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iPhoneとドコモと特許戦争

 週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。なお本記事は、3ヵ月前の週刊アスキー6/4号に掲載されたものです。

メディアの退蔵益-この半年でいちばんショックを受けたテレビの話

iPhoneとドコモと特許戦争

 2013年の世界のスマホ出荷予想は約10億台。山の天候のように変化するこの業界、裏側ではまったく逆のことが起きているかもしれないが。

iPhoneとドコモと特許戦争

データ:角川アスキー総合研究所"メディア&コンテンツ・サーベイ 2013"調査時期2013年1月末~2月初旬

 日本最初のコンピューターが動いた1956年には、米国はもちろん、欧州の西側諸国を中心に、イスラエル、チェコスロバキア、オーストリア、ソ連でもコンピューターが完成していた。ところが、このコンピューター産業、1980年頃までに、米国以外では日本だけが生き残ることになる。その理由のひとつが、通産省によるIBMとの特許交渉(日本企業に利用を認めさせる)だとされる。

 私は、担当者の平松守彦さんにインタビューしたことがあるのだが、1960年の交渉では外資法が日本側のカードだったが、1970年の交渉では、旧電電公社の特許による技術が交換条件となった。

 スマートフォンが世界中で売れているが、主要プレーヤー間の特許戦争が熾烈さを増している。1960年代に汎用コンピューターで起きたのと同じことが、2010年代のモバイルで起きていると言える。昨年、グーグルが突如としてモトローラを買収したのは、携帯電話の盟主モトローラが所有する1万7000件の特許が目的だとされる。アップルとマイクロソフトが手を組んで、ノーテルが所有していた4000件の特許を管理する会社を設立、グーグルに対抗している。

 そんななか、昨年から業界で言われているのが、アップルが、iPhoneをNTTドコモに提供する見返りとして、NTTグループの特許を使わせることが条件になっているという話だ。正直なところ、ドコモとアップルの交渉は当事者同士の話なので、その真相のほどはさだかではないが、特許がコンピューターの歴史に与えた影響を考えるとありえる話ではなかろうか。

 2012年度のMNPの転入出状況では、ドコモだけが141万300件の転出超過となった。その主な原因は、iPhoneの有無と考えるのが妥当だろう(ソフトバンクやauにほかの部分で大きな差別化がないからだ)。それでは、ドコモ契約者はどれほどiPhoneを欲しがっているのか? 角川アスキー総研の1万人調査“メディア&コンテンツ・サーベイ”で数値をはじき出してみた。

 図1は、キャリア別に1、2年以内に購入したいモバイルを聞いたものだが、ドコモ契約者の6.4%がiPhoneをほしがっている。他キャリアより数値は小さいが、ユーザー数を加味するとauとは数で逆転しそうだ。また、ドコモにiPhoneがないためにAndroidと答えた人もいるだろう(すでにMNPした人はこのなかには含まれていない)。図2は、年代別の1、2年以内にiPhoneとAndroidスマートフォンを購入したい人の割り合いだ。過去のデータを見ると、実際にはAndroidの購入者が倍近くにもなるが、欲しいと意識している人のiPhoneの人気は見てのとおりだ。ちょっとしたマルコフ過程(マルコフ性を持つ確率過程)というか、日本市場の推移も気になる。しかし、これが冒頭で触れた特許利用がからんでのドコモのiPhoneという話になると、小さな島国のなかだけのモバイルに限定した話ではないのかもしれない。

(2013年9月4日追記)
 いまから3ヵ月以上前の5月発売号の“神は雲の中にあられる Vol.26”を再掲載してもらったが、この作業をしている間にも、2013年9月3日に、マイクロソフトが54億4000万ユーロ(約7150億円)でノキアの携帯電話事業を手に入れたというニュースが流れた。これの内訳は、買収額は37億9000万ユーロで、特許の使用料が16億5000万ユーロの合計額となっている。かつて世界の携帯電話の半数近くを売ったノキアの時代の終焉を象徴するようなできごとだが、今回のディールに占める割り合いを見ても、虎は死して皮を残すではないがノキアは特許を残した(今回も使用料をマイクロソフトに与えただけで今後も同社が特許を所有しており、他社へのライセンスも可能)。上記コラムのNTTドコモとアップルとのやり取りにおける特許に関する議論は、執筆当時、他メディアでもすでに報じられていたことだが、文中で“ありうる”という表現なのでお間違いのないよう。リードで書いたように、まったく逆にアップルがiPhoneを売りたがっている構図もある。とはいえ、ネットの世界は、モバイルやウェアラブルの先に向かって動きはじめていてアップルの危機感もそこにあるはずだ。1980年代までにドイツのZUSEをはじめ世界のコンピューター企業が消えた理由のひとつは、IBMが所有するコンピューターの特許だった。特許戦争が、今後、より大きなテーマになってくるのは明らかだ。

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

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