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【私のハマった3冊】誰かの死を食べて人は生きている 食をとおして考える“生”と“死”

2013年09月07日 14時00分更新

945BOOK

死を食べる
著 宮崎学
偕成社
1890円

世界屠畜紀行
著 内澤旬子
角川文庫
900円

銀の匙 3
著 荒川弘
小学館
440円

 問題。読み方が一番多い漢字は? 答えは“生”、私の知る限り35通りある(人名・地名まで含めると150種余りあるらしい)。一方、読み方が一つしかない漢字は“死”だ。生とは即ち可能性であり多様性であり、死とは動かない状態であること───我が子が「生きるって何? 死ってどういうこと?」と問いかけたら、こう答えるつもりだった。しかし、この三冊で生死の定義が大いに変わった。

『死を食べる』は、動物の死の直後から土に還るまでを定点観測した写真集。キツネの死骸に蝿が群がり、蛆が湧き、その蛆を食べるための獣が訪れる様子が順に展開される。いわば九相図の動物版で、どんな死も、誰かが食べてしまうということがわかる。クジラから蛙まで、さまざまな死の変化を並べることで、“死とは、誰かに食べられる存在になること”、そして“生とは、誰かの死を食べること”という結論に達する。

『世界屠畜紀行』は屠畜現場を取材したイラストルポ。鶏や豚や牛の“死”が、人の食べる“肉”になるまでの営みを知ることができる。パックに入った精肉からは想像するのが難しい“死”そのものを食べて、人は生きていることがわかる。これを残酷だと感じる人もいるかもしれない。だが、命を奪って人は生きているという事実は変わらない。動物であれ植物であれ、食の数だけ死があるのだ。

『銀の匙』の主人公は、このテーマに煩悶する。酪農高校の実習で子豚の世話をするのだが、愛情込めて育てた豚は、いずれ屠殺される運命にある。特に目をかける子豚に“名前を付けてかわいがる”という禁じ手までやってしまい、案の定、情が移ってしまう。その成長を望み、健やかなることを願うことは、翻って殺される日を近づけることになる。答えを保留しても、豚は待ってくれない。いよいよ出荷される日、彼の下した結論が素晴らしい。未読の方は是非、既読の方は3巻から再読しよう。

 

Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。

※本記事は週刊アスキー9/17号(9月3日発売)の記事を転載したものです。

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