2013年05月10日20時30分

東京カレー日記ii by 遠藤諭

本屋とファンディングとバーチャルマネー

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 旅行で楽しいのは書店めぐりをすること。その国の言葉がまるで読めなくても、本屋さんに行くと「おーっ、こんな本が読まれてるんだ」とか、「この本の原著ってこんな装丁だったとは!」とか、お店の雰囲気や棚にささった分類板や書店員をウォッチングするだけでも楽しい。過去、5回ほど出かけているのに(デジカメ画像でわかった)、あまり自由時間がなくて行けなかったサンフランシスコの書店をいくつか訪ねてみた。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑2011年に閉店したBORDERSだがグーグル・ストリートビュー ではまだ見れる。

 いままでサンフランシスコで行ったことのある書店といえば、ユニオンスクエアに隣接するBORDERS、ビート文学で有名なCity Lights、はるか昔にComputer Literacyというコンピューター書の専門店くらいしかない。そこで、今回は、西海岸カルチャーを堪能すべくヘイトストリートやミッション地区というあたりを中心に歩いたのだが、いちばん印象に残ったのは、Adobe Booksという小さな書店だった。ちなみに、Adobe(アドビ)というのは日干しレンガのことで、IllustratorやPhotoshopを売っているアドビ システムズとは関係ないはず。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑アドビ書店外見。隣の古着店IDOLは制服や帽子など'80年代渋谷に通ずるセンスでよろしい。

 サンフランシスコのダウンタウンを横断するマーケットストリートから少し南におりたミッション地区。1キロ四方に満たないエリアに、アートやら料理やらヘイトストリートのヒッピーカルチャーとはまた異なる文化が集積している。そこの外れにある、一見、駅前本屋さんくらいの小さな間口の書店が、Adobe Books。ところが、一歩店内に踏み込むと、奥行きがあり天窓からカリフォルニアらしく書店には十分な光がとりこめている。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑店内は思ったより奥行きがあって結構な蔵書量。

 私が好きな書店といえば、台北にある誠品書店(敦南店=信義旗艦店ではないのでねんのため)で、代官山の蔦屋書店が参考にしたといわれるが、誰かが頭のなかでデザインしたのではないだろうやすらぎ感とワクワクの融合もいいものだ。書棚の上のボール紙の手書きのコーナー表示やちょっとした置物、壁面上の落書きみたいな系統樹みたいなのもカッコいい。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑天井がガランと高くて昼は照明不要な作りがいい。

 本を読み散らかしたままみたいな雑然とした店内なのだが、ゆったりとした椅子がいくつか置いてあって、オヤジがずっと本を読んでいる。しかし、このなんともゆるすぎる感じで「ちゃんと経営していけるのか?」とまあ雰囲気がいいだけに心配になるわけなのだが、店内にこんな貼り紙がありました。米国のクラウドファンディング(Croud Funding=群集による資金集め)サイトのIndiegogoで寄付してねと書いてある。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑寄付募集中(実際にはこのキャンペーンはもう終了しているのだが)。

 ネットで調べてみると、やはりこのAdobe Books、写真やグラフィック系の人たちの間では有名な書店だそうだ。10年間、この分野のファンやアーチストたちのサロンでもあり、活動の場でもあり、もちろん書店として機能してきた。ところが、今年になって財政的に限界まできてしまい、ネットを通じて寄付を集めることになった。Indiegogoで「Save Adobe Books」というキャンペーンを立てたのだ。

 「成立しなかったら、お店をたたむだけ。とてもシンプル。助けて!」というコメントとともに、6万ドルの寄付を集める目標でスタート。これに参加した人(クラウドファンディングではBackerという)は、最終的に約600人。彼らへの見返り(Pledge=契約という)は、10ドルで、寄付者として名前公表から、バッジやTシャツ取得、イベント開催など、最高5000ドル払った人もひとりいたとある。

 そして、キャンペーン終了の3月半ばまでに、6万1344ドルを集めてファンドは成立することができた。そして、ここは立ち退かなければならないため6月に閉店して、同じミッション地区に新しい店舗をオープンするということらしい。私は、新店舗への移転を待っているなんともいえない期間に訪れてしまったわけなのだ。そういわれると、少しずつお片づけが始まっていた感じでもある。なお、Adobe Booksは、Indiegogoのほかに、Bitcoinというなにかと話題になるP2P型のバーチャルマネーでも寄付を集めている。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑IndiegogoのSave Adobe Booksのページ。ぎりぎり6万ドル(!)達成。

 たぶんこれは、世界的な紙の本と書店の世界に対する厳しい状況とは無関係なところで起きているお話だ。日本のあなたの身の回りにも、Adobe Books以上に枯れきっていい味の出ている駅前古書店だってあるだろう(文京シビックセンター近くの東亞堂書店とか)。Adobe Booksも、新しくオープンする店舗はきれいだそうで、そちらのほうがいいに決まっている。ましてや、海の向こうでつぶれそうな書店をみんなが寄付で助けたという話をここでしても、「よかったね」という程度の話なのだとは思う(IndiegogoやBitcoinといういまの時代ならではの手段がとられたのはそれでよい話だが)。

 それでも、旅先での書店巡礼者の楽しみは、大量の文字が堆積していて(もちろん文字だけでなくて写真や絵もあるが)、行儀よく並んで誰かが手にとって開かれるのを待っている本との出会いを感じることなのだ。ついでながら、私のなかでは、こういう本屋さんのこととか、ZINE(米国の同人誌みたいな薄い本の世界)とか、プログラミングとか、ましてやウェブやアプリでなにかをやらかすとかいう話は、心のどこかで同じ一本の線の上にあるわけなのだが。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑米国の書店は書棚の上が結構楽しい。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑こういう棚の間に寄りかかって読むのがいいんですよね。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑ゆっくり本が読めるソファー。寝ながら読んだら怒られるか?

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑入り口の上はディスプレー兼物置(?)。傘を壁に飾る?

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑お店の奥、トイレの入り口あたりはギャラリーになっている。

本屋とファンディングとバーチャルマネー

↑サンフランシスコはミッション地区にあるAdobe Booksは、本と光と手作りっぽい棚とソファーがいい感じだった。

●関連サイト
Adobe Books Backroom Gallery

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
角川アスキー総合研究所ゼネラルマネジャー。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、1万人調査“メディア&コンテンツサーベイ”のほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。東京カレーニュース主宰。TOKYO MX TV 毎週月曜日18:00からのTOKYO MX NEWS内“よくわかるIT”でコメンテーターを務め、『週刊アスキー』で“神は雲の中にあられる”を巻末で連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

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