週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

3Dプリンターの本質は、モノを作ることが“ネットのパラダイム”にのることだ

 週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。

メディアの退蔵益-この半年でいちばんショックを受けたテレビの話

3Dプリンターの本質は、モノを作ることが“ネットのパラダイム”にのることだ

 ログをたどってみたら1年半くらい前から興味は持ち始めていた。いろんな事例が出そろってきたのでどんなことなのかまじめに考えてみた。

プリンターの本質は、モノを作ることが“ネットのパラダイム”にのることだ
↑どうです、この圧倒的なパフォーマンス!馬高遺跡(新潟県長岡市)で出土した火焔土器(写真:Chris 73 CC BY-SA)
プリンターの本質は、モノを作ることが“ネットのパラダイム”にのることだ
↑3Dプリンターの特徴とメリットをマッピングしてみると、いちばん楽しくて可能性があるのは“A”の部分だが、おそろしいのはネットのパラダイムが影響する“B”の部分。いま3Dプリンターの世界に必要なのはこの部分のための知見とノウハウと人材ではないか?

 はじめて3Dプリンターを見る人は、そのまだるっこしいスピードにがっかりするかもしれない。未来学者のレイ・カーツワイルは、10年以内に3Dプリンターの完全な商品は出てくると言ってるらしいから、いまの製品は'96年のエプソンPM-700Cみたいなものかもしれない。A4を1枚出力するのに何分もかかっていたが、あそこからあっという間に写真のインクジェット印刷が広がった。

 3Dプリンターでは、SF映画の空間伝送装置みたいにモノのかたちが下から現われてくるのはやはり感動する。私は、それと同時に小学生のときに見学した縄文式土器(火焔土器=写真)のことを思い出した。それまで、木や動物の骨を利用したり石などを削って器を作っていたのが、粘土をこねることでまったく自由な“カタチ”を作れるようになった。それにも似たダイナミックな創造性の転換が、3Dプリンターにはある。それは歴史的な時間スケールでとらえるべきものではないか?

 ということで、ご多分にもれず私もここ数ヵ月間3Dプリンターに興味津々で、千葉工大のY先生のところに使わせてくれないかと相談に行ったりしながら妄想をふくらませていた。いろんな事例を聞いて、3Dプリンターの利点を整理してみると図のようになった。火焔土器の例からすれば、身の回りの製品のデザインのグレードが変わると思う(図のAのあたり)。私が、3Dプリンターに興味を持ったのも誰かがデザインして作ったヘッドホンをネットで見たのがきっかけだった。

 しかし、たぶんオバマ大統領が一般教書演説でふれた3Dプリンターというのはここではないのかもしれない。私もそうなのだが、どうしても3Dプリンターでは“こんなモノが作れる”という発想になりがちである。そういう価値が、もちろん3Dプリンターにはあるしメカトロニクスや素材技術は日本の得意分野でもある。

 ところが、図で描いてみるとはっきりするのだが、3Dプリンターも、我々がまさにその渦中にいるネット革命の文脈の中にあるということだ。ネットやソフトウェアで言われていることが、今後は、モノ作りにもあてはまってくようになる。オープン、フリー、共有、ストア、GitHubのようなクリエイティブの仕組みもあるだろう。逆にハッキングや違法コピーという問題もふってくる。しかし、それによってなにもかもが身軽になって加速することになるだろう。それが、デジタルファブリケーションの本質で、そうした動きはすでに始まっている。企業にしろ個人にしろ道具として3Dプリンターが登場したというようなやわな話ではない。ライバルは、グーグルやアマゾンやフェイスブックだと考えたほうがよい。

【追記】
 この原稿を書いたあとDIGITAL CONTENT EXPO 2013で“日本は3Dプリンターで巻き返せるか!?”というセッションに参加させてもらった。紙面に載ったのはイベントのあとだったので、ちょっと補足を書かせてもらいます。

 一緒に登壇していただいたのは、原雄司さん(株式会社ケイズデザインラボ代表取締役)、小林茂さん(情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター准教授)、木村隼斗さん(経済産業省製造産業局素形材産業室室長補佐)。私だけが「ただの3Dプリンター好き」という感じでステージに上がったのだが、3Dプリンターをバシバシ使い込まれている方々の結論のひとつが“コミュニケーション”だったのに納得。

 それにしても、原さんが紹介された映画『パラノーマン ブライス・ホローの謎』で主人公の顔など膨大な数のパーツを3Dプリンターで出力して作ったという話は、DC EXPOの会場だけにみなさん食い入るように聞いていました。

プリンターの本質は、モノを作ることが“ネットのパラダイム”にのることだ
↑手前から原雄司さん、小林茂さん、木村隼斗さん、お世話になりました。

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

(2013年11月14日6時30分追記)記事初出時、記事タイトルに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう