2012年12月10日16時30分

想いをつなぐ編集力

「好きを極める」の反対側、「苦手」について考える

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 前回は、何かのプロになっても「普通の人」の視点を持つことが大切だという話を書きました。今週は、それとちょっと関係しているのですが、「苦手」について考えてみたいと思います。


岡田斗司夫さんの人生相談は画期的!

 昨今、好きなことを極めることの大事さがよく言われます。ぼくもまったく賛成です。好きなことであれば、人よりもがんばれるし、だからこそ成果も出しやすい。競争が激しい時代ですから、そうでなければ人と差がつけにくいのは事実だと思います。

 ですが最近、苦手なことをやるのも意外に大事かもしれないと思うようになりました。

 きっかけは、岡田斗司夫さんの『オタクの息子に悩んでます』という本です。この本は、朝日新聞の人生相談コーナーに寄せられた読者の悩みに対しての回答をまとめたものなのですが、岡田さんの回答がほんとうに見事なのです。

 ぼくは悩み相談というジャンルが好きで、これまでいろんな相談モノの本を読んでいるのですが、この本は出色です。具体的な解決策だけでなく、質問した人すら気づかなかった質問者の真意を考え、意外性があっておもしろく、そしてとてもあたたかい内容で、感動して涙してしまうような回すらあります。論理的でおもしろくて、そして愛がある内容になっているのです。

 これはすごいことです。

 論理性だけの人生相談や、おもしろさが重視された人生相談、そして愛にあふれた人生相談など、個別の特長が際立った人生相談はありますが、すべてがそろっているものはいままでなかったと思います。

 本書の特長はもうひとつあって、相談と回答以外にも、岡田さんが回答をつくる過程もまとめられているところです。いわば、本編とメイキングがセットになった本なのです。読んでみると、岡田さんも最初は一般論で答えたくなったり、論理的に「上から目線」で答えたくなったり、いろいろ悩んでいます。そうして苦労して回答をつくり、最後に「愛をふりかける」ことで、すごい回答をつくりあげています。

 ぼくは岡田さんの『評価経済社会』という本の編集を担当したことがあります。いっしょに仕事をさせていただいたわけですが、人を「論理型」「共感型」に分けるとすると、岡田さんはかなり論理の側に寄った人だと思います。そして「共感」は、どっちかというと、苦手ですらあるのではないかと思いました(岡田さん、勝手にすみません!)。

「好きを極める」の反対側、「苦手」について考える

 「愛」を外向きに表現するのは、共感型の人の得意分野です。でも苦手な人が、ものすごく努力して考えると、それを超えうるんだなと、『オタクの息子に悩んでます』を読んだぼくは感動しました。苦手でも考えると、「愛をふりかける」ことができるようになるなんて! ちゃんと言葉にして説明できるのも、苦手なひとが、頭で考えて行ったからこそです。

 『もしドラ』の著者の岩崎夏海さんも、ものすごく論理的なひとです。人間関係とかはもともとあまり得意じゃなかったと思います。だからこそ、そこについて考えに考えて、ドラッカーの『マネジメント』に出会って感動し、『もしドラ』を書くに至ったわけです。苦手だからこそ、たくさん考えて、多くの人に伝えることができるようになるというのは示唆的な話です。


■天才は能力の組み合わせから生まれる

 cakesの連載に、脳科学者の茂木健一郎さんと物理学者の北川拓也さんの対談があります。その中で「才能というのは、脳の中でいろんな能力が組み合わさった結果」という話がでてきました(関連サイト:天才とは、特別に偏った才能をもつ人のことである|cakes(ケイクス) (※有料記事))。才能は、IQのような「狭い」指標ではなくて、能力の組み合わせの結果だというのです。

 ぼくはこの記事を読んで、岡田斗司夫さんの『オタクの息子に悩んでます』を読んだ時の「すごい!」という気持ちの理由がわかった気がしました。岡田斗司夫さんがもともとお持ちだった論理性や発想力に「共感」という力が加わったことで、人とまったく違う組み合わせになって、突出した表現になったのだと納得したのです。岩崎さんの『もしドラ』もそうです。

 この能力の組み合わせは、論理性と共感の組み合わせに限らないはずです。おそらく、社会の役に立って、他にいない組み合わせあればあるほど「才能」として表出するのではないかと思います。

 だから、苦手なことを避けたりあきらめたりせずに、たまには向き合ってみるのも悪くないかもしれません。得意なことを伸ばすのはすごく大事ですが、それ以外の力を加えて、より一層の飛躍を目指す手があるんだなと気づかされた一件でした。

 ではでは、今週はこのへんで。

【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。紙じゃなくなったので年末進行がなくなったはずなのですが……。

■関連サイト
cakes(ケイクス) クリエイターと読者をつなぐサイト
cakes公式ツイッター:@cakes_PR
株式会社ピースオブケイク公式Facebookページ

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