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「enchantMOONで我々はコンピューターの会社になりました」発売イベントレポート

2013年07月09日 07時00分更新

 ユビキタスエンターテインメント(UEI)は、独自OSを搭載した手書きタブレット『enchantMOON』を7月7日に発売。これに合わせ、東京 五反田のゲンロンカフェでは、発売記念イベントが開催された。

enchantmoon発売イベント

 イベントでは、UEI社代表取締役社長兼CEO 清水亮氏が登壇し、『enchantMOON』開発の経緯や、込められた想いを熱弁。そのイベントの様子を詳しくリポートする。

■アポロ計画とMacintosh

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 満員の会場へ、蝶ネクタイにスーツとバッチリと決めた清水氏が現われた。壇上には布が掛けられた物体があり、恐らくこれが『enchantMOON』の量産機と思われるが、少しサイズが大きい……?

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 布の下から登場したのは、なんとアタッシュケース。中から、真っ赤なレザーケースに包まれた『enchantMOON』の量産機を取り出した。

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↑新宿キャットウォーク社が製造したレザーケース(6500円のノーマル仕様と、プラス500円でスタイラスペンホルダーが付くタイプがある)。

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 手にしているのは量産9号機。1号機はカリフォルニアのコンピューター歴史博物館に寄贈が予定されており、2号機は“コンピューターの父”とも呼ばれるアラン・ケイ氏に贈られることが決まっている。

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 また、3号機~10号機はコールセンターのユーザーサポート用に使われ、11号機から顧客のもとへと出荷されることとなる(これはアポロ11にちなんで、とのこと)。

 清水氏は、壇上に『enchantMOON』を置き、イヤホンケーブルを接続した。ポケットからスタイラスペンを取り出し、液晶画面に“MOON”の文字を書いたところ……イメージ映像が流れはじめる。

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 製品に動画の再生機能は載っていないはずなので、恐らくこの日のためにカスタマイズされたものだろう。映像では、ケネディ大統領が1961年に行った演説のアポロ計画に関する部分「We choose go to the moonというくだりが使われていた。

『enchantMOON』は、カーネル部分の名称にアポロ計画に使われた打ち上げロケットの名称『サターン5』が使われるなど、アポロ計画を連想される名称やイメージが多く使われている。これは、ソフトウェアメーカーがハードウェアを造る、しかもOSやマシンとしての概念そのものにも手を入れて作り出していこうという、清水氏のチャレンジ精神を示したものだ。

 ケネディ大統領の演説の一説にある“容易だからではなく、困難だからであり……”というアポロ計画のチャレンジ的精神を『enchantMOON』に注ぎ込もうという意思の表われとも言える。

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 映像の最後は『enchantMOON』のロゴと“LAUNCH TODAY”の文字。実はココのまでの流れ、1984年にスーティブ・ジョブズがMacintoshを発表した発表会と同じだということにお気づきだろうか。あの日はジョブズも蝶ネクタイをして、アタッシュケースからMacintoshを取り出している。ジョブズの場合は、ポケットからフロッピーディスクを取り出し、それをMacintoshに入れると映像が再生されたのだが、今回はその流れをなぞったものだったよう。コンピューター史に造詣が深い、清水氏ならではの、気の利いた演出だ

■『enchantMOON』がコンピューターを進化させる

 清水氏が創り出す『enchantMOON』は、単なる手書きタブレットに留まらない。コンピューターそのものをシンプルに変えていこうというものだ。そのキーワードが“ハイパーテキスト”と“アーティクル直交化”だ。

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 清水氏によると、「ハイパーテキストをこれだけの多くの人が使っているにも関わらず、ハイパーテキストそのものを作る方法については顧みられたことがない。ハイパーテキストを作る環境は未熟である」と語る。

 つまり、パソコン創世時に考えられた、文章と文章をリンクさせる優れた概念であるにも関わらず、未だに成熟されていないのがハイパーテキストだという。実際にハイパーテキスト、つまり文章と文章とのリンクを作るには、HTMLやCMS、Web作成ツールで文章のURLをコピーアンドペーストしながら手順の煩雑な作業で作っているのが現状。これをよりシンプルに使いやすくするための道具として作られたのが『enchantMOON』であり、『enchantMOON』は、Webの任意の場所を丸く囲むだけでスクラップとしてノートに貼り込んだり、特定の部分を囲むという直感的なペン操作だけで、ハイパーリンクが実現できる機能を搭載している。

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 UEIは、2003年の創業時からこのハイパーリンクの課題に取り組んでおり、iモード用PIMアプリ『UBiMEMO』やiPad用ノートアプリ『Zeptopad』をリリースしている。また、同社がNECの2画面タブレット端末用に開発したノートアプリ『Zeptopad FOLIO』は、『enchantMOON』のプロトタイプともいえる存在だ。こうした歴史を経て、さらにシンプルに、かつパワフルに使える端末を目指して作られたのが『enchantMOON』なのだ。

