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Windows情報局ななふぉ出張所

OS標準の地図アプリ問題について考える

2012年12月19日 17時00分更新

 12月13日、iOS向けのGoogleマップアプリが公開され、再びiOSの地図問題に注目が集まっています。そこで今回は、Windows8やWindows Phone 8を含めた、スマートデバイスの地図について考えてみたいと思います。

■スマートフォン選びの基準に“地図”が急浮上

 iOS6が登場する以前から、地図はスマートフォンにおける重要なアプリのひとつでした。しかし、iOS6において標準の地図アプリがアップル独自の地図に置き換えられたことをきっかけに、スマートフォンと地図についての関心が大きく向上したという印象があります。

OS標準の地図アプリ問題について考える
↑iOS6の標準マップ(左)と、ついに公開されたiOS版Googleマップアプリ(右)。

 iOS6から採用された新しい地図は、見慣れたGoogleマップとビジュアルが異なるという点だけでも、違和感を覚えるものです。それに加えて新しい地図は情報量に乏しく、表示のずれや、“パチンコガンダム駅”のような明らかな誤情報が混入したことにより、ネット上で大きく情報が拡散しました。

 この騒動の結果、iOS6へのアップデートを意図的に見送るユーザーが増加したとか、中古市場でiOS5のままのiPhone4Sが高値で取引されているといった声も聞かれます。Googleマップを目当てに、Androidへの機種変更を検討したiPhoneユーザーも少なくないでしょう。英On Device Researchが9月27日に公開した満足度調査(外部サイト)では、iOS6のスコアがiOS5に比べてわずかながら低下したことも話題となりました。

 iTunes App Storeには多くの地図アプリが公開されており、標準の地図アプリ以外にも選択肢は用意されています。ウェブブラウザーからGoogleマップを表示することも可能です。しかしこれほど問題が大きくなった背景を考えると、標準の地図アプリが別格の存在であることがうかがえます。“連絡先”から住所を開いたときや、ウェブサイトから地図を開いたとき、呼び出されるのは常に標準の地図アプリです。

 このことから、最新機能を実装したGoogleマップアプリが提供された後も、iOS標準の地図に関する不満が根本的に解消することはないと考えられます。

■Windows Phone標準の地図アプリはBingマップからNokiaマップへ

 iOSで地図に関する問題が話題となる一方で、Windows Phoneも悩ましい状況にあります。

 Windows Phone 7およびWindows Phone 7.5では、マイクロソフトのBingマップが標準の地図として採用されていました。しかし日本の地図については、Windows Phone 7が発売された2010年10月時点で、ほぼ白地図といってよい状態。Web版のBingマップとは明らかに異なる地図データが使われていました。

 この状態は、日本初のWindows Phone 7.5端末『IS12T』が発売された2011年8月時点でも改善されないままでした。その後少しずつアップデートされ、現在ではウェブ版のBingマップに近い地図が表示されるようになっています。

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↑IS12Tの発売後数ヵ月間は、左の状態だった。その後アップデートされ、現在は右の状態に。

 少しさかのぼること2011年2月、Windows Phoneについてマイクロソフトとノキアが提携したことにより、地図サービスについてもBingマップとNokiaマップの技術を統合する方向に進むことになります。現在のBingマップの一部の表示には、ノキア提供のデータが使われています。最終的にすべてのWindows Phone 8端末はNokiaマップアプリを標準搭載することになり、Bingマップを置き換えて、OS標準の地図アプリとなりました。

 しかしNokiaマップで日本を表示すると、非常に寂しい地図が表示される状態です。せっかくWindows Phone 7.5でアップデートを繰り返した日本ですが、再び振り出しに戻ったという印象を受けます。

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↑Windows Phone 8標準の地図における、東京(左)とロンドン(右)の比較

 もしこのままWindows Phone 8端末が日本で発売されていたとしたら、iOS6のような批判が浴びせられていたかもしれません。これでは日本でWindows Phone 8が普及するどころか、ブランドイメージを大きく毀損する可能性があったと筆者は考えています。

 たしかにノキアは日本市場から撤退しており、積極的に日本の地図を充実させる理由がないことはわかります。しかし日本在住の外国人や旅行者を中心に、Nokiaマップの日本地図がおかしい点は海外でも認知度が上がりつつあるようです。

■位置情報サービスのインフラとして重要性を増す地図アプリ

 Windows Phone 7.5や8では、Googleマップを使えるサードパーティーのアプリとして『gMaps』があります。gMapsは、機能的にもグーグル公式のアプリに匹敵するほど充実しています。しかし、やはり標準の地図アプリを代替するほどの存在ではありません。

 たしかに、単純に“地図を見たい”という用途であれば、サードパーティーの地図アプリで間に合うことも少なくありません。しかしスマートフォンにおける地図の役割は、位置情報サービスの進化と合わせて考える必要があります。

 たとえばWindows Phoneでは、7.5で新しく追加された“ローカルスカウト”がその顕著な例です(日本では未対応)。ローカルスカウトは、簡単に言えば現在地の近くにあるレストランやショップ、おすすめの観光スポットを一覧表示してくれる機能です。これらはBingのデータと連動しており、店舗の営業時間や連絡先、口コミのレビューまで一括で表示できる、優れた位置情報サービスとなっています。

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↑Windows Phone 8のローカルスカウト。現在地近くのおすすめスポットを表示する。
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↑営業時間や連絡先を素早く確認できる。口コミのレビューも。

 また、Nokiaマップが実装するルート検索、Nokia Driveによるナビゲーション、Nokia Transportによる乗り換え案内といった機能を実現する上でも、やはり地図は重要です。これらを運営するためには、道路や鉄道、レストランやショップの位置情報を含むデータベースを構築し、地図と連動させる必要があります。

 2012年2月のMobile World CongressでノキアCEOのステファン・エロップ氏は、スマートフォンにおける3つのキーワードとして「What・Who・Where」を挙げました。この中で「What(何を)」と「Who(誰と)」については、検索エンジンやソーシャルネットワークが答えを出してくれます。そこでノキアは、「Where(どこで)」の答えを出せる位置情報サービスの提供に注力するという方向性を示しました。日本の地図についてはさておき、Windows Phone 8におけるNokiaマップの採用は、まさにこの成果の表れといってよいでしょう。

■もうひとつの課題は、Windows 8との一貫性

 日本ではNokiaマップの日本地図が注目されがちですが、海外では別の問題も指摘されつつあります。Windows 8の地図との関係です。Windows Phone 8が標準の地図としてNokiaマップを採用したのに対し、Windows 8はBingマップを採用しています。

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↑Windows 8標準の地図はBingマップ。Windows Phone 8のNokiaマップとは異なる。

 Windows 8とWindows Phone 8を同時に利用することを考えると、これはユーザー体験に影響してくる問題と言えます。たしかにWindows 8はPCやタブレット、Windows Phone 8はスマートフォンであり、それぞれのデバイスで地図を利用するシーンは異なるかもしれません。しかし2種類の地図を使いこなすというのは、いかにも煩雑です。

 また、アプリ開発者にも少なからず影響があります。Windows 8アプリの開発にはBingマップのAPIを、Windows Phone 8アプリの開発にはNokiaマップのAPIを使うことになります。Windows 8とWindows Phone 8の間にアプリの互換性はありませんが、多くの開発技術を共有できることがセールスポイントのひとつです。しかし地図に関してはその限りではありません。

 今後のWindows 8とWindows Phone 8のスムーズな連携のためにも、一貫性のある地図アプリの提供に期待したいところです。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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