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【私のハマった3冊】1年に1回きっちり戦争を考える 戦場、シベリア、原爆を描く3冊

2013年08月31日 14時00分更新

944BOOK

漫画が語る戦争 戦場の挽歌
著 水木しげる、かわぐちかいじ、白土三平ほか
小学館クリエイティブ
1575円

凍りの掌
著 おざわ ゆき
小池書院
1300円

私は世界の破壊者となった
著 ジョナサン・フェッター-ヴォーム
イースト・プレス
1365円

 8月は戦争をふりかえる季節。「8月しかしないね」と皮肉られることもあるが、1年に1回きっちり戦争を考えることを70年近くやってきたのは、いい民族的伝統だと思う。というわけでマンガ3冊を紹介する。

 最初は『漫画が語る戦争 戦場の挽歌』。古谷三敏、楳図かずお、滝田ゆう……と有名漫画家の過去の短編を、“戦場”という視点で集めたアンソロジー。巻末の編者対談の中で、「視点も切り口もバラエティーに富んでいて、一気読みしました」(鈴木邦男)とあるように、戦争の語り方の多様性に目を見張る。中でも冒頭の水木しげる『敗走記』を推す。部隊が壊滅し、一人だけになった水木が断崖を越え、マラリヤ蚊に襲われ、原住民の追撃を逃れる。体験したものだけが描ける、奇妙な体験の連続と、緊迫感あふれる筆致。

 次は『凍りの掌』。太平洋戦争終結時に数十万の日本軍将兵がソ連の捕虜としてシベリアに連行され、数年間強制労働をさせられた“シベリア抑留”を描く。作者の父親の体験談である。本作で文化庁メディア芸術祭の新人賞を受賞している。零下30度での苛酷な労働、夏服のままの生活、凍傷で次々失われる指と仲間……この作品を手にして驚くのは、この悲惨を描くのに全然リアリズムタッチの絵柄ではないことだ。目は点、口は横棒1本で描かれた、まるで落書きのような(失礼)人物描写から、どのような凄みが産み出されるのかをぜひ味わってほしい。

 最後は『私は世界の破壊者となった』。科学者オッペンハイマーを中心に原爆の開発から投下までを描くドキュメント・コミック。原子力についての平易な解説をしつつ、どこが開発の上でネックになったかなどをロジカルに説明してくれる。零戦設計者の堀越二郎の半生を描いた宮崎駿の映画『風立ちぬ』が話題になっているが、本作も宮崎映画も“戦争の道具”を設計した人間を描いている。その違いを比較すると“面白い”だろう。

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー9/10号(8月27日発売)の記事を転載したものです。

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