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「お笑い」から考える企業コミュニケーション

2013年04月05日 14時30分更新

 「ボケ」と「ツッコミ」が掛け合うお笑い的なやり取りに注目して、企業コミュニケーションをあり方を考察した一冊『ツッコミュニケーション』(アスキー新書、関連サイト:Amazon)が4月10日に発売予定。その著者で、博報堂のコピーライターであるタカハシマコトさんに、ネット時代のコミュニケーションについて伺った。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
お笑いコンビ・アメリカザリガニの平井善之さん(右)と。正式なコンビのように見える!? ちなみに撮影場所は、松竹芸能の劇場「新宿 角座」。

 なお、同書の発売記念トークショーが、4月11日に東京・下北沢にて開催。アメリカザリガニのボケ担当・平井善之さんをゲストに迎えるトークショーの詳細は、本インタビューの後に掲載しているのでぜひ参照してほしい。

 

■コミュニケーションのヒントは「ボケとツッコミ」の掛け合いの中にある!?

――そもそも「お笑い」と広告コミュニケーションにどんな関係があるのでしょうか?

タカハシ 僕は仕事柄、お笑い番組を担当したり、一緒に飲んだりするお笑い芸人さんもいます。そこで一度、お笑いというものを体系立てて調べてみたら、とても面白いことに気がつきまして。

 それは、日本のお笑いはボケがツッコミを進化させているという点ですね。本書でも対談させていただいたニュースサイト「お笑いナタリー」の遠藤編集長もおっしゃっていたのですが、ダウンタウンの浜田雅功さんのツッコミを進化させたのは、ボケ役の松本人志さんであると。そして、浜田さん自身がツッコミを進化させ、それがさらに視聴者、後輩の芸人さんのボケ&ツッコミも進化させていく。人とのやり取りの中で、ボケがツッコミを育て、ツッコミがボケを育て、さらに視聴者との関係で育っていくというのは、面白い現象だなと思いました。

 ひるがえって広告はどうなのかと。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
著者のタカハシマコトさん。カンヌライオンズPR部門銀賞、TCC審査委員長賞(2012年)などの受賞歴をもつ。

 僕は、広告が必然的に持っている「見ろ!」という性質の延長線上にある、ある種閉じた形の中に広告が留まっているというのは、やっぱり進化に繋がらないのではないかと思いますね。状況が変わっていくことに対してどう変化、対応していくかという課題は、たぶん広告とコミュニケーションを育てるんじゃないかな、と思います。適切なタイミングで、気の利いたリアクション(ツッコミ)をすることで、企業や商品などが世の中に受け入れられ愛されるのではないでしょうか。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
お笑いナタリー編集長の遠藤敏文さん(右)と。

――それでタイトルを「ツッコミ」と「コミュニケーション」で掛け合わせたんですね。

タカハシ 広告は基本的にはリアクションではなくアクションです。クライアントから頂いた「お題」に対して、ゼロから作るということをやっている。僕はずっとマス広告コピーライターをしていましたが、ここ2、3年、ネットを担当することになって、自分のことをちょっと変わったな、と思うようになってきました。

 具体的には、僕がかかわった東北の日本酒や産物を通じた復興支援「ハナサケニッポン」というプロジェクトや、ニュースサイト「瞬刊!リサーチNEWS」を思いついた時に思った「ネタは世間が提供してくれる」という実感です。「ハナサケニッポン」に反響があったのは、世の中が自粛ムードに包まれていたからこそですし、旬の話題に対してデータでツッコむことをコンセプトにした「瞬刊!リサーチNEWS」も、世の中からの定期的なネタ振りを活用しています。

 ちなみに最近「瞬刊!リサーチNEWS」でPVが伸びたのは、“消費者庁の育休で昇給&昇進に反対48% 「独身どうすんだよ」”という記事で、このアンケートでは賛成42%、反対48%でした。このように意見が拮抗するときは記事のPVが伸びます。

 ネタによって、それに対するツッコミの仕方は発想力だと思うんですけれども、コミュニケーションにかかわる人は、みんなそれぞれ強みを持っていると思うんです。これは動画でツッコもうとか、これはニュースリリース一発にしよう、ツッコミを元にキャラクターを作ろうとか。こんなツッコミを受けたから、企業や商品の名前を変えることでツッコむとか。つまりリアクションを考えるということです。

 こんな風に企画を考えると、アイデアが思いつかない「スランプ」ってなくなると思うんです。状況のほうが勝手に変わっていくので、俺もう書けない! と思い悩むことがない。貧乏性というんでしょうか、世の中に落ちているネタを拾いたくなるというか。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
編集者/PRプランナーで、「瞬刊!リサーチNEWS」の編集長を務める中川淳一郎さん(右)と。中川さんも博報堂出身だ。本書でも対談している。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
タカハシさんが関わっている「瞬刊!リサーチNEWS」。

――「ツッコミ」は「リアクション」であると。

タカハシ 今回4人の方と対談させて頂きそれぞれ大変面白いお話が聞けたのですが、強く印象に残っているのはやはりプロの芸人さんであるアメリカザリガニの平井善之さんですね。本書中にも載っていますが、「ツッコミがスベるときがある」という話。平井さんによると、ツッコミはボケの「一番変なところ、面白いところ」を見つけ、観客に提示=リアクションするのが役目であると。

 それはたぶん、コミュニケーションにかかわるどの場面でも一緒だと思います。お笑いの場合、テレビだったら、面白くないところにツッコんだ芸人さんはその場面はカットされてしまうでしょう。CMでも15秒の中でツッコミ方が変だったり提案が変だったら、視聴者には「え、なんで?」という風に思われちゃう。

 CMはツッコミではないですけれども。でも元ネタは世の中やユーザーのほうにあり、それに対するツッコミだと解釈すると、本当に一番面白い変なところ、一番いじってほしい点ではないところにツッコむと反発を呼ぶと思いますし、芸人さんは常にそこを意識されていると思います。ああいう反射神経というのは本当に学ぶべきところがあるなと思いましたね。

 もちろん、世の中にはバラエティ番組が嫌いな方もいると思いますけれども、芸人さんというコミュニケーションのお手本が身近にいろんなバリエーションでいる日本のテレビって、意外と捨てたものでもないんじゃないかなあと、と思います。


■CTO(チーフ・ツッコミ・オフィサー)を設置しよう

――自社製品やサービスにユーザーから反応があったとしても、会社という組織にいたら臨機応変に対応するのは難しいですよね。

タカハシ 多くの会社では、業務についての内容をツイッター等で発信することは禁じられているでしょう。また、仮に企業アカウントが設置されていたとしても、いわゆる「中の人」は1人という例もありますよね。しかしこれでは、世の中からのネタ振りに、適切に対応できません。

 そこで本書では、ツッコミュニケーションという武器を「常に備えておける人や組織」になるための提案してみました。それがCTO(チーフ・ツッコミ・オフィサー)です。要は危機管理やトラブルの対応にとどまらず、世の中の話題にいち早く目をつけ、リアクションを企画・運営・統括する責任者を置く、ということです。

 CTOは広報部長とは異なり、例えばニュースリリースなら発信者を社長にして広報部を動かす、ソーシャルメディアなら担当する「中の人」に依頼する、映像を制作するならクリエイターをアサインするなど、すべてを判断し指揮する立場。こうすれば、各部署や個人の役割や得意分野を活かしながら、ひとつの統一された方向性でコミュニケーションが取れるのではないでしょうか。

 実は僕自身、大企業の中にいる葛藤があります。組織全体が変わるのは無理かもしれませんが、そのパイロットケースにできないかと思います。組織としてすぐ世の中に対応することが仮にできれば、そういう部署はたぶん得意先にも世の中にも、優秀な切り込み部隊になるんじゃないかな、と思います。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
フィンランド大使館Twitterの“中の人”ことフィンたん(左)。本書では、多くのフォロワーを擁するフィンたんの秘密にも迫った。

――各部署や個人の得意分野を活かしながら、というのが肝ですね。

タカハシ はい。そうすれば、優秀な若手社員たちは、辞めなくて済むんじゃないかと思いますね。というのも、大組織のしがらみや足かせに対応できない、もしくは対応するのがイヤになって会社を辞めてしまう人達を何人も見てきましたから。

 組織って目的に応じて出来るもので、たぶん、上意下達ではなく、思いついた人や達成した人にビジョンがあり、それに共感してくれる人が集まって、事案をどれだけ達成しようと思うかが組織の強さだと思います。生活者と対話をしていこうとなると、各企業の中でこういう小さなユニットが出来ていくんじゃないかな、と思いますね。

 このような組織、ユニットの成功例が本書でも紹介した『オレオ』のツイートです。2013年2月4日の「スーパーボウル」ではハーフタイムショー後すぐに停電になり、スタジアムのほとんどの照明が消えるアクシデントがありました。

 ところが停電から16分後、チョコクッキーの『オレオ』公式ツイッターアカウントが「YOU CAN STILL DUNK IN THE DARK.(暗闇だって、オレオをミルクに浸せるでしょ)」という画像付きのツイートを流し、1万5948回のリツイート/6035件のお気に入りされたのです。Facebookでも2万を超える「いいね!」がついたそうです。

