補完”することで、さらに強さを手に入れられると思う。それは対人でも対コンピューターにも有効だろう。

 次は小田原城銅門にて第四局、森下九段vs.ツツカナの対決だ。リベンジマッチでは船江五段も勝ったがそれよりは更に強くなっている。どんな戦いになるか注目だ。

 最後に対局室からの夜景を御覧ください。

将棋電王戦第三局レポート

↑55階からの夜景は絶景。なかなかこの部屋は泊まれないと思うので、展望室からどうぞ。

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↑夜のジャグジーも最高ですね。

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↑トイレもガラス張りでした。天空のトイレ。

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↑洗面所も同じです。

●関連サイト
『GALLERIA 電王戦』モデル
日本将棋連盟
第3回将棋電王戦のページ
将棋電王トーナメント

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