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ジョブズなきAppleの2年を振り返って|Mac

2013年10月05日 15時00分更新

 Appleの前CEOだったスティーブ・ジョブズが亡くなって2年。かつての新鮮味はやや薄れたとは言え、新型iPhoneの話題はマスコミを賑わし、週刊アスキーPLUSでも「iWatch」や「iTV」の噂は積極的に採り上げられている。

 業界周辺に目を向けても、古今東西の偉人の生涯を小・中学生向けにわかりやすく紹介してきた小学館版「学習まんが人物館シリーズ」の最新刊「コンピュータとiPhoneで世界を変えた天才起業家」(監修と解説文を筆者が担当)が10月30日に刊行予定であり、その2日後の11月1日には、アシュトン・カッチャー主演の映画「Steve Jobs」が日本でも封切られるなど、ジョブズの人物像は今になって生前よりも多くの人々の知るところとなりつつある。

【Thanks a lot, Steve. 追悼スティーブ・ジョブズ】超・経営者 スティーブ・ジョブズ

映画「Steve Jobs」

映画スティーブ・ジョブズ
©2013 The Jobs Film,LLC.

 一方で、ジョブズがその種類を厳選し、アップルの快進撃を支えてきた製品群は、クック体制になってから徐々に拡大路線に転じている。ジョブズ自身は、画面の小さなiPadの発売に消極的であったし、iPhoneラインのエントリー機となるiPhone5cにしても、選択肢を減らすことで消費者を迷わせない販売戦略を採っていた彼が存命ならば、ゴーサインを出したかどうか…。

すべてのサイズをiPadで――といったようなメッセージとともにiPad miniは発表された

iPad mini
iPad mini

一度に2種類のiPhoneが発表されるのは異例だった

ジョブズ三回忌

 しかし、現実にはiPad miniの成功によってAppleは、メディアタブレット市場における存在感を7~8インチクラスでも発揮することができ、iPhone5cは発売当初こそ5sに比べて伸び悩んだものの、たとえばアメリカ国内では9月末の1週間の販売比が3.4から2.9へと縮まる(Localystics調べによる、5s/5cの比率)など、全体としてユーザー層の拡大に貢献し始めている。そもそもハイエンドユーザーは発売当初に上位モデルを購入する傾向にあり、それが一段落した後で、本来の売れ行きが見えてくると考えて良いだろう。
 様々な思惑に左右されがちな株価はともかく、成熟期にある製品群を擁する企業としてのアップルの実質的な業績は、決して悪いものではない。その意味で、現CEOのティム・クックは、ジョブズの後継者としてのこの2年間を巧みに舵を切り、よく乗り切ってきたと言える。

ジョブズ三回忌

 思えば、1985年に若きジョブズがAppleを辞めさせられず、逆にジョン・スカリーの追放に成功していたら、果たして同社が次の10年間を生き延びられたかはわからない。当時の彼の理想主義的なモノ作りが、今よりもはるかに未成熟で、パーソナルコンピュータ以外の電子機器がほとんど存在しなかった市場で広く受け入れられたかどうか、疑問だからだ。

 同様に、ジョブズが元気なまま、2年前に一度頂点まで登り詰めたAppleを支配し続けていたとすると、製品ラインアップは現在と異なり、市場と噛み合ない部分も出てきていたかもしれない(もちろん、iWatchやiTVが既にリリースされていた可能性もある)。

 だが、同社にとって新たな展開に思えるiPad miniもiPhone5cも、ジョブズが敷いた線路の上を走っていることには変わりがない。したがって、Appleに本当の正念場が訪れるのは、(コンセプト作りの段階で彼がタッチしたかもしれないが)市場自体を、クック以下、現在のエグゼクティブチームがゼロから開拓することになる「スペシャルプロジェクト」部門の成果物が、実際に世に送り出されるときのことになろう。

 ジョブズは、亡くなる前にクックに対して今後のAppleの経営に関するアドバイスを行い、様々な決定を行う際には、スティーブだったらどうするかではなく、その時々でクック自身がベストと思える決断を下すことを求めた。

 先のラインアップの拡充はもちろん、ジョブズがiPhone部門を任せて可愛がっていたスコット・フォーストールを事実上更迭したことを考えても、この2年間のクックは、その教えを忠実に守ってきたことが伺える。

本当のフォーストールの最後の雄姿
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 もしジョブズが今のAppleを見たら、異を唱えたいところも少なからずあるだろう。だが、それこそ彼自身がクックに期待した部分であり、最期にそれを許して逝ったことが、ジョブズの偉大さを、今、改めて感じさせるのだ。

●Localysticsの記事(外部サイト・英語

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