 ソフトウェア・ハードウェア共にUEIが10年取り組んできた活動が実を結んだひとつの形といえるだろう。イベントでは、UEI社が取り組んできたHTML5 + JavaScript フレームワーク『enchant.js』も、『enchantMOON』をより使いやすくカスタマイズし、プログラミングの力で新しい世界を作っていくための布石だったことも明かされた。搭載されている“前田ブロック”と呼ばれるプログラミングツールは、『enchant.js』がベースになったものとなる。

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 また、『enchantMOON』では、従来のアプリとデータの関係やファイルシステムをも変革しようとしている。

 従来のPCやスマホのアプリとデータの関係は、アプリ専用に作られたデータを入出力するという形だったため、どうしてもアプリが主体でデータはそれに従うものだった。この場合、アプリ間でのデータ連係やデータ同士のリンクはどうしても煩雑でやりにくくなる。それに対して『enchantMOON』では、アプリとデータを完全に独立させ、形式の決まったデータが上位のものとして存在し、アプリはそれを編集するための機能を提供するものとして機能するのだ。

 つまり、『enchantMOON』では、ペンで書いたノートのデータがまずあり、それを加工するためにカメラのアプリやWebブラウザがある。こうすれば、データはまとまった単一形式になるため、アプリはそのデータを入出力できるように仕様を合わせて作ればよく、データ同士のリンクやアプリでの活用がやりやすくなるというものだ。“この仕組みでどのようなアプリが有効かはまだ分からないが、この“分からないからこそ”の面白さに対してチャレンジし、Apple2用の表計算ソフト『VisiCalc』が登場したときような革命を起こしたい。と清水氏は語った。

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 さらに、現在のコンピューターで当たり前に使われている“ファイルシステム”という概念すらも変える必要があると清水氏は語る。データがファイルやフォルダーといった単位に縛られるのではなく、データが持つメタデータ(データの作成者やタイトル、作成した場所の位置情報などそのデータが持つ属性情報)によって管理すべきだ、というのだ。

 このメタデータが集まった最小単位を清水氏は“アーティクル”と呼んでおり、アーティクルを任意の順序や任意の取り出し方で取り出せれば、より広く大きなデータの活用が可能になるのではないかと考えているようだ。これを清水氏は、“アーティクル直交化”と定義づけている。

 例えば、今までのファイルシステムでは、ツリー状のフォルダー構造とディスク上のどこにファイルが記憶されているかを参照してデータを取り出していたが、“アーティクル直交化”では、フラットなデータの集合から、メタデータを頼りにデータを入出力していこうというものだ。このため、“『enchantMOON』はPCに接続すると、0Sを構成するファイル構造が、メモリーの内部構造がそのままUSBに入ってるような感じになっている。”とのこと。これは、PCとの連携を取るため従来のファイルシステムを使いつつも、ツリー構造に頼らない“アーティクル”を使ったファイルの入出力を実現しているのが理由だ。

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↑『enchantMOON』を作り上げたUEIのスタッフ。左から、OS上で動作するアプリ部分の開発を担当した布留川氏、『enchantMOON』の基幹部分とも言えるOSレイヤー部『サターン5』の生みの親である濱津氏、ソフトウェア企画とUI全般を担当した辻氏

■あらゆるものがコンピューター化する

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 最後に『enchantMOON』の今後についても語られた。

『enchantMOON』はまず来週を目処に若干のアップデートを行ない、2013年夏と冬に、大きなバージョンアップをする予定だ。また、8月には開発者向けのイベントも行われ、さらなる次世代機の開発も視野に入れている。

 その先の未来について清水氏は、“10年以内に机と壁とあらゆるものをコンピューターにしていく”と語った。その予想図(イメージカット)は机や壁がモニター化しており、『enchantMOON』搭載のOS『MOONPhase』が動作している様子を描いている。

『enchantMOON』は、現行で売られているスマホやタブレットから見れば、CPUがシングルコアの非力なパーソナルコンピューターだ。しかも、アプリ面ではメーラーすらなく、機能が極限までに絞り込まれている。しかし、それに込められた思想やチャレンジ精神は、パーソナルコンピューターの未来を見据えた先進的なものだ。

 清水氏は発表会のなかで、「我々は今日、ソフトウェア会社からコンピューターの会社になりました」と語った。“コンピューターの会社”になったUEIが今後『enchantMOON』をどのように育てていくか、どのように開発コミュニティが育っていくのか、注視していきたい。

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