コードアカデミー高等学校キックオフ・シンポジウムが2013年11月1日に行なわれた。コードアカデミー高等学校は“デジタルを学ぶ”、“デジタルで学ぶ”をコンセプトにしたコード教育を施す新しい普通科通信制高校。現在、設置認可申請中で、2014年4月に開校を予定している。1月から課題作文、成果物による入学試験を実施する。
キックオフ・シンポジウムではスーパーバイザーの松村太郎氏が登壇し、「『ギーク集まれ!』というメッセージを送りたい。コードを書ける人を育てる。読み書き算盤に加えて、コードが学びの中心となるようにしたい」とコードアカデミー設立への思いを語った。
コードアカデミーは普通科の通常教育に加えて、プログラミングの科目を履修できる。74単位のうち50単位は一般の科目、残りをコードのカリキュラムにあてる。プログラムのカリキュラムはオープンソースとして公開され、日本中の学校で利用できるよう整備される予定だ。また学校の予定や授業などには『Google Apps for Education』を利用して、時間割は『Googleカレンダー』、日々の連絡は『Gメール』、授業は『Google+』、『YouTube』、課題提出は『Googleドライブ』が利用される。定員は80名の予定だ。
松村氏は、Googleのクラウドサービスを使えば今までの通信制ではできなかった対面の授業も可能になるとし、LINEやニコニコ動画など若者が使っているアプリや文化を学習に生かしたいとしている。たとえば初音ミクを使った音楽の時間、技術の時間は3Dプリンターやレーザーカッターで使えるデータの作成、家庭科ではクックパッドのレシピを10本作成するなどできればと考えているという。
デジタルを学びに変えるには評価もクリエイティブにし、デジタルで学ぶ必要がある。自分が学ぶことが社会貢献になり、コードを書ける人が増えることが社会の価値になる。そういう考えで学んで、社会貢献になるんだという意識をもってもらいたいとデジタル時代の生徒、教育像を考えている。
基調講演には慶應義塾大学の中村伊知哉氏が登場し、世界のデジタル教育の現状を紹介。ウルグアイはすべての子供たちが100ドルPCを4年前に、インドは35ドルのタブレットを教育目的で開発中。韓国は授業に必要なものがクラウドにあり、自分の端末を何でも持ってきていいようにしようと進めているという。日本も2020年までに、すべての生徒に端末をとしているが、それでは遅い提言。
ただ、そう踏まえたうえで日本の高校生たちはすでに何年も前から、フィーチャーフォンでメールのやりとりをして世界の人を驚かせていた。すでにブログやSNSなどモバイルのデジタル発信量は世界平均の5倍、世界でも断トツの数値だという。アドビが世界の人に世界で一番クリエイティブな国を聞いたところ、日本が米国を押さえてトップ。これが逆に、日本人に自分たちはクリエイティブな国かと聞くと、とたんにビリになってしまうという。この意識を変えていかないと世界は動いていかないと語る。
世界のデジタル教育は進んでしまったが、日本のデジタルの浸透率は高く、コードアカデミーはその先を行ってくれる。デジタルが良いか悪いかの議論は終わったとし、ここから日本のデジタル教育の歩みは早くなっていくとした。
基調講演に続き、コードアカデミーのインフラ周りはGoogleのクラウドサービスを使うことで、Googleのアジア太平洋地域の教育分野を担当するEducation Specialistの菊池裕史氏が登場。コンシューマー向けにつくられているGoogleサービスを、組織のプラットフォームとして使う“Google Apps”はコラボレーションの要求も多く、エンタープライズ向けの対応も多いという。
これは教育の部門も同様にあり、たとえば教育機関に『Chromebook』を渡して、教員への支援指導なども行なっている。たとえばマレーシアでは1万の公立学校内で子供たちがChromebookをもち使っている。先生、生徒の間のGメールやハングアウトでコミュニケーションをとっていると説明。
コードアカデミーでも、フォームのアンケート機能で小テストを作成し、遠方の生徒でもURLを送ることでテストを受けられるようにする。教師側も、解答をスプレッドシートで集められ評価や確認もやりやすい。時間割もGoogleカレンダーで共有する。もともと、これらのAppsはGoogleのエンジニアたちが使っているもので、これから学ぶプログラマーが使う環境として適しているとした。
コードのカリキュラムを作成するのはフリマアプリ『メルカリ』のエンジニア大庭慎一郎氏だ。9歳のころにMSXを買ってもらってプログラミングを覚えた。そのころからPCやプログラミングを教えるのが好きで、初めての生徒は祖父だったという。
まず“コード脳”という物事の見方があり、それを徹底的に鍛えたいという。コード脳は問題を適切なサイズに分解する能力、間違うことをためらわず間違いを直せる能力。途中、問題があっても直せる能力が必要という。プログラミングは特殊な技能でなく、読み書きそろばんの能力と同じ。また、コード脳を高めればひとつのプラグラミング言語にとらわれない力がつく。どんな言語でも本質を理解してコードを書くことができるような教育を行ないたいとする。
そのうえで、1年目はコード脳を鍛え、その後に実践的な言語を教えるという。その1年目、最初に学習に使う言語は『Sunaba』という聞きなれない言語だ。プログラマー人生の最初の100時間を過ごすための言語といわれ、低機能、低抽象度でごまかしが効かないのが特徴。日本語と、壁にならないレベルの簡単な英語でも実装できる。仕様はたったの2ページしかないが、変数も書き込め、なぜ必要か、必要性を感じながら学習させることができる言語だという。
1年目はパズルゲームをつくることを目標に、2年目はオブジェクト指向、3年目は要求仕様から実装までひととおり体験。ウェブやAndroid、iOSなどの環境も選択でき、複数人でチームを組むようなことも考えているという。また学校だけの体験にとどまらずに、インターンや、在学中のアプリのリリースの支援なども行なっていくという。
今は早期からのプログラム教育やICT教育も注目されているだけに、普通科の高校にプログラム教育がはじまれば、それは大きな一歩になりそうだ。まだ認可申請中の段階だが、プログラム教育のすそ野が広がっていってほしい。
■関連サイト
コードアカデミー高等学校(※設置認可申請中)
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