前回の音楽関連のスペシャルイベントから1ヵ月あまり。Appleは再びスペシャルイベントを開催した。場所は、Apple社の敷地内にある講堂。満員の聴衆を前にしてスティーブ・ジョブズは、「ご承知の通り、今日はノートマシンについての発表だ」と言った。事前にメディア関係者に送付された招待状に「The spotlight turns to notebooks.」と書かれていたからだ。
このイベントの発表内容は、以下の3つ。
(1)Mac製品の動向(ティム・クック)
(2)新型ノートMacのデザインについて(ジョナサン・アイブ)
(3)新製品の詳細紹介(スティーブ・ジョブズ)
「まずはMac製品の業績について説明してもらおう」とやや早口でまくし立てると、ジョブズは開始1分ほどで壇上を降り、同社COO(最高執行責任者)ティム・クックにステージを譲った。
■iPhoneだけでなくMacも好調であることを力説
直近の四半期の売れ行きを見ると、直近の四半期におけるPC業界全体の伸び率が十数%であるのに対し、Macはその2〜3倍伸びている。クックはその理由として、Macがハードウェア・ソフトウェアともに優れていたことや、路面店のApple Storeの成功などを述べた。さらに、少し前にリリースされたWindows Vistaの評価が芳しくないことも関係していると述べ、観衆を笑わせた。
また、教育市場においてMacが大きくシェアを伸ばしていることも強調。教育機関におけるシェアは39%上るとし、大学の教室がMacを持った生徒で埋まっている写真も披露した。Macのラインアップ全体の動向を語ったクックは、プレゼンターを再びジョブズへと交替。ジョブズは、「さて、ノート型マシンの話に戻そうか」と言い、今度はデザイン担当上級副社長のジョナサン・アイブに話者をバトンタッチ。「我々は新しいノートマシンの組み立て方を編み出したんだ。それをアイブに説明してもらおう」と述べた。
■ユニボディーの魅力をアイブがプレゼン
Appleのこの種の講演で、ジョナサン・アイブが生で出演することは極めて珍しい。新しいノート型Macは、きっとデザイナー自らが解説すべき画期的な製品なんだ、と観衆は思ったはずだ。英国訛りの口調で、アイブは従来のノートマシンの構造を説明し始めた。従来のMacBook Proは、アルミダイカスト(鋳造)のフレームを骨組みとし、それをプレス成形されたケースで覆っていた。その手法では、構造が複雑にならざるを得ず、従って本体の重量や厚さといった面で不利となる。
MacBook Airを設計した際に、この問題に対するブレークスルーを得たんだ、とアイブは言った。堅牢性を保ちつつ、ボディーをより薄く・軽いものにするにはどうしたらいいか? それには、1枚のアルミの板からケースとフレームが一体化した構造を、コンピューター制御された機械によって削り出しで成形する。すなわちこれが、高精度・高剛性・超軽量を実現する「Unibody」(ユニボディー)構造であると。
■新製品群を紹介するのはやはりジョブズ
ユニボディーの説明が終わったところで、アイブはあっさりと壇上を降りた。皆が期待している新製品を披露するのは、やはりジョブズ本人というわけだ。しかし、世界屈指の焦らし男であるジョブズは、いきなり真打ちを取り出したりはしない。まずは、nVIDIA製のチップセット内蔵GPUの新製品「GeForce 9400M」を紹介。16個のグラフィックスコアを内蔵し、従来製品より最大で5倍速いとかなんとか。そんなのはいいから新製品を早く見せてくれ! と観衆はフラストレーションを募らせていく。
続いての話題は、ノートマシン用の新しいトラックパッド。トラックパッド全体がボタンになっていて、マルチタッチ対応。つまり、現行マシンが搭載しているのとほぼ同じものが、この時初めて披露されたのだ。でもこんな話は前振りでしかないのは皆わかっている。「4本指ジェスチャーに対応」したなんて話はいいから早く〜、という気持ちにさせられる。
■新型MacBook Proほかニューモデルを披露
そしてようやく、15インチMacBook Proのニューモデルが紹介された。もちろん本体はユニボディー構造だし、新しいグラフィック機能やマルチタッチのトラックパッドを搭載しているよと。それがどんなものかはさっき話したよね、という具合だ。さらに次の製品紹介に入るかと思いきや、ジョブズはここで話をユニボディーに戻してしまう。ユニボディーは高精度で高剛性なのに、パーツ数は従来の約半分なんだぜと、という話を始める。
しかも、新しいMacBook Proに使われているユニボディーフレームのサンプルを取り出し、同じものを観客にも手に取らせ、どうぞその目で確認してくれと言ったのだ。今日のMac製品では当たり前になったユニボディー構造だが、当時いかにそれが画期的なものであたかがわかるエピソードと言える。
このとき面白かったのは、サンプルを観客全員が見終わるまで、壇上で手持ちぶさたにしているジョブズが、若干イラついているような表情を見せたことだ。時間にしてみればほんの2分程度なのだが、最後のほうになると、冗談交じりではあるが「急いでね」と2回も催促した(ビデオの25分30秒あたりから)。Appleの社内には、ジョブズを2分以上待たせる人などいないのだろう。そう感じさせる一幕だった。
スピーチを再開したジョブズは、MacBook Proの詳細スペックにつづき、MacBook Airのアップデート、24インチのLED Cinema Display――を次々と紹介していった。
■「One More Thing」はMacBook
LED Cinema Displayを説明し終えたジョブズは、「今日紹介する製品は以上……と言いたいところだが、もうひつだけある」と言った。いわゆる「One More Thing」というやつだ。ここで紹介されたのが、「新世代のMacBook」として登場した、アルミ製のユニボディーを採用したMacBookだ。知らない人は、「えっ、それって13インチのMacBook Proじゃないの?」と思うだろう。実際、15インチのMacBook Proをそのまま小さくしたような製品だったので、「Pro」名乗ってもおかしくないように見えた。ただし、高速な外部インターフェースであるFireWireを搭載しないなど、エントリー向けの仕様であったことは確かだ。
決して悪い製品ではなかったが、やはり市場でも混乱を招いたようで、Appleは後に、ポリカーボネート製のMacBookを復活させることになる。また、このアルミ製MacBookの後継製品は、FireWireポートを搭載し、MacBook Proシリーズの最下位モデルという位置づけとなる。Appleにしては珍しい、製品そのものではなくそのカテゴリー分けに失敗した事例と言える。
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