 オレオの対応の素晴らしさというのは、15人の職種の違う人達(戦略家、コピーライター、アーティストなど)があらゆる状況に対応できるよう集まっていたことでした。広告主と担当代理店の人間が、おそらくスーパーボウルを楽しんでいたと思うんですよね、みんなで見ようぜ、と。停電のときに全チームメンバーがその場にいて、アクシデントを即座に活かすことができた。日本でもそうしようという人がでてくるかな、と期待しています。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
インタビュー中も表情豊かなタカハシさん。お笑い芸人の知り合いも数多い。

■ツッコミ役の隣には、必ず相方のボケ役がいる。生活者は「観客」ではなく「相方」

――ネットを使いこなすようになって、状況がスピーディに変化するのと同時に、公と私の区別がつきにくくなっていますよね。

タカハシ はい。僕は担当クライアントの宣伝担当の方とFacebookで直接つながっていたりするんですね。すると、営業を通さずに、直接Facebook経由で連絡がきたりします。「ちょっと相談があるんだけども」とか。

 企業の中の方に特に提案したいのは、例えばですが、このクリエイター面白いな、とか、このソーシャル担当者は面白いと思ったら、営業を通して会社へというルートを取るよりは、まずはSNSなどで直接つながってみてはいかがでしょうか。そんなの嫌だと思う人ももちろんいるはずですが、直接つながっていると、彼らが気にしている、あるいは拾っているネタが、だんだんと自分の生活の中に入ってくると思うんです。それを「公私統合」すればいい。

 この本を書くにあたり、いろいろな本を読んで公私統合という言葉を思いつきました。僕自身も家に帰ればいち生活者ですし、会社とは違う、家族との時間や趣味を持つ「多様な生活者」でもあります。すべてを一元化する「公私混合」ではなく、自分の中に蓄えられた「異なる視点や感覚」をアイデアにしてみようと考えると、生活者とのかかわりも、少し変わってくるのではないでしょうか。

アスキー新書『ツッコミュニケーション』
アスキー新書『ツッコミュニケーション 生活者を「相方」にするボケとツッコミの広告術』

 広告主さんは広告代理店よりずっと大きな企業であることも多いでしょう。だから、世間の状況に対応するスピードは、さらに遅くなる可能性がありますよね。企業の中でコミュニケーションの担当をしている方、顔になる方たち、顔を作る人達は、ご自分ひとりひとりが引っ張ってスピードを上げるためにはどうしたらいいのか、そのためにはソーシャルでつながる意識をされてもいいのかな、と思います。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

タカハシ 僕と同じように、広告に限らずネット系ウェブ系をやっている方は、おそらく共感をもって読んでいただけるのではないかな、と期待しています。

 一方で、僕の出身でもあるマス広告にかかわる人たちには、あまり悩まないでほしい、と思っています。本書の後半でマス広告のカバー、リーチ率はやっぱりすごい、と書きました。が、それを従来のクリエイティブのように「マスが決まったから、ネットチーム呼ぼうぜ」という人もまだいると思うんですよね。なぜ一緒に走らないんだろう、本当に効果があるんだろうか、と思っている若い人達もいると思うんです。

 そういう人達には、悩まなくていいよ、世の中からのネタ振りは沢山あるんだし、とか、「相方」である生活者との掛け合いを考えて企画しようよ、閉じたり悩んだりしなくていいんだよ、というのはこの本のメッセージではありますね。

 そういう意味では、マス広告の人の反応は伺ってみたいと思います。

 つまりは、どれだけ気持ちをオープンにできるか、ということじゃないかと。言葉を考えられる、ストーリーを考えられる専門性って、ネットに落ちているネタをすごくよく知っていてリアクション上手なソーシャル担当者と組んだらもっと活きるはずだし、彼らが思いついてツイッターの中の人として発信していたのが、それを受けてマス広告を作るようになったらもっと広がると思うんですよね。それは各企業のソーシャル担当者の方も同様だと思いますし、そのお手伝いができればと思います。

 

Amazonで購入


発売記念トークショーを開催します!

『ツッコミュニケーション』の刊行を記念して、本書の対談でも登場している、漫才コンビ・アメリカザリガニのボケ担当、平井善之さんをゲストに迎えトークショーを開催する予定です。ぜひご応募ください。

日時
4月11日(木)

時間
20:00~22:00(19:30開場)

場所
本屋B&B

入場料
1500円+1ドリンク(500円)

詳しくはこちら
『ツッコミュニケーション』出版記念トークセッション タカハシマコト×平井善之(関連リンク)

ツッコミュニケーション
このポスターが『ツッコミュニケーション』の目印!

●関連サイト
タカハシマコト氏 Twitter @makomodake
復興支援プロジェクト「ハナサケニッポン」
ニュースサイト「瞬刊!リサーチNEWS」
お笑いナタリー
アメリカザリガニ ヒライ公式ブログ

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